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日本橋木屋 スウェーデン鋼 牛刀(MISONOブレード)

最終更新日: 作者:月寅次郎

日本橋木屋の牛刀

木屋 牛刀
日本橋木屋の牛刀です

細かいところをよく見てみると、手をかけてハンドメイド主体で作っていることが判ります
鋼材はスウェーデン鋼となっており、良質の鋼(ハガネ)が使用されています
(スウェーデン鋼=ハガネではありません。ステンレスのスウェーデン鋼も存在します)

調べてみたところ、1975~79年に製造された包丁であることが判りました ※1
価格帯は高級な部類、仕立てを見る限り、プロや料理玄人の方向けに作ったという感じが伝わってきます

少し使ってみましたが、よく切れると同時に、刃の靭性がしっかりあります
刃体が薄いことも相まって、繊細でしなやかな感じです

このあたりは、牛刀としてなかなかいい塩梅に仕上げていると感じました
「使い手のことを、よくわかっている」という感じです
カチンカチンに硬い包丁は、意外に使いにくいものです

この牛刀は、現在カスタムを施して使用しています
(このページの画像は「カスタム前」の状態です)

カスタム後の状態は、下記ページで紹介しています
日本橋木屋の牛刀 DIYカスタム

※1【 この包丁の発売年度 】
1967年頃:日本橋木屋が「MISONO印」を発売開始
現在の「No.6 EU鋼」、少し前の「No.6 スウェーデン鋼」に相当します。(ちなみに、ミソノ刃物が「スウェーデン鋼包丁」を発売開始したのは、同時期の昭和40年代とのこと)

1975年頃:「MISONO印」に木屋の刻印が加えられ、木屋・MISONOのダブル刻印となる
(当ページ掲載の包丁は、この時期の製造品と推測されます)

1979年頃:製品名が「No.6シリーズ」へ変更され、これを期にMISONO刻印を廃止、ハンドル素材も黒檀から積層強化木に切り替わったとのこと
問い合わせに対して丁寧にご回答頂きました「日本橋木屋」の方に、この場を借りてお礼申し上げます

ハンドルは、縞黒檀の無垢材

包丁 ハンドル 無垢材

ハンドルに使われている木材は積層強化木ではなく、無垢材が使われています
材質が黒檀であることは確認されていますが、正確には縞黒檀ではなかろうかと思われます

積層強化木(パッカーウッド)が主流となる以前は、高級包丁には、このような耐水性の高い木材が使用されていました

古い包丁にしては保存状態も良く、刃体に腐食等の瑕疵は見受けられません
ハンドルの方も、鋲(かしめピン)に若干の隙間が生じているのと、左側の木材に僅かな浮きが見られる程度です

口金は「一体口金」、ピンは「昔ながらの真鍮製」です

製造は、定評のあるMISONO(ミソノ)製

ミソノ 牛刀
裏面を見ると、「MISONO 特製鍛造」の刻印があります
「日本橋木屋」が販売している包丁ですが、製造はミソノであることが判ります ※2

裏面に製造者の銘が打ってあるというのは、現代ではかなり珍しいです
和包丁の世界ではたまに見られますが、洋包丁ではほとんどありません

※2
ミソノ刃物に確認したところ…
日本橋木屋に卸している商品(No.6シリーズ)と、ミソノが販売している商品(EUカーボン鋼包丁・スウェーデン鋼包丁)は、刻印が違うだけで同じ製品とのことでした
ご丁寧に回答いただいたミソノ刃物様、この場を借りて御礼申し上げます。ありがとうございました。

丁寧に厚みを抜いた刃筋、切り抜け良好

包丁 小刃
Misono
スウェーデン鋼 牛刀

最初に驚いたのが、この小刃の幅の細さです

昔の牛刀ですので、刃を付けずに販売していたのかと思いましたが、そうではなく、この状態できちんと刃が付いていました (驚きです)

これはつまり、刃筋付近の厚みを丁寧に抜いているため、結果として小刃の幅が狭くなっているのです(決して鈍角に刃付けしているわけではありません)
鍛造整形が丁寧だと表現することもできます。一般的なプレス打ち抜きの、焼入れして削っただけの包丁だと、なかなかこうはいきません

古式鍛造を標榜している包丁でも、ボッテリした厚みが残っており、切り抜けの悪い包丁は、けっこうあるものです

ミソノの包丁は良い」というのはよく言われるところですが、実物を手にしてみると、その質の高さに驚かされます
言い方を変えると、「プロが求める優れた包丁の要素」をよく判っているという感じです
(細かな違いに気づかなければ、ただの「少し硬度が甘い包丁」にしか見えないかもしれません)

これと同じ牛刀は、Misonoの「スウェーデン鋼包丁」が相当します(左の画像の商品)
製造時期が異なりますので、刻印のロゴや柄の材質など、細かな仕様は変更されていますが、真鍮製の鋲や口金、全体的な造りなどは同じになっています
現在では名称がEU鋼に変わっていますが、これは鉄鋼メーカーの買収・合併等の理由により、会社がワールドワイド化し、「スウェーデン」では語弊が生じてしまうためです。この場合のスウェーデン鋼とEU鋼は、同じ鋼材だと考えてかまいません(名称が変わっただけで、組成は同じです)

