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包丁の切れ味 - 安い包丁は切れ味が悪いのか?

最終更新日: 作者:月寅次郎

低価格の包丁でも、きちんと研げばスパスパ切れます

包丁・切れ味

ビクトリノックス
スイスクラシック
ペティナイフ

切れ味が良いのはどの包丁?とは、よく言われるところですが、市販されている大手メーカの包丁であれば、技量の確かな人が砥石で研げば、どの包丁でも トマトをスパスパ切る程度の切れ味は、簡単に出すことができます

上の画像は、低価格のキッチンナイフで試し切りをしているところです
ビクトリノックス スイスクラシック ペティーナイフというナイフで、確か、800円くらいで買った覚えがあります
(左の画像の商品です。)

トマトをまな板に置いた状態で、手を添えずにトマトの重さを頼りに切り込んでいますが、この程度であればさほど難しいことではありません

「スイスクラシック ペティーナイフ」を使用した感想をまとめたページはこちらです

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包丁・研ぐ
キングデラックス
#800番砥石
こちらは実際に研いでいる時の様子です

使用している砥石は、キングデラックスの#800番です(#1000番でもよいです)
ホームセンターであればどこでも売っているような、定番の砥石です

ハマグリ刃にするとか、やたらと刃を鋭角にするとか、そういった特殊な刃付けはしていません。
基本に忠実に、真っすぐな刃を付けています
むしろ刃持ちを良くするために小刃付けしていますので、エッジ先端の角度はかなり鈍角気味だと思います

浸水時間もそそそこに、名倉砥石も使わずにささっと研ぎましたので、砥泥もほとんど出ていません

厳密に言うと、この時は時間の余裕がなかったため、砥石の吸水が不足気味のまま研ぎ始めたのですが、刃が柔らかいためにすぐに刃が付いてしまい、吸水が仕上がるよりも、刃の方が先にでき上ってしまいました
きちんと研いでピシッとした刃ができあがれば、安い包丁でもこの程度の切れ味を出すことは、全く難しいことではないのです

● あわせて読みたい:月寅次郎が使っている砥石 (砥石14本の解説)

追記:包丁の研ぎ動画

実際に包丁を研ぐ様子を撮影しました


字幕で補足解説を入れていますので、日本語字幕をONにしてご覧ください
でないと、単に手を前後に動かしているだけの動画にしか見えないと思います

0分00秒:研ぎ台の全体像(表面と裏面)
0分20秒:砥石の浸水
1分20秒:研ぎ台に砥石を設置
2分20秒:包丁研ぎ開始
4分10秒:カエリが出たので、反対面
6分30秒:最終仕上げ(小刃付け・マイクロベベル)

研ぎ音がよく聴こえる音量で、大きめの画面で視聴すると、「何をどう研ごうとしてるか?」が判ると思います
月寅次郎チャンネル (YouTube 動画一覧)は、こちらです(「いいね」をもらえると嬉しいです!)

なお、動画の最後の方で「最終仕上げ」と称して小刃付けしていますが、あれは無理にやる必要はありません
切れ味を長く持たせるための措置であって、切れ味を良くするためのものではありません
刃の先端のみを鈍角にする刃付けですので、やらない方が角度が鋭く、切れ味が高くなります(論理上の話しです)

また、動画では素早く手際よく研いでいますが、慣れてないうちは自分に合ったストロークスピード、やりやすい力加減で研いでください
強く・速くやれば、その分研ぎ上がりも早くなりますが、ただそれだけです
慣れていないうちは、ゆっくり丁寧にやりましょう

少しマニアックな包丁研ぎの話


3000番や6000番など、番手の高い砥石も持っていますが、このペティナイフにはあえて使っていません
ステンレスの包丁は下手に番手を上げると刃が滑りやすくなることもあり、番手を上げるのはほどほどにして、「かかり」の良い刃を作ったほうが実用的なのです

高い番手の砥石で研ぐと、紙で試し切りした時に滑らかに切れるため、切れ味が上がったように感じますが、あれは「料理をしない刃物マニアが陥りがちなパターン」です

刃先の細かいギザギザがなくなるため、紙の繊維に引っかからなくなり、滑らかに切れるように感じるだけです

そもそも、包丁は食材を切るものであって、紙を切る道具ではありません
紙を滑らかに切りたければ、カッターを使えばよいのです
実際のところ、わたしも紙を切って刃の状態を確認することはありますが、それは主に、「肉眼では見えないような、小さな刃こぼれが残っていないか、確認するため」に行っています。ミクロの刃こぼれが残っていると、そこで紙が引っかかって止まります。

また、紙を切るためのカッターの刃付と、肉や野菜を切るための包丁の刃付は、違って当然です
それぞれの目的に合った刃付にするのが最適です

ビクトリノックス
トマト・パン切り
ナイフ(波刃)

