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[ Painting ]
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油彩用 絵具
あまり知られてはいませんが・・・
画材屋さんという場所は、実に恐ろしいところです
世の中の一般常識が、ものの見事にくつがえされているのです
油絵具を一本買うだけでも、何も知らずに行ったりすると
疑問と驚きで、腰を抜かしかねません
あまりにも常識はずれなので
「どうしてこうなっているのですか?」などとは
恐ろしくて尋ねることもできません
でも、もう大丈夫です
「はじめての 油絵具」を読んで
安心して画材屋さんに行きましょう
■ 油絵具 事実その1
・・・画材屋さんで 「赤色下さい」と言うと、笑われてしまう
ホルベイン
油絵具セット
クサカベ
油絵具習作用
ターレンス油彩
BASIC BOX
油絵具には
「赤色」という名のついた色はありません。
あるのは、
「クリムソンレーキ」とか、
「バーミリオン」とか
「カドミウムレッドオレンジ」とか、舌を噛みそうな名前ばかりです。
ですがこれは、別に初心者に対して敷居を高くしているわけではありません。
「芸術家」という変態的なパーソナリティーを満足させるための、一種の施策みたいなものです。
そう、油絵具の色種は、気が遠くなるほどあります。
「クサカベ」の油絵具リストを数えると、赤だけで30種類近くもあります。
ちなみに6号チューブの場合、全色で168種類あります。
ほんとうに、恐ろしいことです。
作った人は、おそらく「棚卸し」という言葉を知らなかったものと思われます。
知っていたのかもしれませんが、
「芸術だから許される」ということなのでしょう。
これに勝てるのは、口紅やマニキュアなどの化粧品だけです。
こちらも同様「美しさのため」の一言で、すべてが許されてしまうという、そら恐ろしい世界(魔界?)です。
さて、赤や青に種類があるのは、まだ理解できるとしても
はなはだしく常軌を逸しているのは
「ホワイト」です。
なんと
白だけで10種類以上もあります。
信じがたいことではありますが、これは事実です。
「110mlチューブ入り」という、やたらと大きなサイズも存在します。
「一度、歯磨き粉と間違えてみて下さい」と、いわんばかりの外観です。
しかし、「白」に多数の種類があるのには、それなりの理由があります。
油彩にとって「白」は非常に大事な色であり、さまざまな効果を狙って、カンバスの下地として べた塗りしたりもします。
(地塗りと呼びます。憶えておきましょう。)
色調の硬さや、光沢の強さ、重ね塗りの乗り具合など、一つ一つの「白色」に違いがあり、必要な人は、それぞれの種類を使い分けている(らしい)のです。
有名な「白色」としては
「ジンクホワイト」「チタニウムホワイト」「シルバーホワイト」「パーマネントホワイト」などがありますが、個人的には、値段的な理由から
「ホワイト&ホワイト」を使っています。
少々ミントの香りがいたしますが、発色も良く、
これで充分です。
バラ売りの油彩絵の具に「圧倒されて、恐れをなしてしまった」・・という場合は
迷わずに、
「12色セット」などの、「バラ」ではない油絵具セットを購入しましょう。
「セット絵の具」は、「芸術家」とは異なり、
「一般的で常識を有する方」のために、必ず在庫されています。
■ 油絵具 事実その2
・・・画材屋さんでは 同じ量の絵具なのに、値段が違うことがある
絵具の容量は、一般的に
「号」で表示されます。
6号チューブは20ml入りですが、同じ容量でも、大幅に値段が異なる場合があります。
驚くべきことに、同じ赤でも
「クリムソンレーキ」は450円、それに対して
「バーミリオン」は2400円もします(定価)
似たような色の商品なのに、5倍程度の価格差があるのです。
これは使用している顔料の原価によるもので、
安売り処分品でも
値札の間違いでもありません。
さて、ここで注意すべきは、それらが
「間違って高いのを買ってくださいね」
・・・と、いわんばかりに、整然と同じ棚に並べられていることです。
「ユニクロ」で同じことをやったら、どうなってしまうでしょうか?
