DIYで包丁を鏡面仕上げに(方法・手順)


包丁の鏡面仕上げ 目次(包丁・ペティナイフ)

鏡面仕上げの包丁
作業対象包丁:藤次郎 DPコバルト合金鋼割込 ペティナイフ(120mm)

  1. 包丁の傷を大まかに消す

  2. 包丁を研ぎ抜いて厚みを削ぐ(ブレード整形)

  3. 鏡面の下地出し(包丁の傷を消して下地を作る)

  4. 耐水ペーパーで傷目を細かくし、磨き作業に入れるかどうか確認

  5. バフがけ(青棒、白棒、赤棒)で 包丁を鏡面に近づける

  6. コンパウンドで包丁を鏡面に仕上げる

  7. 鏡面に仕上がった包丁

包丁を鏡面仕上げにした 感想


今回は、軽く傷が入った状態から鏡面に仕上げる事になりました

見た目は派手に傷が入っていましたが、それほど深い傷ではありませんでしたので、極端に時間もかかることなく、無事に仕上げることができました。DIYとしては上出来だと思います

また、三枚合わせのステンレス系包丁(ペティナイフ)ということで、側面鋼材の硬度も硬すぎることなく、切削研磨も快適に行うことができました
以前、炭素鋼のオピネルを鏡面に仕上げたときは、焼入れの入った全鋼ブレードの硬さと、腐食痕の深さに、根負けしそうになりましたが、それに比較すると、かなりスムーズに作業できたと思います

傷を消している途中で、「この際だから、ブレードを研ぎ抜いて刃抜けを良くしよう!」と方針変更してしまったため、最初に行った傷消しの研磨作業が無駄になってしまいましたが、結果的に抜けの良いブレードに仕上げることができ、満足しています

切り抜けの良さ」は、包丁の切れ味の重要な要素の一つです
鋼材の種類も重要ですが、刃体形状を切削研磨して、どのような形状に仕上げるかも重要な要素で、刃物メーカーの腕の見せ所です
安価にもかかわらず、高級鋼材を売りにしている包丁は、このブレード成形にコストがかけられておらず、形状や仕上げが甘かったりします


DIYで包丁を鏡面にする際の、注意と心得


ここでは包丁の鏡面仕上げについて、具体的な作業内容を解説しています
ですがこれが、ベストのやり方というわけではありません

元に戻ってのやり直しや、作業途中での方針変更など、紆余曲折もありますし、使用している道具は、自己保有の砥石や研磨材など、ありあわせのものです。(小さめのサンダーがあれば、砥石は使わなくても済むと思いますし、最終段階での『手磨き』も省けると思いますが、持っていないのでこのような工程をたどりました)

ネットに書いてあることを鵜呑みにして、そのまま作業しても、たいていうまくいきません
このページを見て、鏡面仕上げの参考にされる方は、「あくまでも参考」だと考えて、自分の作業環境、所有工具、対象となる包丁に合わせ、最適な方法を模索してみてください(こうやれば鏡面になるというものではありません)


重要なのは、研磨材の食い付き具合や削れ具合などを、そのつど自分の目でよく確認し、判断を適宜修正しながら、作業を進めていくことです
次の番手に上げてよいのか、それとも下地の段階に戻って、傷を取り直すのか、判断するのは自分自身です(大抵の人は、『一定時間磨いたから』というイージーな理由で、次の番手に上がりがちです)

また、人によって作業対象は作業環境はさまざまです
それぞれの包丁によって、ついている傷やグラインダー跡の深さ、鋼材の硬度が異なります
三枚合わせの包丁の場合、側面材の硬度はどの製品もたいして変わりませんが、一枚物の包丁の場合(海外製の包丁に多い)使用されている鋼材によっては、かなり硬度が異なります
この場合、価格が高価な製品ほど硬度の高い鋼材を使用していることが多く、条件によっては、なかなか削れなかったりします。また、逆に柔らかめの鋼材の場合は、研磨粒子が深く食い込んでしまって、かえって傷になりやすいこともあります


鏡面仕上げにおいて重要なのは、『根気と忍耐力』だと思います
決して簡単に終わるものではありませんので、必ず休憩を入れながら、できれば複数日に分けて作業しましょう
そうすることで、作業が丁寧になり、結果としてきれいな鏡面に仕上ります
包丁が一本しかない場合は、日数をかけて作業することが難しくなります。100均の包丁でも構いませんので、代替的に使用できる包丁を用意することをおすすめします


