月寅次郎のサイト

スーパーストーンバリア包丁 - 包丁ブランドの解説(12)

最終更新日: 作者:月寅次郎
スーパーストーンバリア包丁

スーパーストーンバリア(コパ・コーポレーション)

「スーパーストーンバリア」は、テレビ通販番組でよくみかけるブランド、テフロン加工のフライパンだけではなく、包丁も作っている

スーパーストーンバリアとは何なのか?

なんといっても、まずこの名前がスゴイ
スーパーストーンバリア包丁」である

無理やり日本語にすると、「超石・障壁包丁」となる
商品名に「石」が入っているところからすると、鉱石由来原料のコーティングか何かかというと、そんなことはない
原材料を調べてみると、ありきたりなフッ素樹脂膜加工であることが判る

要は、「スーパーストーンバリア」というのは、どこにでもある「フッ素表面加工」なのだ

他の包丁と価格を比較してみよう

スーパーストーン
バリア包丁



関孫六
ダマスカス

スーパーストーンバリア包丁の最もスゴイところは、驚くべき価格設定である
左に当該商品を掲載してみたので、実際に価格をその目で確かめてみて欲しい

比較対象の商品として、貝印の「関孫六 ダマスカス」を並べてみた
若干の価格差はあるものの、実売価格ではそれほどの差異が生じていないことが判る
このページを作成した次点では、関孫六ダマスカスより、スーパーストーンバリアの方が数百円高くなっている

関孫六 ダマスカス」は、一体口金で尻金付き。ハンドルは「本通し」よりもグレードの高い「鋲無し・くり抜き構造」となっている
ハンドル木部は「積層強化木」となっているが、目の詰まった良質の木材を採用していることが外観からもよく分かる
見た目にも美麗で、高級包丁として申し分のない造りである

一方の「スーパーストーンバリア包丁」の方は、「口金無し・半中子」という極めて安物タイプの造りになっている
半中子の包丁はダメだとは言わないが、「本通し」や「背通し」に比べると低グレードであることは否めない
ハンドルの木材にしても決して質が高いものとは言えず、包丁の構造としては、30~40年前の作りのままで、ただ側面にフッ素加工を施しただけ にしか見えない
このあたりは、包丁に詳しい人からすると、一目瞭然であろう

「半中子」の包丁は、「昭和の風情を残した包丁」と言うこともでき、高度成長期にはよく見かけたものである
当時は鋼材が貴重であったこともあり、鋼材使用量を抑え、低コストの包丁によく使用されていた
半中子の包丁は、現代ではあまり見かけなくなったが、「ビクトリノックスのウッドシリーズ(旧デザインタイプ)」など、伝統的デザインを尊重して販売継続している「ロングセラーの包丁」などで見ることができる

このようなロングセラー製品の場合は、「昔の伝統そのままに造り続けている」と言えなくもないが、令和の時代に造られた新製品ともなると、「いまどき半中子なの?」と疑問を呈したくなるところだ

こうしてみると、スーパーストーンバリア包丁の価格設定が、(製品内容から考えると)かなり、いや、とてつもなく高額になっていることが判る
なんという強気の価格設定だろうか、口の悪い人であれば「ボッタクリ」と言いかねないところだ(もちろんわたしは決してそんなことは言いません)

スーパーストーンバリアの内幕に迫る

包丁を製造しているのは、どの会社?


さてこの「スーパーストーンバリア」。どこの会社が製造しているのかというと、大坂市西淀川区の協和工業という会社が作っている

スーパーストーンバリアを作っている協和工業のホームページ

会社のホームページを確認してみたが、冒頭から「HAVE A RICHER -LIFE-」というメタメタな英語表現で苦笑されられてしまった(おそらくわたしのような凡人には理解不能な、一流のウイットに富んだ表現なのだろう)

会社概要を見てみると…
自社で製品の企画・開発から製造、販売までを一貫して行うメーカーです」と書いてある (実にすばらしい。本当であれば…)
では、どこに自社工場があるのかと、会社拠点の地図に目をやると、そこには「生産委託工場」の文字がある
「生産委託?」…ということは、外注(OEM)を使っているわけですね
「開発・製造・販売までを一貫して行う」という文言と食い違いがあるようです

企画・販売した会社は?

