『 誕生日 』 荒井由美



目を覚まし、
まだカーテンをひかず、
薄暗い部屋で
今日が誕生日なのを思う。

もう一度、目を閉じると
今度は夢ではなく
本当にあった
さまざまなことの間を
心が旅していく。

ある時は何かをさけて
ある時は何かにぶつかって
はね返りながらも、
結局、きょうにむかって進んでいた。

そのジグザグなはずの道が
ふりむいてみると
まっすぐになっているのは
なぜだろう?



もし わたしに
過去にもどることが許されても
わたしは……
きっと同じ事をするだろう。

今になって後悔されることを
すべて帳消しにしてしまうには
わたしが生まれるよりは
もっともっと昔にさかのぼって
それを始めなければならないし、

よく考えると
そうまでも くやむことは
ないような気がするから……。

これまで、そしてこれからも
わたしのじゃまをし、あるいは導き
喜ばせたり悲しませたりする
”何か”とは
自分自身だということがわかった今



過ぎていったことがみんな
わたしの中で楽しい思い出になっているのを
ただ感謝したい。

大人へのドアがもう開いてしまったけれど
これでいいのだと思う。

今日のわたしは、今日のわたしがいちばん好き
明日のわたしは、明日のわたしが
きっといちばん好きになるだろう。




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