比不倉鉋の刃「利道」
「利道」の比不倉鉋の刃
一見、左利き用の切り出し小刀のようにも見えますが、これは比不倉鉋(ヒフクラ)の刃です
銘は「利道」、右横書きの「登録」
裏面の銘を見ると「
登録 利道」とあります
右横書きで刻まれているため、実際には『録登』と刻まれています
「登録」の文字は、判別ができないほど潰れていますが、右側の文字の右半分が、「登」の字であることがかろうじて判ります
登録を右から書いているところから見ると、相当の年代物の刃物であると思われます
横書き日本語の方向については、二次大戦前までは右横書きで書かれていましたが、戦後のGHQ占領時代をきっかけに左から綴るようになったとされています(左横書き)
実際、新聞の見出しが左横書きに切り替わったのが1946~1950年、紙幣は1948年より切り替わっています
このような時代背景を考えると、この鉋刃は1960年以前に製造された古い品ではないかと推測しています
刻印は頻繁に変えるものではありませんので、「更新猶予期間」として10年分を見ています
わたしが持っている刃物の中では、『製特』の刻印のある 清房の切出し小刀と同じく、最古参の一本です
銘は刻印で打ち込まれたようで、タガネによる手刻みではありません
小さな銘ですが、流麗で味わいのある書体となっています
一概に「古いから良い」というものではありませんが、時代を感じさせる道具というものは、佇まいに趣があり、いいものです
刃をつけ直したり、赤錆を落とすなどの手入れをして、刃物として蘇ってもらう予定ですが、ピカピカに磨きあげたりはせずに、良い意味で「侘び寂び」を残した感じに仕上げたいと考えています
キングデラックス#800番で刃付けしている様子
厳密にはPB-04の中砥石側
鋼(はがね)と軟鉄の境目(鍛接の跡)の拡大画像
一体化して密着している部分と、微細な間隙が生じている部分が見うけられます
比不倉鉋とは?
比不倉鉋は、「ひふくらかんな」と読みます
溝の側面を削るための鉋ですが、電動工具が主流となった現代では、使う人はあまり見られなくなりました
入手時の状態
全体的に黒錆に覆われてはいますが、黒錆の下に赤錆が浮いている箇所も見受けられます
底面は鉋刃として使用した際に、玄能で叩いた跡が、軟鉄が伸びてめくれた跡となって残っています
峰側の側面にも玄能を当てた跡がありますが、これは恐らくカンナ台への取り付け角度を調整する際に叩いたものと思われます
腹側の側面も、同様に当て跡が見られます
刃筋の中央には小さな刃欠けがあり、鎬筋の中央にはグラインダーで削ったと思われる跡(凹み)があります
刃面には孔食の跡もありますが、それほど深くはないようです
刃の面は、前側の斜めの刃と、後ろ側の横方向に付いた「2段」になっており、後ろ側の刃にはそこそこのサイズの「欠け」が出ています
後ろ側も『刃』と表現しましたが、実際には刃は付いていません
刃先は丸まっており、そこだけ部分的に削れているため、『面』で当てても、そこだけなかなか砥石に当たりません
荒砥で削り込んで、面を出し直す必要がありそうです
裏面です。年代物の刃物のため、腐食の跡が見られます
裏面の先端方向です。
腐食の貫入は、かなり深そうです
ざっくり研磨して腐食跡をきれいに除去するよりも、この「やれ感」を上手に残し、年代物の味を残して活かすようなレストアにできればと思います
表面の後方です。
部分的に赤錆も見られますが、良い意味での古道具感が残っています
とりあえず刃付けして、刃の様子を見る
キングデラックスで研いで刃付けを行い
仕上げ砥にキングS-1を使い、滑らかに仕上げました
鎬筋の凹みは未修正ですが、深く沈み込むようなハガネの色味が素晴らしく、軟鉄部の曇り具合も上々です
切れ味も上々で、特に言うことはありません
研ぎ上がりった状態です
鍛接の筋がきれいに出て趣があります。
時代を感じさせる、味のある「古の道具」です
嵐山#6000番でも研いでみました
これはこれで、いい感じに整いました(嵐山#6000番)
キングS-1の方が(わずかですが)、軟鉄部分がマットで曇った質感に仕上がり、
嵐山の方は、わずかに筋目が残りました
(その時の研ぎ方の具合にもよりますので、必ず一概にこうなるというものでもありません)
ダイヤモンド砥石で、切刃面の修正
荒砥で研ぎ込んで面を出し直しました
修正のポイントは、刃筋の刃欠け、鎬筋の凹み、刃先の歪みです
また、鎬筋の凹みは、切刃全体を平行に研ぎ込むのではなく、刃の角度を少し寝かせることで対処しました
そのまま平行に研ぎ込むと、裏切れの可能性も高まりますので、この選択となりました
また、これは元々鉋刃ですので、切り出し小刀に比べると、刃の角度がかなり立っています
将来的には切り出しナイフ用途で使うことを考えていますので、刃角を寝かせることは理にかなっています
切り出し小刀としては、ややサイズが小さまですが、使えないことはありません
#150番のダイヤモンド砥石で、刃を大まかに修正しました
鎬筋の凹んでいた部分まで、削り込みました
裏面も同様にダイヤモンド砥石で研ぎ出し、腐食跡を削り取ります
さすがはダイヤモンド砥石、効率良くゴリゴリ削れます
#600番のダイヤモンド砥石に変更し、粗い研ぎ傷を細かくします
裏面も同様に#600番に番手を上げて研ぎこみます
荒砥(ダイヤモンド砥石)で研いだ切刃面です
鎬筋の凹みはおおよそ取れましたが、わずかに残っています
この程度であれば、実使用と研ぎを繰り返すあいだに自然に取れていきますので、切刃面の修正はこの程度に留めたいと思います
刃付けして、仕上げる
キングデラックスで研いで刃付け(2)
(刃面修正後)
キングS-1で仕上げ研ぎ(2)
(刃面修正後)
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