いろいろ調べてみたところ、上に書いた協和工業というのは、あくまでも製造を担当しているにすぎないことが判った

つまり外注先として製造を委託されているだけなのだ
それでは製造を委託している会社はどこなのだろう?

それは、コパ・コーポレーションという会社である
実演販売で有名な、レジェンド松下さんが取締役を務めている会社といえばわかりやすいだろうか?

このコパ・コーポレーションが、前述の協和工業に「スーパーストーンバリア包丁」の製造を委託し、完成商品を販売している

意図的に誤認を誘うのは、商売人の倫理にもとる

amazonの販売ページを見てみると、「レジェンド松下」さんの顔画像と一緒に、複数の商品画像が確認できる (実際に確認する場合は、冒頭のスーパーストーンバリアの画像から、販売ページへ辿れます)

この商品表示画像の一つに「岐阜県関市」の地図がデカデカと描かれているものがある

なるほど、刃物の町の関市で作っているのか」と受け取る人も多いと思うが、実はそうではない

これは消費者の誤認識を誘っているのであり、実際に関市で製造されていはいない
協和工業の公式ホームページを確認しても、関市には製造委託工場等の拠点は一切見当たらない

説明文には、「岐阜県関市の刀鍛冶の伝統を受け継ぐ 職人による手作業の仕上げ」とある
文字を注意深く追ってみると判るが、「関市で作っている」とは、一言も書かれていない

これは、完全に「消費者の誤認」を誘っている そうとしか思えない
こういう売り方を平気でやってしまうあたり、やり方が巧妙で姑息である

ふと思い出したが、かつて家にやってきた、高額な味噌の訪問販売も、このような消費者の誤認を誘った売り方をしていた

中身は安いのに、なぜ価格は高いのか?


テレビの通販番組では、「レジェンド松下」さんがスーパーストーンバリア包丁を手に取り、鮮やかな手付きで切れ味を披露する実演を行っている

言い方を変えるとこの包丁は、材料費や製造コスト以外の「営業販売費」が異様に高くかかっている包丁なのだ
テレビ通販番組を放映するだけの膨大な広告費がかかっているといえば、わかりやすいだろうか?

そもそも「レジェンド松下」さんといえば、芸能人なみに知名度の高い実演販売者である
支払われるギャラも、当然それなりに高額なものであるだろう

このようなテレビ放映費用や、著名な販売員に商品を紹介してもらう費用は、すべてこの「スーパーストーンバリア包丁」の価格の中に内包されている

つまり、テレビ放映費やレジェンド松下さんのギャラは、スーパーストーンバリア包丁の購入者が支払っているようなものである
なぜならば、商品自体の製造コストは微々たるもので、上記の広告宣伝販売費の方が圧倒的に巨額であるからである

包丁のコストの中にテレビ放映費用がたんまり乗っかっているだけで、どれほどコスパの悪い包丁となってしまうかは、想像に難くない
もしもそうではなかった場合、つまり、無料出演なおかつ放映料が無料(もしくはそれに近いほどの低額)の場合は、逆に、「利益率の設定が高すぎる包丁」だと言えよう。どちらにせよ、消費者にとってはコスパの悪すぎる包丁であることは変わらない

ツイートボタン

包丁マニア目線で実演販売を検証

実演販売では、時折「子供だましの、ひどい手品」を見せられることがある
レジェンド松下さんの実演販売をYouTubeで確認してみたところ、多分に漏れず、やはりそのような箇所は存在した

