堺刀司 薄刃包丁
堺刀司の薄刃包丁(岩国作)
(関西型 / 鎌形薄刃包丁)
家人所有の
「源昭忠」(水野鍛錬所)の薄刃包丁が素晴らしかったため、自分用の薄刃包丁が欲しくなり、ユーズド品を入手したものです。
(入手日:2019年03月03日)
中古で購入したものですが、細かな部分を手直しして大切に使っています。
この堺刀司の薄刃包丁ですが、入手後しばらくは、桂剥きなどの
剥きもの用として使っていました。
その後、関東型でやや小ぶりの、
堺一次(一次請負)の薄刃包丁を入手したため、そちらを剥きもの用に使い、こちらを
打ちもの用として使っています。
(剥きものと打ち物では、刃の用途が異なりますので、僅かではありますが、研ぎ方も変えています)
包丁のサイズと重量(入手時に計測)
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刃渡り:165mm(5寸5分)
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刃幅:42.mm
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峰厚:4.0mm
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重量:164g(刃体136g、柄28g)
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鋼材:青紙2号と推定
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中子:厚み4mm x 幅11mm(マチから先端までは96mm)
銘のデザインなどに若干の違いはありますが、現行品はこちらです
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岩國作 青鋼 鎌型薄刃(堺刀司 公式)
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堺刀司 薄刃包丁 岩国作(amazonで検索)
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堺刀司 薄刃包丁 岩国作(楽天で検索)
堺刀司の和包丁(岩國作と正重作)
堺刀司が扱っている包丁のうち、ハガネ鍛造の和包丁には、大きく分けて『岩國作』と『正重作』があります。
ですが実際に、岩國さんや、正重さんという人物が存在するわけではありません。
この2つは、堺刀司が販売する包丁のブランド名です。
正重作と比べると、
岩國作の方が価格が高く、ハイブランドに位置づけられています。
(岩国作の銘の下にある『印』は、
花押であり、
「藤」の崩し文字が元になっています)
この2つのブランドですが、双方に複数の鍛冶職人が存在するため、鍛錬した人が誰であるかは特定できないと聞いています。
もっとも、『
本焼き』を鍛錬できる鍛冶職人は限られていますので、その部分も特定不能というのは、さすがに無いはずです。
ですが、岩国作にも『
青鋼』の記載の有るものと無いものがありますし、
墨流しや
鏡面仕上げがあったりと、多種多様です。
細かく分類していけば特定可能なのでしょうが、岩国作も正重作も、多数の人が関わっているため、一概には言えない。…となるわけです。
なお、
青鋼と記載のあるのは「青紙2号」であり、もう一方の「
安来鋼で、等級の高い鋼を使用」と表現されているものは、「
白紙1号」を使用しているとのことです。
さらに、
正重作(特上)は、白紙3号が使用されています。
なお、この内容は、2019年2月に、「中の人」より直接お聞きしたものです。
そのため、(後述のように)現在もこの通りかどうかは不明です。
特に使用鋼材については、「昔の製品など、年代によっては異なる場合もある」と、聞いています。
(ご丁寧に回答いただいた堺刀司様、この場を借りて御礼申し上げます。ありがとうございました)
この「聞き取り」を実施した時、筆者は詳細なメモを残しておきました。
今あらためて当時のメモを読み返すと、興味深い事実に気付かされます。
岩国作(標準)の説明文が、過去のものと比べて、少し変わっているのです。
変更点
新 2023年:「等級の高い鋼を使用」
旧 2019年:「安来鋼で、等級の高い鋼を使用」
上記表現が、いつ変更されたかは判りませんが、「安来鋼」の表現が削除されていることが判ります(下にリンクを設けています。実際に確認可能です)
そのため、この部分については、何らかの鋼材変更があったものと推測されます。
(推測ですが、日立金属安来工場製ではない、同等の性能を持つ鋼材に変更されたものと思われます)
なお、正重作(特上)の説明書きには、「安来鋼を使用し、丁寧に鍛造」とあり、安来鋼の表現はそのままになっています。
(こちらは白紙3号のままで、恐らく変わっていないのでしょう)
安来鋼(ヤスキハガネ)について
安来鋼は、島根県安来市で製造されており、それが名の由来となっています。
(地名の方は「やすぎ市」と読み、濁点が付きます。古来よりたたら製鉄が盛んであり、『もののけ姫』の舞台のモデルとなった場所でもあります)
安来鋼を製造していた『株式会社
日立金属安来製作所』は、2023年1月に、『
株式会社プロテリアル安来製作所』に社名変更しました。
『日立金属株式会社』も、同年同月に『株式会社プロテリアル』へと社名変更しています。
(親会社である日立製作所が、ベインキャピタルなどで構成する日米ファンド連合に日立金属を売却したため)
将来的にどうなるかは判りませんが、
青紙や白紙など、安来鋼を使用した包丁の購入を考えている方は、
