最強コスパのペティナイフ(ビクトリノックス)樹脂グリップの恩恵


軽くて薄くて使い良い


一言インプレ
  • 「本通し・ビス止め・積層強化木」では絶対不可能、超ハイコストパフォーマンス!
  • 樹脂グリップではあるものの、チープさを感じさせない、洗練されたスイスデザイン
  • 薄いブレード形状で、「刃抜け」が良く、適度にしなるため使いやすい
  • ペティーナイフとしては最軽量級、実測27g
  • 豊富なカラーバリエーション



「スイスクラシック パーリングナイフ」を使ってみた印象

薄く軽い、しなるブレード だがそれがいい!

このナイフは、ブレードの厚みが1.2mmしかなく、高さも17mmほどです
そのため、刃物としては一見頼りなさそうに見えるのですが、皮剥きや、フルーツなどの小物をカットする場合には、この上なく使いやすい優れものです

まず、非常に軽量ですので取り回しがよく、手首を返して剥き物をする際に非常に楽に感じます
また、刃の厚みが薄いために、刃抜けの良さも素晴らしいものがあります

この、刃の「抜け」の良さというものは、切れ味を左右する要素の一つですが、一枚鋼材の薄い刃だからこその持ち味であり、バランスの妙を感じます

箱出し時の切れ味は?

箱出し時の切れ味は、「まあ、必要にして充分な感じだよね~」という感じであります
超精密な刃付がなされているわけではありませんが、1000円以下で販売されている刃物に、そこまでの刃付加工を求めるのは酷というものでしょう(いたずらに商品価格が上がるだけです)

きちんと研ぎ上げた時のポテンシャルは、なかなか侮れないものがありますので、自分で砥ぐという方はしっかり仕上げてみて下さい

砥いだ感触と、切れ味は?

極端に硬い鋼材ではありませんので、研ぎおろしに時間がかからず、割と簡単に刃が付きます
刃が薄いこともあり、研いでいるときの感触は、「紙でも研いでいるかのよう」なのですが、丁寧かつ精密に研ぎ上げると、ブレードの薄さが良い方向に働いて、かなりの切れ味を出すことも可能です

とはいえ、砥石に刃を当てる際は、ブレード面積が限られているため、指を当てる位置がかなり砥石に近くなってしまいます。三徳包丁や牛刀など、刃の高さがある包丁にくらべると、若干の研ぎにくさを感じることは否定できません
また、ブレード形状にアゴがありませんので、根元近くを砥ぐ際に砥石の角に当てやすく、幾分注意が必要です
また、グリップの口金に相当する部分が、斜めに整形されているので、砥石への当て方も、やや制限されてしまいます

こういうことは、西洋の刃物文化で形作られたナイフを、和の水砥石で砥ごうする時に時折感じられるものですが、刃物文化の相違によるもので、致し方ありません

スティック状のシャープナー(研ぎ棒)を使うことが一般的な西洋では、このようなアゴ無しブレードでも特に不自由を感じないのでしょうが、日本の水砥石で研ごうとすると、砥石に刃を当てる位置が限定されてしまいます
慣れるとそれほど苦になりませんが、どちらかと言うと、形状的に研ぎにくさを感じる方かもしれません

ビクトリノックスの刃物鋼材

ビクトリノックスがナイフに使用している鋼材は「1.4110」(X55CrMo14)というステンレススチールで、ロックウエルHRCスケールでは、56~54の硬度とされています

一般用途の包丁やキッチンナイフの鋼材としては、カチカチに固くもなくヘナヘナに柔らかくもない、使いやすく研ぎやすい、適度な硬度ではないかと思います

特にこのペティナイフは、アゴ無し形状であることから、まな板にトントンと当てて切るような使い方をしないため、刃が潰れにくく、結果的に刃が長持ちします。そのため、決して硬い鋼材ではありませんが、意外と長切れするように感じてしまうかもしれません

なかなかよくできた樹脂製の柄

射出成形の樹脂製グリップを採用しているため、低コストで、手に馴染みやすい複雑な形状を実現しています
こういった樹脂製の柄は、ともすると安っぽくなりがちですが、それを逆手に乗っておしゃれに仕上げているところなどは、日本企業がなかなか真似のできないところで、スイスデザインの素晴らしさを感じます