日本橋木屋の「スウェーデン鋼包丁」も良いですが、「日本橋木屋」という刻印が入るだけで値段が一段高くなってしまいます(ブランド料です。致し方ありません)

名より実を取るのであれば、Misono製がおすすめです(中身は基本的に同じです)

アゴは厚みを残し、堅牢性に寄与

包丁 アゴ
杉本 牛刀
高級炭素鋼

18,21,24cm
上の画像は、カスタム完成後のアゴ付近を撮影したものです

アゴ付近の小刃幅が広くなっていますが、これは刃付けの角度を変えたわけではなく、研ぎ方をミスしたわけでもありません。ここだけ刃筋が厚めに残っているのです

おそらく、意図的に刃の抜き具合を変えているものと思います

アゴの部分は厚みを残して堅牢性を確保し、アゴより先は薄く抜くことで、刃の抜け具合を良くしているものと思われます

見事な職人技です。このような凝った刃の抜き方をしている洋包丁は、初めて見ました
この点はYouTubeにアップした動画では言及していませんが、実に素晴らしいポイントです

「料理を作る」ということが判っていなければ、なかなかこのような刃の抜き方はできないものです

追記:今から思うと、出刃包丁の刃付けのように、アゴ周辺のみ鈍角に刃付けすれば良かったかなと思います
(包丁の作り手の意図がわからなかったため、一律に同じ角度で研いでしまいました。今後、徐々に修整したいと思います)

有次 炭素鋼
160cm ペティ

火造りの鍛造包丁を作っている著名な鍛冶職人の方でも、この部分(刃の抜き方やテーパーの付け方)について、よく理解している人は実に少ないように感じます

鍛接や鍛造、刃付けの技術が素晴らしい職人さんは多々おられるのですが、「切り抜けの良い洋包丁の刃体」ということになると、「これはどうなの?」というのが、結構あります
ゴテゴテと、これ見よがしな槌目を付けた製品に多いです
そういう事は重々承知の上で、そちらのほうが商売として売れるので、素人さんをだまくらかすために、敢えてやっているのかもしれません

「火に向き合う鍛冶屋さん」は多くても、「料理や食材、まな板にまで向き合う鍛冶屋さん」は、あまり存在しないのです(実際に料理をすれば、実感として感じ取れることなのですが、そこまでやらない人がほとんどのようです)

世の中には、「硬度を高くして、エッジの鋭さが出せればそれで良い」と言う感じの「何も分かってない高級包丁」が数多く存在します

炭素含有量の多い鋼材を使用し、カチカチに焼きを入れて硬度を高くすると、靭性は低くなり、折れや刃欠けに弱くなります。結果として、刃を薄くすることができなくなります

峰も刃筋も、やたらと分厚い包丁のできあがりです

こういった「子供だましの、名ばかり高級包丁」が、世の中にはそこそこ存在します
(個人の意見です)

美しいフルテーパードタング

フルテーパードタング
正本総本店
最高級炭素鋼

21cm 牛刀
紫檀ハンドル
上の画像は、柄の腹側を柄尻方向から見たものです(カスタム後の状態です)

きれいなフルテーパードタングになっていることが判ります

フルテーパードタングとは、「柄尻に向かって徐々に中子が薄くなる」というもので、一点物のハンドメイド・カスタムナイフなどに施される、非常に凝った構造です
単なる本通しの場合は、「フルタング」と呼ばれます

強度を落とさずに軽量化できるという意味もありますが、重心を集中させて重量バランスを整える効果も見逃せません

柄尻が軽くなることで口金付近に重心が集中しますので、包丁を振いやすくなり、繊細な刃先コントロールに寄与します。長時間使っても疲れにくい包丁となります
家庭で使う分には過剰品質かもしれませんが、このような包丁こそが、真の意味での「プロ用高級包丁というものでしょう

製造する方にとっては、中子と板材の合わせ精度の難易度が上がりますから、熟練職人でなければ難しい仕事です(正直凄いなと感嘆します)
(一般的な量産品の本通し包丁(フルタングの包丁)は、柄尻まで厚みが均一になっています)

ちなみに、「梅治作 牛刀」も、フルテーパードタング仕様です
(元の値段が高いだけのことはあります)

カスタムを施し、高い耐久性と美しい外観を

包丁 カスタム・修理
有次 別打
180cm ペティ

この牛刀は、「お気に入りの一本」ですので、手を加えてカスタムを施しました

縞黒檀のハンドルは、漆で塗って耐水性を高めました
製造時の細かなバリや傷なども丁寧に取り、修理・修復を施しました

完成した状態は、下記リンク先ページで紹介しています
日本橋木屋の牛刀 DIYカスタム

カスタム作業、工程毎の解説ページ一覧



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