「人参を切り比べて、刃が入るかどうかを比較する」箇所がそうだ

具体的な手順はこうだ
  1. スーパーストーンバリア包丁と、比較用の包丁を用意する
  2. 比較用の包丁で人参を試し切りする
    切る場所は、人参の中央あたりの太い部分。切り方は、刃先をまな板に当てての引き切り
    (ここでは刃が入っていかず、切れないことを確認する)
  3. スーパーストーンバリア包丁で、同様に試し切り
    切り方は同じだが、なぜか切る位置を微妙にずらし、人参の端(先端の細い部分)を切る
はっきり言ってしまうと、まるで子供だまし
巧妙に切る位置を変え、軽い力でスパスパ切れる場所を選んで切っている

これなら、切れて当たり前というものだ 「どうして人参の同じ場所を切らないんですか?」…と、尋ねてみたいものだ
知らない人からすると、スーパーストーンバリア包丁の方が、やたらと切れ味が良いように思えてしまうだろう 実に巧妙だ

人参のような根菜類は、基本的に硬さは一様だが、どこをどう切るかで、刃の入り具合が全く変わってくる
これは実際にやってみるとよく分かる
「引き切り」で人参の太い部分を切ってみると、最初は刃が入っても、途中で刃が止まってしまうものだ

細身のペティナイフなど、かなり薄い刃でやってもそうなるのだ
念の為わたしも、ビクトリノックスのペティナイフで検証してみた
この刃は厚みが1.2mmとスーパーストーンバリア包丁よりも薄く仕上げてあるが、それでも人参の太い部分を引き切りで切ろうとすると、途中で刃が止まってしまう
ちなみに、スーパーストーンバリア包丁の厚みは、コパ・コーポレーションに確認したところ、三徳包丁では約1.8mm、牛刀は約1.7mmとのことだった
確かに薄い方には違いない。だが、現行型のダイソー100均包丁は1.2mmと、もっと薄い
はっきり言ってしまうと、プレス圧延の安物だから、ブレードそのものが薄いのだ。MISONOが研いで刃先を薄くしているのとは、次元の異なる話だ


いくら鋭いナイフであったとしても、木の幹に真っ向から切り込めば、刃は入っていかない
だが、ナイフで木を削ることは、子供でもできる
それと同じことを、人参でやっているだけなのだ

端を削ぎ切りにするのと、中央で二つ割りにするのとでは、包丁にかかる力が全く違うのだから、当たり前と言えばそれまでだが、そこに着目していなければ、簡単に騙されてしまうだろう

もしも人参を切る機会があったら、実際に試してみるとよいだろう
こういった、実演販売のカラクリの仕組みがよく分かるというものだ
冒頭で、「子供だましの、ひどい手品」だとこき下ろしたが、実際その通りだと思う

手品は素晴らしいエンターテイメントだ
観客は、騙されることを承知の上で、それを楽しんでいる

一方の実演販売はどうだろう?

代金を支払い、商品を使ってみて、本当の満足が残るだろうか
使った後に、「騙された…」という言葉が脳裏をよぎらないだろうか?

「騙される方が馬鹿」という言葉もあるが、そういう者を身内に抱えるものとしては、その一言で済まされてしまっては身も蓋もない

法律面から見ると、これが違法か合法かの線引は、「優良誤認表示の禁止(景品表示法第5条)」が規定している
文言で示すと「事実に相違して、競合商品よりも著しく優良であることを示し、不当に顧客を誘引…」のあたりだ

今回の場合は、切る場所を変えているのが明確に写っており、「事実」には相違ない

現実に起こっているのは、「消費者の誤認を誘い、競合商品よりも著しく優良であると思わせ、不当に顧客を誘引…」となる。 「示している」わけではなく、「思わせているだけ」なので、法には抵触しない

つまり、法律に違反しない程度に、(ギリギリを狙って)消費者の誤認を誘っているのだ
テレビメディアは、このような映像を平気で流し続けて、良いものだろうか?
出演タレント側も、このような仕事は受けるべきではないだろう
「その通り!」と思う方は、ページ上部の「イイネ」ボタンをお押し下さい