追記:稚拙な解説ページを鵜呑みにしないよう、気をつけましょう

補足として記載しておきます
ネット上に掲がっている鏡面仕上げの解説ページは、玉石混交です

先日、「包丁を自分で鏡面仕上げできるのか?」というページに目を通してみました
内容を一言でいうと、「2時間あれば、あなたも自分で包丁を鏡面に仕上げられます」というものでした

しかし、よく読んでみると、実際に鏡面に加工しているのは、和包丁(鎌型薄刃包丁)の平の部分であり、洋包丁の鏡面仕上げの方がよっぽど時間がかかる事については、全く言及がありません

これには言って、「いかがなものか?」と思いました。それはつまり・・・
包丁を製造・販売している業者が、消費者の誤解を招くことを、平気で書いて良いのか?という意味です(ちなみに、その記事を書いているのは、なんと堺の包丁メーカーです
正直言って、良識を疑います

「包丁の鏡面仕上げは、2時間でできる」というミスリード

前述のページで、鏡面に加工しているのは、和包丁の平の部分です

この部分を鏡面に仕上げるのは、和包丁の世界ではよくあるパターンで、商品価値を上げるために、最初から平を鏡面に加工した和包丁も多数販売されています

平(ひら)の鏡面仕上げは、それほど難しくない(むしろ簡単な部類)

実際のところ、平(ひら)というのは、その名の通りに平面ですので、ベルトサンダーで番手を上げていき、最後にバフがけすれば、難なく鏡面に仕上がります
ベルトサンダーなどの電動工具が無く、手作業で磨き加工を行う場合でも、平面であるがゆえに当てゴムなどを使って均一な加工を施しやすく、「最も簡単な鏡面仕上げ」の一つと言えるでしょう

形状だけでなく、硬度的にも鏡面に仕上げやすい柔らかさ

平の鏡面が簡単な理由は、形状だけではありません
鋼材的にも、鏡面に加工しやすいということができます

通常の和包丁の「平(ひら)」の部分は、軟鉄が使用されています(本焼きを除く)

この「軟鉄」という素材は、鋼(はがね)やステンレス刃物鋼とは全く異なり、炭素含有量が0.08%以下と非常に低く、包丁の刃体に使用される金属素材の中では、ダントツに柔らかい素材です(そもそも刃物鋼ではないので硬度が低く、磨きやすいのです)

新品の包丁なら、傷や錆を取って下地を出す必要もない

さらに言うと、新品状態の包丁を鏡面に加工するのは、難易度が大幅に下がります

長年使用された包丁を鏡面に仕上げるのとは異なり、傷や錆を除去して下地を出す必要がないからです。ほぼ下地の出ている状態からスタートすることになり、作業時間が大幅に短縮されます
厳密に言うと、和包丁の平は、通常「木砥」で仕上げられていることが多く、一種のヘアライン仕上げです。職人によって表面処理された木砥目は、均一に仕上げられた凸凹のようなものですので、既に下地が出ていると言っても過言ではありません

さて、改めてポイントを整理してみましよう

包丁の鏡面仕上げの難易度を左右する三要素

鏡面仕上げの難易度(必要な作業時間)は、以下の3点によって大きく左右されます
  1. 刃物の形状(平面か曲面か、峰やアゴ回りの加工も行うか)
  2. 素材の硬度(側面も刃物鋼材の一枚物の包丁>ステンレス系の3枚合わせ包丁>軟鉄)
  3. 下地の状態(深い傷や、ピンホール状の錆の有無)

上記は、鏡面仕上げの作業時間を大きく左右する、非常に重要な要素です

これらに全く言及せず、最も簡単な和包丁の平を鏡面にして、「2時間で鏡面にできるよ!」と言ってのけるのは、これはもう、消費者のミスリードを誘って、わざと誤解させているとしか思えません

そのページには、一応「包丁の種類にもよりますが」という一文もあるのですが、それでは不十分です

なにしろ、そのページを書いているのは、大阪は堺市に所在を持つ包丁メーカーなのです。和包丁だけではなく、洋包丁も製造・販売しているのです
わたしがここで言及したことを、知らないわけがありません

万一知らないようであれば、包丁の仕上げについて知識不足であり、ど素人と言って構わないでしょう(包丁を販売するに値しません)
また、知っていて敢えて書かないのであれば、それは悪質です(わざと消費者のミスリードを狙っているのですから)

消費者を思いやるのではなく、最初から騙くらかすつもりならば話は別ですが、包丁メーカーとしての矜持があるのであれば、「包丁の種類にもよりますが」の一文で煙に巻くべきではありません
はっきりとした説明が必要でしょう

包丁の鏡面仕上げの作業時間は、実際どのくらいなのか?