ペティナイフの柄は「ビス止め・本通し・積層強化木」であることも多いですが、この製品には、軽量な樹脂製の柄がよく合っており、刃体と柄の両方が軽量であることで、抜群の使いやすさを生み出しています

中子がどこまで入っているのか外観からは判りませんが、ブレードの付け根から指一本分手前のところに重心があり、重量バランスも良好です



アゴがないペティナイフではできないこと

アゴが無いブレード形状のため、できないこともいくつかあります
例えば、じゃがいもの芽をアゴで取ることや、アゴの高さを利用した千切りができません(指がまな板に当たるので)
じゃがいもの芽は、V型に溝を切って取り除くか、刃の先端を使うしかありませんが、刃渡りが10センチと短めなため、先端で芽を取るのも意外に難しくありません

また、千切りに関しては、洋食のシェフがよくやるように、刃先をまな板に接した状態で手前に引き切りするようにしています。このあたりは「慣れ」だと思います

包丁やナイフの形状は、使い勝手に大きく影響しますので、人によっては「アゴ無し」はどうしても使いにくく感じる方もおられるかもしれません

そういう場合は素直に、アゴのある包丁を使いましょう
この一本だけで全てをこなすのは無理がありますが、「二本目の包丁」として用途に合わせて用いれば、とても重宝します

アゴなしペティナイフだからこそ、できること

「アゴ無し」のペティナイフは、西洋の刃物に多く、日本ではあまり一般的ではありません
ですが、この形状に慣れてしまうと、その使い易さに驚く方も多いでしょう

どこが使いやすいのかと言うと、皮剥きをする際のコントロール性が非常に良いのです
これは、握った時の『グリップの中心軸』と『刃筋』が、完全に並行であるということ、そして、グリップ中心軸と刃筋が、極めて近い距離にあるという二つの要素が合わさってなし得るものです

アゴが無いペティナイフは、まな板上での千切りには向いていませんし、砥石にも当てにくいなど、デメリットもあるのですが、特定の用途を捨てることで、反対に生きてくる要素もあるという、良い見本だと思います

パーリングナイフとは、ペティナイフのこと

この商品は、ビクトリノックスの公式サイトでは「パーリングナイフ」と表示されていますが、一部の通販サイトでは、これを「ペティナイフ」という名称で販売しています

パーリングナイフという呼称は、日本ではあまり馴染みがないため、あえて「ペティナイフ」とし、検索時にヒットしやすいよう意図的にやっているのでしょう
(実際、日本でペティナイフとされているものは、西洋ではパーリングナイフと呼ばれますから、あながち間違いではありません)

● 関連ページ:パーリングナイフとは?



ビクトリノックス スイスクラシック パーリングナイフは、どこが良いのか

ペティナイフとしては、驚くほど低価格な製品ではありますが、良い意味ですっぱりと妥協のあるところが、逆に素晴らしいです
この製品が低価格であるのは「安物だから」ではなく、見た目の高級感を捨て、樹脂製のグリップを採用し、実利のみを追求したことによる恩恵です

もしも、グリップを一般的な「口金付き、本通し、ビス止め、積層強化木」にしてしまうと、(鋼材と刃付けは同一でも)優に数千円は商品価格が跳ね上がります
そうするともう、(アゴがないということ以外は)価格も含めて非常にありふれたペティナイフになってしまいます

このペティナイフの良さは、不要なものを切り捨てて、シンプルにしていった結果の結実です
高硬度鋼材の使用を回避することで、ブレードの整形にかかるコストが下げるだけでなく、刃欠けせず、刃折れしにくい刃体となっています
また、薄い一枚物のブレードは、使用材料も少なく済み、重量的にも軽くなり、取り回しが良くなります

いろいろと付け足して製品価格を上げ、価格の高い高級品を作るのは、どこのメーカーにもできることですが、こういったシンプルで使い良く、実用性に富んだ低価格の製品を作るのは、実に難しいものです
一つ間違えると、「ただの安物」に成り下がってしまうからです

では、逆にデメリットは?