一般的な調理に使うのであれば、刃先にミクロのギザギザが残っていた方が、切りかかりの部分で刃が逃げにくく、実用的な刃になります(皮のある野菜や、鶏肉の皮を切る際に差が出ます)

トマトに包丁を当てた瞬間、滑らずに刃が入っていくためには、このギザギザが残っていた方が良いのです
低~中価格のステンレスの包丁の場合は、特にです

左の画像の「ビクトリノックス トマト・パン切ナイフ」は、ブレードが波刃になっており、波刃先端の尖ったポイントが、トマトの皮に食い込むように造られています
ミクロのギザギザと、マクロの波刃(セレーション)という違いはありますが、ギザギザの先端が食品をとらえ、切り込んでいくという点は大同小異です

ちなみに、炭素鋼の包丁であれば、元々刃が良くかかる傾向がありますので、切り込みが良く、少々番手を高くして研いでもさして問題ありません

包丁・切れ味
ヘンケルス
セーフグリップ
もう一本、低価格の包丁を例に挙げてみましょう

こちらは、ヘンケルスのセーフグリップで、1500円程度で購入した包丁です

この包丁も、有名メーカー品としては非常に低価格なものになります(ローエンドクラスと言ってよいでしょう)
刃も貧弱で、使っていてペラペラした感じがしないでもありません。 それでもこの程度の切れ味は出すことができます
同じように800番の砥石で刃付けを行い、トマトを置いたままの状態で、手を添えずにスライスしています

この状態から使い込んでいくと、徐々に刃が丸くなり、冴えた切れ味が失われていきますが、
再び刃を研いであげれば、何度でもこの状態に復活させることが可能です

ヘンケルス セーフグリップの使用インプレはこちらにまとめました

【 閑話休題 】
トマトを置いたまま(手を添えずに)薄くスライスするというのは、YouTubeで時折見られる、包丁のデモンストレーションです

やっているのはたいてい、包丁の販売業者か、売れないユーチューバーのどちらかです
双方に共通しているのは「やたらと高そうな包丁を使い、もったいつけてトマトを薄くスライスし、ドヤ顔をしている」ということです

ああいうのを目にした時は、「別に大したことでもないのに、やっていて自分で恥ずかしくないのかしら?」と思ってやってください

前述したように、安物の包丁でも、そのくらいのことは簡単にできるのです

「この包丁、切れ味がスゴイでしょう!」とでも言いたいのでしょうか?
包丁の販売業者の場合は、ちょっと良識を疑いたくなるところです。(そのくらいは、研いだ直後であれば、できて当然なのですから)

ユーチューバーの場合は、やっている当人が「本当に凄い」と思い込んでいる場合があります。これはこれで、非常に痛々しいです



切れ味の違い - 安い包丁と高い包丁

先ほど、トマトをスパスパ切ることを指して、「この程度であれば難しくない」と言いましたが、
それでは、「どの程度なら難しい」のでしょうか?

桂剥き
堺一文字光秀
鎌形薄刃
青鋼

上の画像は、鍛造の薄刃包丁で大根の桂剥きをしているところです

切っているのはわたしですが、安い包丁で同じように切ってみろと言われたら、(研いだ直後の包丁であったとしても)「できません」 …と、白旗を上げるしかありません

完全に無理とは言いませんが、難易度が上がってしまうため、やたらと時間がかかる上に、みずみずしい切り口に仕上がりません
また、薄く均一な厚みに仕上げることもできません
上の画像と同じレベルに仕上げるのは、安い包丁では無理なのです

このように、鍛造・片刃・ハガネの和包丁は、切れ味のレベルが違います
しかしながら、あまり万人におすすめできる包丁ではないことも確かです

薄く繊細な刃に仕上げられていますので、安易に使うと刃こぼれが生じやすく、研ぐことに関しても、経験と技術が必要です
(片刃ですのでシャープナーでは研ぐことができません。砥石で研ぐしかありません)

鍛造・片刃・ハガネの和包丁は、包丁の極みです
● 参考ページ1:和包丁を研ぐ(本刃付け)

● 参考ページ2:水野鍛錬所・源昭忠の薄刃包丁

包丁の高い安いで最も差が出やすいのは、研いだ直後の切れ味よりも、その切れ味がどれだけ持つかという「刃持ち」の違いです
ですが厳密に言うと、研いだ直後の切れ味も、それはそれで差は出るものです

わたしのような刃物好きから言わせると、「全然違う、大違い!」と言いたくなりますが、それを言い出すと話がマニアックな方向にずれてしまうので、ここでは割愛いたします

1.きちんと研げば、包丁の高い安いにかかわらず、どれでもよく切れる
  というのは、ある意味正しいですし

2.全く同じように研いで切り比べると、切れ味の差がよく判る
  というのも、同様に真実です

このページでは、「包丁マニア」ではなく、「一般的な家庭で包丁を使う方」の目線で書いていますので、「1」の視点をとっています

補足: 「画像の包丁は片刃の薄刃包丁なので、包丁としての造りが根本的に異なっており、包丁の高い安いの問題ではない」…という突っ込みは、話がややこしくなるので、置いておいてください
「桂剥きの場合は、切れ味の差よりも、包丁を研ぐ技術と、包丁使いの腕前の差の方が、仕上がりに如実に差が出てしまう」…というのも同様です(それはそれで真実です)

