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貝印 関孫六10000CL - ユニークなハンドル形状

最終更新日: 作者:月寅次郎

ハンドル形状は、使いやすさを左右する

材質は、白木に見えて積層強化木

10000CLのハンドルは、一見白木のように見えますが、実は積層強化木になっています

強化木というのは、木材にフェノール樹脂を浸透させて作るのですが、おそらく透明な樹脂を使用しているのでしょう
白木の美しさが失われておらず、実にスタイリッシュな仕上げになっています(通常の積層強化木は、黒色の樹脂を浸透させているので、真っ黒い木材のように見えます)

包丁の柄

複雑な3次元形状のハンドル

柄の形状は、一方向から見るとただの丸柄のようにも見えますが、実はかなり複雑な3次元形状となっています
口金付近は角を丸めた逆三角形なのですが、柄尻に向かうに従い、徐々に円形に近づいていくという凝った形状が採用されています
3Dターニングマシンか、NC制御の高価な切削加工機械で形状加工していると思われます

逆三角形の背の面は、人差し指の付け根に沿いやすく、押す力が楽に伝えられます
また、柄尻の円柱形状は、薬指と小指でホールドするのに、実に具合が良いです

一般的な「本通しハンドル」のように平面や角の部分がありませんので、握り心地が優れていて、手のどこにも当たる感じがありません

また、ハンドルがわずかに角度を付けて取り付けられており、若干ですが柄尻が上がる形になっています。このため、まな板と接した時の手首の角度が自然になり、とても使い良いです

一般的な「本通し」と比較すると、ハンドル木材と金属の接する部分が最小限に抑えられており、耐久性にも寄与するものと思われます

和食の握り方にも対応

10000CLのグリップ形状は、和食調理人の包丁の握り方が、しっかりと考慮されています

包丁の刃体、口金付近、グリップ本体など、どの部分を持っても扱いやすいよう、よく考えらており、握りを変える時にも、スムーズに持ち変えられます

ツヴィリングやヘンケルスなど、西洋の包丁は握るところが一箇所に固定されるような柄の作りであることが多く、「その部分」を握れば素晴らしいグリップですが、逆にそこしか握れず、汎用性に乏しいきらいがあります。このあたりは包丁文化の違いを感じさせるところです

このように、10000CLのグリップ形状は、和食文化をよく理解した日本の刃物メーカーらしい作りになっています

温かみのある木製グリップ

昨今ではグローバルの包丁に代表されるように、モナカ型の金属中空グリップも人気ですが、金属グリップは冬季などの低温時には、握り初めに冷たさが伝わってきます

木製の柄は、持った時に温もりが感じられ、低温時でもかわらず作業できるのが良いところです

包丁の柄

木製グリップでこの形状は、関孫六10000CLのみ

また、一般的な積層強化木グリップの場合、板状の木材を重ねて積層し、「本通し」にして側面を平らに削ることが多いのですが、10000CLのグリップは、円柱形状と円筒形状を組み合わせて積層されています(柄尻を見ると判ります)
「本通し」の側面が平坦なのは、金属製のビスと強化木を削って面一に揃えるためです

側面の平らな一般的な包丁でも、特に不満を感じることはないのですが、本通しハンドルの包丁をしばらく振るったあとで、この10000CLを使ってみると、どこにも手に当たる箇所がないので、実にしっくりくることが判り、(少し誇張した表現ですが)握る度に「いい包丁だな」としみじみ感じ入ります

握りやすく、コントロールしやすく、なおかつ握りの持ち替えもしやすいのです。さらに、外観、質感もすばらしいので、言うことがありません

重心は、アゴと口金の中間付近にあり、ベストバランスです
もしも、実物を手に取る機会があれば、いろいろな握り方をしてみて、実際に確かめてみてください
関孫六 10000STも同じ形状ですが、あちらは金属製ですので、木製ハンドルでこの形状なのは、10000CLだけであり、唯一無二です