似たような色の「フリース」であるにもかかわらず、「ほんの少し色が違うだけで、価格が何倍も異なる」商品があれば、購入者は商品選びに混乱してしまいます。
しかも、それらが、「ごちゃ混ぜ」の状態で、同じ棚に、同じ商品として陳列されているのです。
これは・・・「消費者の混乱を意図的に誘発させ、より高価な商品を買わせようとしている」 としか、思えません。
・・・ですが、美術業界では、当たり前のこととして通っています。
そう、
「芸術は、芸術という名のもとに、すべてが許される」恐ろしい世界なのです。
さらに恐ろしいことに、値段は直接表記されていません!
これは値上げするときに楽だからと思われます。
ちなみにどのようなしくみになっているかというと・・・
上の画像にあるように、絵具のラベルに「A」とか「B」とか記号が表示されており
それらを値段表と照らし合わせて、初めて価格がわかるようになっています。
( セット物の絵具には値段表示の記号がありません。 最初の画像参照 )
【 例 】 「クサカベ」6号チューブ の場合
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油絵具シリーズ「A」: 450円
-
油絵具シリーズ「B」: 500円
-
油絵具シリーズ「C」: 650円
-
油絵具シリーズ「D」: 850円
-- 中略 --
-
油絵具シリーズ「H」:2400円
もちろん、高価であれば、「いい色」というわけではありません。
色に良いも悪いもありません。 必要と思われる色を買えばよいのです。
個人的には「H」の絵具を"
松茸"と呼んでいます。
「A」なら"えのき"、「B」は"椎茸"、「C」は"しめじ"という具合です。
こちらの表記のほうが、初心者には親切でわかりやすいし、「納得もいく」というものです。
ちなみに、わたしの絵具箱の中は、「えのき」が8割、「椎茸」が2割となっています。
「松茸」は、絶対買ってやるものか。 ・・と、固く心に決めています。
■ 油絵具 事実その3
ホルベイン
6号チューブ
バーミリオンヒュー
クサカベ
油絵具
6号チューブ
・・・画材屋さんでは ニセモノと本物が、同じ棚で売られている
絵の具をよく見ると、名称の後に括弧して
(ヒュー・HUE)と書いてあるものがあります。
これは、云ってしまえば「ニセモノ」のことであります。
ただ、「ニセモノ」と言ってしまうと、あまりにも後ろめたいので
「代用品」という言葉を使って、お茶を濁すならわしになっています。
たとえば「バーミリオン」の場合、6号で1600円と極めて高価です。
とてもではないが、おいそれと買えるものではありません。
ヒュー(Hue)というのは、こういった「高価な色の代替品」のことです。
安価な代替原料を使用しているものの、ほぼ同じ発色の色として、同じ名前で売られています。
ニセモノといえばニセモノですが、誰も文句は言いません。
なぜなら、みんな喜んで使っているからです。
一般的には、ニセモノをつかまされないように、注意する必要がありますが
この場合には、
「うっかり本物を買って、余計な出費を増やしてしまう」ことのないように、気をつけなければなりません。
なにしろ、使う方にとっては、
「値段が違うだけで、後はほとんど同じ」・・なのですから。
作る方にとっては、「原材料が違う」のでしょうが、描く方にとっては、知ったこっちゃありません。
ファーストフード店では、「ポテトもございますが、いかがですか」 と、懇切丁寧に教えてくれたりもします。
ですが、画材屋さんでは
「ヒューもございますが、よろしかったですか?」とは、間違っても言ってはくれません。
自分で気をつけるしか、ほかにありません。
ここに文章として したためたことは すべて
「大きな声ではいえないけれど、本当のこと」 ・・です。
「芸術界」の「常識」は、一般世界の「非常識」です。
こんなことが許されているのも、「芸術の名のもとに、すべてが許される」・・・からです。
もしもあなたが、画材屋さんを訪れるときは、これらの「非常識」に怯むことなく
そ知らぬ顔で、冷静に、やり過ごしてください。
「 はじめての油絵具 」 おしまい
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