ダマスカス鋼の呼称問題


ダマスカス鋼の呼称問題

ダマスカス包丁は、『ダマスカス風の包丁』でしかない

そもそもダマスカス鋼とは、古代インドで製造されたウーツ鋼の別称であり、鋼材の名称です
インドにルーツがありながらも、「ダマスカス」と呼ばれているのは、この鋼材が、主にシリアのダマスカスで鍛造され、刀剣等に仕立てられたことに由来します

ダマスカス鋼で作った刀剣は、墨流しのような独特の模様が刃面に浮かび上がり、非常に特徴的な外観をしていました

現在「ダマスカス包丁」、もしくは「ダマスカスナイフ」として販売されているのは、このダマスカス鋼を再現したものではなく、外観をダマスカス風に似せて作ったものです

本来のダマスカス鋼は、製鋼時の結晶作用に起因するものですが、現状でダマスカスと称している鋼材は、異なる二種類の鋼材を積層することで、等高線のような模様を生じさせています
さらに、そのままでは鋼材の色の違いが目立たないため、酸洗処理やブラスト処理を施して、より魅力的な外観に仕上げています

つまり、現在販売されているダマスカス包丁は、本来のダマスカス鋼を使用した刀剣とは全く異なったものであり、外観をそれっぽく似せたものでしかありません

言ってみれば、ダマスカス風包丁という方が正しいのです

ダマスカス風の積層鋼材を、『ダマスカス鋼』と呼んでよいのか?

大手刃物メーカーの貝印は、一部例外はあるものの、『ダマスカス鋼』という名称を基本的に使用しておらず、『ダマスカス模様』と称しています
つまり、ダマスカス模様の積層鋼材はデザインであり、模様であるという立場を崩していません

ダマスカス鋼に似せた積層鋼材を、安易にダマスカス鋼と呼ぶメーカーの多いなか、この姿勢は、模範となるものだと言えるでしょう
他の刃物メーカーも、この姿勢を大いに見習うべきだと思います

繰り返しになりますが、外観をダマスカス鋼に似せた積層鋼材は、本来のダマスカス鋼とは、似て非なるものです
外観が似ているからといってダマスカス鋼と呼ぶのは、完全に間違っており、消費者に誤解を与えかねない問題行為です
同様に、そのような鋼材を使用した包丁を、ダマスカス包丁と称して販売するのは、一種の虚偽表示であり、『偽物』を売っていることになってしまいます

ダマスカスの呼称が、まかりとおる原因は?

例えば、色相と意匠を大島紬風に仕立てただけの、泥染めでない着物を「大島紬」と称して販売した場合、偽物を売っているとして消費者センターに通報されることでしょう
また、「カニかまぼこ」を「蟹肉」の表示で販売した場合も、表示が間違っているとして、消費者庁の処分対象となります

ですが、『ダマスカス包丁』については、このような話を聞くことはありません
大島紬とは異なり、「ダマスカス鋼」の権利保持者が存在しないため、被害を受ける他の生産者が誰もいないからです
そしてまた、カニカマとは違って、偽物について消費者の理解が深くないため、消費者側からのクレームが上がらないからでもあります

このように、現状でダマスカスの呼称がまかり通っているのは、「生産者側に被害を訴える人がいない」、「消費者側の知識が不足しており、そもそも偽物だという認識にも乏しい」という2つの主要因によるものです

刃物メーカーは、このままダマスカスの呼称を続けて良いのか?

ここで重要なのは、商標被害や権利侵害を訴える人が誰もおらず、消費者側も何もクレームを付けてこないからといって、「ダマスカス」という呼称で販売し続けて良いのか?ということです

「やったことは間違っていたかもしれないが、誰も迷惑していない。だから問題はない」という理論はおかしいですし、
「偽物を販売したかもしれないが、買う方も、本物とは違うと判った上で購入している」…というのは、犯罪者にありがちな道理であり、通るものではありません

安易なダマスカス呼称は、(売り上げのためとはいえ)あまりにも倫理を欠いていると言わざるを得ず、まともな企業体のすることではありません

「刃物用鋼材に詳しくない消費者の無知につけ込み、偽物を販売している」と非難された場合、なんと言葉を返すのでしょうか?
自社イメージの毀損につながる前に、早急にダマスカスの呼称を改めた方が良いのではないかと思います

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