スーパーストーンバリア包丁 - まとめ

当初、このスーパーストーンバリア包丁は、「おすすめ包丁ブランドの一覧」で取り上げる予定はありませんでした

そもそも、おすすめの包丁メーカーではありません
正直なところ、取り上げるまでもないし、取り上げたくもなかったのです
包丁マニアとしては、このたぐいの商品は黙殺したいところです

側面にフッ素コーティングを施した包丁など、わたしからすると、「研ぎ抜くことのできない、つまらない包丁」でしかありません。そもそもコーティングにどれだけの現実的メリットがあるのか、はなはだ疑問です(個人の意見です)

ですが、前述のように、高額な味噌の訪問販売を、「手作りで良い味噌だ」と騙されて買ってしまうような消費者も、世の中には多数存在します 何を隠そう、わたしの母もそういうタイプです

そういう方(及びその近親者の方々)の一助となるよう、「包丁に詳しい人」の見地から、今回はスーパーストーン包丁を解説してみました

また、敢えて「おすすめでないメーカー」を取り上げ、「なぜ、おすすめできないのか?」を明らかにすることは、包丁選びにおける有益な情報ではないかとも考えます

逆に、このような負の面を紹介することで、高い品質の良心的な包丁が正しく評価されることに寄与するのであれば、このページを書いた意義もあるというものです

わたしの考える 「おすすめの包丁」については、以下のページで解説しています

● 高級モデル おすすめの包丁 (外観より切れ味重視でランキング)

● 普及タイプ 関孫六の「おすすめ包丁」は?

● 安くても切れ味が良い包丁 家庭用のおすすめ包丁

● スーパーストーンバリア包丁 - 評価

1.宣伝広告販売費に膨大なコストのかかった包丁
2.包丁の中身にコストが掛かった、コスパの良い包丁ではない
(むしろ、類を見ないほどコスパが劣悪)
3.包丁の側面をコーティングして得られるメリットは微々たるもの ※1

※1 製品価格が上がるだけで、研ぐ際のデメリットの方が大きい場合があります
角度を寝かせ気味にして研ぐと、砥泥が多い場合にダイラタンシー効果によってコーティングが傷つく場合があり、研ぎ角が制限される場合がある。刃が減って切刃の幅が広くなった場合に、研ぎ抜いて刃を薄くすると、コーティングのかなりの部分が剥がれてしまうなど

その他の包丁ブランド - 目次

  1. 包丁のブランド(メーカー)について
  2. 関孫六・旬(貝印)
  3. ヘンケルス Henckels
  4. ツヴィリング Zwilling
  5. グローバル(吉田金属)
  6. 藤次郎
  7. ヴェルダン(下村工業)
  8. ビクトリノックス Victorinox
  9. Misono
  10. ギャラクシー(ダイソー・100均)
  11. Gサカイ
  12. グレステン(ホンマ科学)
  13. MAC(マック)
  14. 関虎徹(安田刃物)
  15. 京セラ
  16. KASUMI(スミカマ)
  17. ヤクセル
  18. パール金属
  19. ヴォストフ Wusthof
  20. オピネル Opinel
  21. ティファール T-fal
  22. マイヤー Meyer
  23. アムウェイ Amway
  24. スーパーストーンバリア包丁

※ 当ページに書かれているのは、あくまで刃物好きの包丁マニアとしての、個人的な印象です(絶対的なものではありません)

人の価値観はそれそれです
自動車の世界でも、エアロパーツをゴテゴテ装着して車高を極端に落とした車を、「かっこいい」と思って乗っている人がいる一方で、「恥ずかしい・みっともない」と思う人も存在します
それと同様に、価値には多様性が存在します

このページに書かれていることは、単に一方向から見た個人の意見です(多人数の意見をまとめて集約したものではありません。あくまでも一つの参考として捉えて下さい)


Echo Show 5
スマートディスプレイ

with Alexa
おすすめの包丁(外観より切れ味重視でランキング)

家庭用のおすすめ包丁(安い価格で、最良の切れ味を)

ダマスカス包丁について(本当におすすめ?)

包丁のトップページ に戻る