あえてデメリットを挙げるならば、それほど硬い鋼材ではないために、刃持ちの良い部類ではないこと、そして、樹脂グリップを使用しているため、高級感や重量感が感じられないことなどですが、逆に言うとその程度しかありません(アゴ無しのデメリットに関しては、前述を参照ください)

刃持ち良さは、刃付けの容易さとのトレードオフになりますので、相殺されるものです
逆に家庭内使用においては、このくらい硬さの方が、刃付けが容易で使いやすいとも言えます
特に、砥石を使わない方にとっては、簡易シャープナーでも刃が付きやすく、シャープナーの目も潰れにくいので長持ちし、メリットの方が大きいでしょう

刃物に重量感や、見た目の高級感を求める方には、このような樹脂グリップの製品は合わないかもしれませんが、そういう方は、ブレード側面にダマスカス模様のついた積層刃物でも買えば良いのだと思います(お金の無駄なのでおすすめはしませんが、お金を使うこと自体に価値を見出す人にはピッタリの刃物です)

鋼材を硬軟を考える 最適な硬度とは?

硬度の高い鋼材を使うと良い刃が付きますが、耐蝕性や靭性が劣ってくるため、側面に別の鋼材を貼り付けて、三枚合わせのブレードになりがちです
巷で流行りのダマスカス包丁も、切刃の鋼材をダマスカス模様の積層材でサンドイッチしたものですので、どうしても刃の厚みが増してしまいます(重くもなります)

刃が厚くなると、その分食材との抵抗が増して刃抜けが悪くなり、結果として切れ味が悪く感じます。刃先の切れ味は同じでも、刃の厚みが増えるだけで切りにくくなってしまうのです
(和の薄刃包丁は、これを「片刃」や「裏すき」といった構造によって、絶妙に回避していますが、二つ割りにする場合は、どうしても分が悪いです)

このペティナイフを使用していると、切れ味における「刃抜け」の良さの重要性をひしひしと感じさせられます(刃抜けが良いというのは、切り進む際に、刃の側面にかかる摩擦抵抗が少ないということです)

スイスクラシック パーリングナイフに使用されている鋼材は、包丁用刃物鋼材としては標準的な硬度であり、決して高硬度なものではありません
とはいえ、切れ味が悪いというわけでもありません。VG10などの硬度高めの鋼材に比較すると、刃持ちに関しては、幾分劣るとは思いますが、研ぎ上げ直後の刃先の鋭さに関しては、「研ぎ手の腕次第です」と言ってしまっても、あながち大きな語弊はないでしょう

「1.4110」(X55CrMo14)という鋼材は、硬度、靭性、耐蝕性、耐摩耗性、砥ぎやすさなど、刃物に求められる各要素において、傑出した数値を叩き出す事はありませんが、それぞれをよく兼ね備えた、ウェルバランスの鋼材です
そのため、わざわざ他の鋼材を側面に貼り付けて、「三枚合わせ」にする必要もなく、一枚ものの「薄くて軽い刃」の仕立てで充分であり、また、その良さがよく生きていると思います


刃物は、「とにかく硬度が高くないと意味がないのだ」という考えの方もおられるとは思いますが、このペティナイフを使っていると、「硬度を優先するために、他の重要な要素が、どれだけ犠牲になっているのか?」ということを、改めて考えさせられます


個人的には日本製の刃物が好きで、中でもハガネ(炭素鋼)の日本製刃物が一番だと思っています
仕上げ砥まで使って丁寧に研ぎ上げた際の、刃の「かかりの良さ」などを言い出すと、ハガネに優るものはありません
とはいえ、そこまでの切れ味が絶対的に必要かと言われると、少し言葉に詰まる時もあったりします(切り込みが良く、食材が全く逃げないので、使ってきて気持ちが良いというのはありますが)

「至高の切れ味」を求めるのではなく、「必要にして充分な切れ味で、なおかつ安くて使いやすければ、それでも良いではないか?」と言われると、正直ぐうの音も出ません

この「ビクトリノックス スイスクラシック パーリングナイフ」は、そういった「至高の…」ではなく、ほんとうの意味での実用品です
価格やデザインなども含めて、実用品としてこれだけ優れたペティナイフは、なかなか無いのではないかと思います

ハガネ(炭素鋼)ではないにもかかわらず、珍しく個人的に「お気に入り」の刃物の一つです





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