自己所有だからというのを差し引いても、このハンドルに関してはベタ褒めしたいと思います

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10000CLは、洗練された外観と高い実用性を兼ね備えた、優れた製品

関孫六プレミアムシリーズには、売れ筋の「ダマスカス包丁」があります

「関孫六ダマスカス」は、10000CLよりも高額な商品ですが、切刃はV金10号となっており、切刃鋼材だけで比較すると、逆にグレードダウンしています

「ダマスカス包丁」というのは、装飾用の積層鋼材を、切刃の側面に張り合わせて作っており、語弊を恐れずに言ってしまえば、切れ味には影響しない部分にコストをかけた、見た目重視の包丁です

このダマスカス鋼材は、積層模様を出すのに手間のかかる高額な鋼材ですので、この鋼材を貼り付けるだけで、自ずと製品価格も上がってしまうのですが、見た目的にインパクトがあるので消費者の受けがよく、人気の商品です
おかげで、どの包丁メーカーも、ダマスカス包丁をラインナップに加えるありさまです
驚くことに「手打ち鍛造の打刃物」を標榜し、「割込や鍛接の技」を売り物にしている伝統工芸士の鍛冶屋さんですら、こぞってダマスカス包丁を製造するありさまです
切刃まで一体となった「ダマスカス三層鋼」を、鋼材メーカーから仕入れ、打ち伸ばして包丁に仕立てているところもあれば、自ら鋼材を折り重ねて積層材を作成し、切刃と鍛接しているところもあり、ダマスカスと言っても、さまざまではあります

決してダマスカス包丁が悪い包丁というわけではありませんが、10000CLと比較すると、どうしても外観重視の感が否めず、実用性とは無縁の方向にコストがかけられていると言わざるを得ません

 ● 関連ページ:ダマスカス包丁について

さらに言うと、必要以上に硬度が高い包丁というのもあります
包丁鋼材には硬度信仰のようなものもありまして、『硬度が高ければ良い包丁』といった見方をする方々も、一定の割合でおられます
そのようなユーザーのためなのでしょうか、実用性度外視と思われるほど、高硬度の鋼材を使用した包丁も見受けられます

硬度が高い鋼材は、鋭い刃が形成できますので、切れ味的には申し分ないのですが、靭性が低くならざるを得ず、結果として扱いづらく、研ぎにくい包丁ができあがります
扱いづらい点を具体的に挙げると…

1.硬度はあるが靭性が低いので、全鋼のものを落とすと割れることがある
2.粘りがないので、刃が欠けやすい
3.砥石との硬度差が大きくないため、切削効率が悪く、結果として研ぐのに時間がかかる
・・・といったところでしょうか

鋼材の硬度を高めていくと、このようなネガティブな要素も目立ってくるのですが、これらの超硬度包丁の行き着くところは、「非金属のセラミック包丁」と近似しており、割れる、欠ける、砥げない…です

本焼き(全鋼)の和包丁は、霞よりも硬度が出せて長切れしますが、恐ろしく高額で、なおかつ衝撃を与えると割れる可能性があり、職人さんでも気を使う代物です
まちがっても、一般家庭で普段使いするようなものではありません

すべての粉末ハイス鋼がそうだとはいいませんが、HRC66以上に硬度設定して製造している包丁も、同様に、普段使いとして日々使用するには、いささか実用性に乏しいのではないだろうか?…と思います
(そもそも、そんなに高硬度の包丁を使いたいのであれば、「セラミック包丁を使えば良いではないか」とも思います)

包丁は、外観や硬度だけでなく、靭性(粘り)、耐蝕性、砥ぎやすさ、重心と重量、握りやすさ、耐久性など、さまざまな観点をトータルでバランス良く兼ね備えていることで、真の実用性が生まれます


「関孫六10000CL」は、一見しただけでは、どこが優れているのか伝わりにくい包丁ですが、実際に握ってみて、使ってみて、そして砥いでみると、後からじわじわとその良さが伝わってくる、いい包丁です

そう、これは、いい包丁ですよ

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