それでは、はっきりとした説明するとどうなるのか、実際にここで解説してみましょう

前述の『和包丁の「平」を、2時間で鏡面に仕上げる場合』をモデルとして、同じ環境(道具)で作業した場合、洋包丁では何時間かかるのでしょうか?

一般的なステンレス洋包丁の場合は10~12時間程度は、見ておいた方が良いと思います
新品商品で、刃渡りは同程度、側面材の付いた「3枚合わせ」を仕上げる場合です

「平」が、包丁に占める表面積は、たったの1/4程度でしかありません
残りの面積3/4のうち、1/4が切刃となり、2/4が裏すき(裏面)となります
洋包丁には「平」という概念がなく、刃体全体が作業対象となりますので、面積は4倍となり、作業時間を単純に4倍すると、8時間かかることになります

また、磨く素材が軟鉄より硬いですので、研磨に時間がかかります
SUS410などのステンレス系刃物用側面材の場合、軟鉄と比較して、1.5~2割増し程度の作業時間が必要になるでしょう。計算するとこれだけで、12時間~16時間となります

「3枚合わせ」や「割り込み」のように、側面材を使用しない一枚物の包丁の場合、側面も硬度が高めですので、さらに時間がかかります。安物の包丁であれば硬度がHRC55前後なのでまだ良いですが。耐摩耗性に優れたVG10などの一枚物のステンレス包丁の場合は、なかなか研磨が進みません
そのため、15時間~20時間かかってもおかしくありません(ここまでくると、とても現実的ではありませんので、わたしは電動工具を使用することも多いです)

こうやって見ると、「サンドペーパーと白棒、青棒を使って、2時間で包丁を鏡面にできるよ!」というのは、和包丁の平だからこそ可能なことであり、和包丁の所有者自体が少数であることを考慮すれば、かなり特殊なケースであることが判ります

わたしも個人的に刃物としての和包丁が好きで、実際に数本所有しています
刃を研ぐ際に、時々平を磨いたりしています。しのぎ筋がきっちり出た和包丁は、見ているだけで背筋が真っ直ぐになる思いです

和包丁・鎌型薄刃
薄刃包丁で桂剥きをしていると、その切れ味に惚れ惚れします
そもそも刃の角度が違う(鋭角)というのもありますが、洋包丁では味わえない、片刃の素晴らしさというものがあるからです

和包丁は、世界に誇る日本の文化の一つであり、何世代にも渡って継承されてきた技術的な遺産です

だからこそ、和包丁を取り扱うメーカー各社には、いい加減なことを書いて欲しくないという思いがあります(自分が販売している和包丁の価値を、自ら貶める行為だからです)

上の画像は、わたしが実際に使っている和包丁です
柄のついていない方の一本は、柄付する前に撮影したものです。柄付や鏡面、漆塗りなど、カスタムの詳細は下のリンク先で詳しく紹介しています

● 関連ページ:和包丁のカスタム(薄刃包丁)

● 関連ページ:水野鍛錬所・源昭忠の薄刃包丁
(こちらは特にカスタムしていませんが、かなり使い込んでいます。桂剥きの画像はこちらで見られます)

誤解を招く記事を垂れ流す業者ほど、ダマスカス包丁をすすめてくる

こういったミスリードを誘う業者は、よく「ダマスカス包丁は、とてもおすすめ!」と言って勧めてきたりするんだよね
 ・・・と、思いながら、くだんのサイトを眺めていたら、本当にダマスカス包丁を勧めていました

「家庭用で迷ったらこれ」、「お勧め・人気No1」、「ミルフィーユ模様がカッコいい」と推している有様です
もう、呆れて物が言えません
ダマスカス包丁がおすすめできない理由は、こちらのページで詳しく解説していますので、興味のある方はご一読下さい


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