半年研がずに使い続ければ、どんな高価な包丁でも「なまくら」になる

ツヴィリング
V-エッジ



スパイダルコ
トライアングル
シャープメーカー

どんな高価な包丁でも、研がずに使い続ければ、数か月で本来の切れ味は出せなくなり、半年経てばなまくらになります

できることなら、包丁をよく手入れして、砥石でこまめに研いで使ってやって下さい
よく切れる包丁は、使っていて実に気持ちの良いものです。料理がとても楽しくなるのです

砥石で研ぐのが難しいようであれば、シャープナーを使えばよいのです
ただ、高価格帯の包丁にシャープナーを使うのは、少々もったいないと思います
包丁本来の性能を最大限に引き出すことができませんし、シャープナー側も研磨粒子の角がすぐに丸くなってしまいます

使っているうちに包丁の切れ味が落ちるように、シャープナー側も確実に切れ味が落ちていくのです
特に、高級な包丁は硬度が高く、耐摩耗性の高い鋼材を使用しているため、シャープナー側の痛みも激しくなってしまいます

韓非子の「盾と矛(たてとほこ)」ではありませんが、「どんな盾も突き通す矛」と「どんな矛も防ぐ盾」をお互いに戦わせるようなものです
包丁側はなかなか刃が付かず、シャープナー側はすぐにダメになってしまい、まさに愚の骨頂です(喜ぶのは、買い替え需要が発生する販売業者とメーカーだけです)

そのようなわけで、砥石を使わずにシャープナーで研ぐ場合は、お手頃価格の包丁の方が相性が良く、それがベストの選択だと言えます
短時間で早く刃が付き、切れ味も確実に回復しやすく、シャープナー側も長持ちするのです
※ シャープナーはずっと使えると考えている人も多いですが、そんなことはありません。あれは消耗品です

【 追記 】
ツヴィリングのV-エッジと、スパイダルコのトライアングルシャープメーカーは、かなり本格的なシャープナーで、個人的なおすすめです。(左上の画像の品)(トライアングル…については、わたしも実際に使用しています)
この2製品でしたら、硬度の高い高級な包丁を研いでも、なかなかへたりません(砥石面のサイズが簡易型とは異なり、かなり大きめだからです)

上記2製品も含めて、シャープナーの上手な使い方については、こちらのページにて解説しています

「お手頃価格の、おすすめの包丁は?」という点に関しては、こちらのページをご参照ください
関孫六の12本の包丁の中から、根拠を示して消去法で数を減らし、ベストの一本を挙げてみました

高級包丁で、おすすめの包丁を探す場合は、こちらです

包丁の切れ味

上の画像は、個人的にお気に入りの包丁で、手打ち鍛造の鎌形薄刃包丁です (自分で柄付してカスタムしました)

下に掲載してあるのは、評価の高い定番の砥石です
わたしなりのコメントも書いておきましたので、参考にしてみてください
あえて言いますけど、日本の砥石は世界一ですよ!

また、シャープナーで包丁を研ぐコツについては、こちら をご覧ください

キングデラックス(松永砥石)

キングデラックス
1000番
キングデラックスの1000番(中砥石)
おそらく国内でもっとも使用されている、定番中の定番角砥石

使い心地が安定しており、密度が丁度よい設定になっているため、刃の滑り始めの感覚が掴みやすい(刃物研ぎ初心者にとっては、重要な要素です)
平面維持度をとにかく重視するカンナやノミの場合は、刃の黒幕のような硬めの砥石が推奨されますが、一般的な普通の包丁に使用する場合は、このような中庸な硬度の砥石の方がおすすめのです
適度に砥泥が出るため、目も詰まりにくいです。そのため、よほどこだわる場合でなければ、名倉砥石を併用する必要もありません(やたらと耐摩耗性の高いステンレス包丁はこの限りではありません)

シャプトン 刃の黒幕

シャプトン刃の黒幕 1000番(オレンジ)
近年人気の砥石です。amazonでのレビュー評価も高いです
粉末冶金法で作られた包丁などの高硬度刃物鋼、ノミやカンナなど、平面維持性を重視したい場合は、おすすめの砥石です
高密度に目が詰まっているため、吸水の必要も無く、使いたいときにすぐ使えます(ただそれがどのようなデメリットにつながるのか、あまり判らずに喜んで使っている人が多いようです)
とはいえ、高性能の砥石であることには間違いありません
ケース付きで収納しやすいというのは、スバラシイと思います

刃物(包丁)と砥石にこだわりたい人には、おすすめの一本です


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