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味噌の訪問販売と法律


悪質な味噌訪問販売業者を取り締まる法律は?


平成28年の特定商取引法の改正に伴い、あからさまな押し売りは少なくなってきた
強引に買わせたり、買うまで居座るような迷惑行為は、見られなくなってきている

最近では、良心的な業者を装い、消費者とのトラブルを起こすことなく契約行動へと至らせている業者が多く、その手口は悪質化、巧妙化している

とはいえ、悪質な業者の訪問販売行動には、さまざまな法令違反行為が潜んでいる
具体的にはどのようなものだろうか?
今回の当該業者である神田屋を例にとって、法令違反行為(及び法令違反の嫌疑行為)を列挙してみた

当該業者における法令違反の詳細


当該業者(神田屋)の法令違反をまとめると、下記のとおりである
  1. 単一工場に製造を委託しているにも関わらず、商品ラベルに製造者の表記がない
  2. 購入者に対し、当該味噌の製造者であると誤認させ、製造者ではないことを告知せずに販売している(重要事項の不告知)
  3. 商品が高額なのは、「良い材料を使ってこだわりの製法で作っているから」と説明しているが、これは合理的な説明とはいえず、むしろ商品が高額な本当の理由を告知せずに販売している(重要事項の不告知、不利益事項の不告知)
  4. 老人その他の者の判断力の不足に乗じて契約を締結させている
  5. 公序良俗に違反している(民法90条)

「1」は、食品表示法違反(製造者表示義務の不履行)である

「2」についても、明らかな特定商取引法違反(重要事項の不告知、不利益事項の不告知等に該当)である
「3」「4」は、特定商取引法違反の可能性が高い(直ちに断定することはできないが、嫌疑行為であることは間違いなく、裁判所によって事実認定されれば有罪となりうる)


1 製造業者のように装い、購入者に誤認させている

食品の購入においてもっとも重要な要素は、その商品が信頼できるメーカー(生産者)によって製造されているかどうかである。
当該業者は、屋号が染め抜かれた藍染の前掛けを腰に巻き、あたかも味噌蔵の主人のように装い、消費者に「自分が作った」と誤認させ、製造者が存在することを告知せずに(むしろ隠蔽して)購買行動に至らせている
これは、特定商取引法の「重要事項の不告知」に該当する。

具体的には、「良い材料を使い、こだわりの製法で作っている」と説明しているが、日本語では主語がなくても会話が成立する点を悪用しており、購買者は、「(神田屋が)良い材料を仕入れて、(神田屋が、自分の味噌蔵で)こだわりの製法で作っている}と誤認させられている。
しかし実際は、神田屋は味噌を製造する施設を所持しておらず、他業者から仕入れた味噌に自社のラベルを貼って訪問販売しているだけである。

神田屋は、しきりに「お客様に納得の上、購入してもらっている」と力説するが、これのどこが「納得」なのだろうか?
まさに、重要事項や不利益事項を、不告知の状態で購入させていると言わざるを得ない
(誤解を恐れずに平たく言うと、消費者に嘘をつき、騙して購入させている)

この「製造者を隠匿し、自らがあたかも製造者であるように装った販売」についてであるが、後日、神田屋代表の保田氏に直接問いただしたところ、販売している味噌は自社製造したものではなく、製造者は別に存在することを認めた
しかしながら、製造者の名称については、「教えることはできない」との回答だった
販売者でありながら、製造者の情報を隠蔽し、応答義務すら果たさないというのは悪質であり、意図的に消費者を騙しているということができる

尚、製造者については、後日、消費者庁の調査により判明した

2 味噌が高額である理由を偽って説明している

9,880円/4kgの味噌は、通常の市販品と比較すると、著しく高額である
(福岡県味噌工業協同組合の中村氏は、これを「ありえない価格」と評している)

一般的に流通している高価格帯の味噌は、500gあたり500円~750円であり、4kg換算でも4000~6000円となる
これを踏まえると、良質の材料と手間を掛け、小規模生産で製造したとしても、合理的に妥当といえる価格は、グラム1円~1.5円と言って差し支えないだろう

つまり、良質の材料かつ、こだわりの製法で味噌を作ったとしても、それだけで神田屋の味噌がグラム2.47円と、極端に高額な理由を説明していることにはならない

当該商品が高額な理由は、材料や製法の問題ではない

まず、商品が自社製造ではないために、商品価格に製造者と販売者の両方の利益が含まれている
次に、商用ライトバンを使用した訪問販売という形態を取っているため、車両費やガソリン代、販売人件費など、通常の市販味噌には不必要な多額の販売コストがかかっている
上記二つが、神田屋の味噌商品が高額である主要な理由である(材料や製法は、瑣末な要因でしかない)

これらを二つの事由を消費者に告知せず、あたかも材料や製法のみが高額な理由であるように説明して購買させることは、明らかに消費者を欺いており、重要事項、もしくは不利益事実の不告知に該当する

3 老人その他の者の判断力の不足に乗じて契約を締結

通常の判断力があれば、神田屋の説明が不十分かつ虚偽が含まれていることは、容易に推測・判断でき、間違っても契約を結ぶことはない
だがしかし、今回の当事者のように、高齢に伴って認知力が低下していたり、発達障害によって他人の嘘を疑う心を持たない者にとっては、このような偽りを見抜くことは、はなはだ難しい

まさに、老人その他の者の判断力の不足に乗じて契約を締結させている(特定商取引法違反)と言わざるをえず、端的にいうと、高齢者を食い物にしていると言える

また、後日談ではあるが、商品購入者は、購入後に…
「神田屋は、仕入れた味噌にラベルを貼って売っているだけで、自分で味噌を作っているわけではない」 …という事実を知ることとなるが、それを聞いた際に、「それならもう買わない」と言っている。
つまり、当該業者の説明に起因する重要事実の誤認がなければ、そもそも購買することはなかった。ということであり、神田屋の販売行動が、消費者を欺いていることを示している


4 公序良俗違反

公序良俗違反は民法90条に規定されているが、言葉自体はあまり馴染みがないと思うのでので、似たような判例を上げて説明しよう

青森地方裁判所は…
流通価格が14万6000円程度のシルクスクリーン版画を、特別な一点物の絵画のように説明し、82万9000円で販売した絵画販売業者に対し…
商道徳を逸脱した違法なもので、契約は公序良俗に反し無効であるとの判決を下した
(青森地方裁判所十和田支部平成13年12月27日判決)


要は、本来そのような価値のない商品を、特別な価値のある商品であるかのように説明することで消費者を騙し、暴利を貪るような商行為は、公序良俗に違反するため、法令に違反するのだ

つまり、「商道徳」なる曖昧なものも、逸脱が過ぎるとそれだけで立派に法に問うことができるのである

今回の悪質な味噌の訪問販売を、公序良俗違反の観点から見てみると、以下のように表現できる

いたって普通の味噌(グラムあたり0.5~0.6円相当の品質)を、特別な材料と特別な製法で製造したかのごとく説明し、さらに、他社が製造した製品にも関わらず、あたかも自身が製造しているかのごとく偽って消費者を信用させ、4kg9880円(グラムあたり2.47円)で販売した
このような行為は、商道徳を逸脱した違法なもので、公序良俗に反し無効である

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