在庫があるうちに、確実に入手しておいた方が良いかもしれません。
たとえ鋼材組成が全く同じであったとしても、別の場所で作られた鋼は、ヤスキハガネとは呼べなくなります。
このあたりは『
スウェーデン鋼』も同様です(『
EU鋼』と表記変更して販売されています)
● 関連ページ:
「スウェーデン鋼」呼称問題
現在の状態(カスタム後)
後述のように、
入手時にはさまざまな瑕疵がありましたが、使用に伴い、少しづつ研ぎすすめることで、エクボや傷も徐々に薄くなってきました。
まだいろいろとダメな箇所は残っており、
未だきれいな『面』は出ていませんが、使いながら徐々に修正してきたいと考えています(切刃の面や裏を、研ぎ進めながら直していくことが、一番の勉強になるものです)
ちなみに、この堺刀司(岩国作)の気に入っている部分は、指の当たる
アゴの内側部分に、「エグリ」があるところです(この部分は、きれいに磨いて鏡面化しています)
上の画像を見ると判りますが、左から2本目、
源昭忠(水野鍛錬所)には、エグリがありません。
左から3本目と4本目は、アゴの内側をえぐっているため、指当たりが柔らかくなっています。
実際に使う時には、それほど大きな差異を感じるものではないのですが、エグリのある薄刃は、見た目が映えるので個人的に好きです。
こちらは、
剛研輝 12000番を使って、研ぎ上げた時の様子です。
切れ味について
切れ味は、誠に申し分ありません。
(我が家には、和包丁が多数ありますが、どれも甲乙つけがたいほど素晴らしく良く切れます)
使用鋼材は、青紙2号で間違いないでしょう。
白紙ほどの刃かかりの良さはありませんが、
青紙特有のシルキーで滑らかな切れ味が感じられます。
ステンレス包丁や、炭素鋼複合材の洋包丁なども、きちんと研げば、実用的でよく切れますが、それは「実用的な包丁として、問題なくよく切れる」と言った表現になります。
それと比較すると、このような手打ち鍛造のハガネの包丁は、「実用的とかいうレベルを超えて、
芸術的で惚れ惚れする切れ味」という印象を受けます。
片刃で裏のある包丁は、万能的に使える包丁ではありませんが、やはり
切れ味の次元が違ってきます。
そもそも
両刃の洋包丁とは、刃の確度からして異なりますので、当たり前かもしれません。
入手時の状態
こちらは、入手時の状態です。
一見きれいに見えるのですが、
これがなかなかの曲者でした。
小口の状態です。
マチの部分に蝋が埋められています。
どうやら、それなりに心得のある方が使っておられたもようです。
(昔からある防水処理です)
軽く砥石に当ててみました。
砥石に当てると、その包丁の本当の状態が浮かび上がります。
切刃の中央から、やや先端方向に、
大きめのエクボがあることが判りました。
また、切っ先付近のハガネの部分に、一部
えぐれたような箇所が見つかりました。
拡大画像です。
どうやら、腐食痕を消すために、
グラインダーか何かをざっくりと当てたもようです。
この部分だけ凹んでいるため、どうやっても
砥石が当たらず、刃もきちんと付きません。
桂剥きにと考えての入手でしたので、刃の先端はそこまで使いませんが、少々残念です。
販売業者の方は、外観をきれいに見せるため研磨を繰り返したのでしょう。
鎬筋もだらしなく丸まっています。
(見てくれだけをよくするために、サビを削って面を台無しにするのは、和包丁に詳しくない古物商がよくやるケースです)
水牛桂(口輪)の状態です。
経年と乾燥によるものでしょうか、欠けが生じています。
(この瑕疵は、事前に判っていました。修繕可能と判断し、後日手を入れています)
こちらにも、2箇所の欠損が見て取れます。
(少し分かりにくいですが)小口の角にある欠損は、
研ぐ際に砥石が当たって生じたものですね。
桂の養生を行わずに和包丁を研いでいると、時々やってしまう失敗です。
中央部分の欠損は、恐らくカツオブシムシによる食害です。
(水牛の角でできた印鑑も、カツオブシムシ被害に会います。この包丁の口輪(桂)は、白水牛の角でできています)
アゴの内側の様子です。
この部分は、後で
入念に磨きを入れて、ピカピカに仕上げました。
(下の画像に写っています)
包丁の手直し(レストアとカスタム)
修復作業を容易にするため、一旦柄を抜きました。
中子の状態は、まずます良好と言って良いでしょう。
マチ側の3分の1については、水分が浸透したのか、薄く赤錆が出ていますが、腐食具合は酷くなく、中子が痩せるほどではありません。
軽い研磨でおおよそきれいになりました(前オーナーの蝋充填が効いていたのでしょう)
柄の方は、かなり色がくすんだ状態です。
おそらく、
そこそこ古い包丁だと思われます。
中古の和包丁で、柄を壊さずに抜くことができるということは、中子の状態が良いということです。
柄の中で錆が進行している場合、体積が増すと同時に錆が柄に食い込み、外すことが困難になります。
筆者が入手した中古の和包丁のうち、あまり苦労せずに柄が抜けたのは、この一本だけです。
桂の欠けた部分に、
2液性のエポキシ接着剤を充填し、研磨して面一にしています。
エポキシに木粉を混ぜ、同系色の色に仕上げています。
柄に漆を塗って、水研ぎをかけ、平滑度を上げます。
欠け部分の修復については、エポキシに木粉を混ぜず、下の色をそのまま透過させた方が自然に見える事がわかり、やりなおしています。
桂の修復と柄の漆塗りが完成した状態です。
こちらの面にも桂の修復跡があるのですが、指摘しないとわからないと思います(桂と木材の継ぎ目付近に、小さな欠けの修復跡があります)
(当時のメモを見ると、「漆塗りを4回実施」とありました。色については、もっとも漆らしい色とも言える、「透(スキ)」を使用しています。
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