藤次郎 DPコバルト合金鋼割込 ペティナイフ
一言インプレ
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鋼材はV金10号をおごっており、その割にはリーズナブルな価格
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一体口金は価格が高くなりがちだが、なかなか頑張っている
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細かいアラも散見されるが、普通に使う分には支障のない範囲
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実用性と耐久性を重視しており、家庭内使用よりもプロの料理人に適性あり
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安定感のある無難な作りの質実剛健タイプ、仕事人の包丁
(高級感あふれる仕上げや、外観の美麗さが欲しい場合は、高価格帯の「そういう包丁」を買うべし)
補足
この包丁を購入したのは2016年12月ですが、その頃は、今よりも大幅に低い金額で販売されていました。
そのため、上に掲載していた一言インプレも、「コスパが良い」、「お手頃価格」といった言葉を使い、おおいに褒めていました。
しかしながら、近年の鋼材価格の高騰や、宇露戦争に伴うインフレにより、実売価格がかなり上昇しています。
そのため表現を現状に合わせて変更し、「リーズナブルな価格」としています。
※ 購入時の価格については、ページ最下部に購入時のキャプチャー画像を掲載しています。(ウソかと思われるかもしれませんが、コラ画像ではありません。本当にこの価格でした)
なお、現時点での実売価格はこのページの左側に表示されています。そちらをご確認ください。
(amazonの広告機能を利用しているため、広告ブロッカーを利用している場合は、価格が表示されません)
使用した感想(レビュー・インプレ)
刃付の精度
藤次郎
DPコバルト
合金鋼割込
ペティナイフ
箱出し時の刃付は、しっかりしています。かなり精密な刃付がなされておりました。
高額な砥石を何本も所有しているような「研ぎマニア」の人からすると、不満が出るかもしれませんが、
家庭内で使う分には、箱出しでそのまま充分使えるレベルです。
現在販売されている製品とは、刃面のロゴマークが異なりますが、
意匠の変更が行われただけで、製品そのものは同一です。
(左の画像の商品です。実売価格が表示されない場合は広告ブロッカーをOFFにしてみてください)
V金10号(VG10)でお手頃価格
DPコバルト
牛刀 210mm
粉末ハイス鋼
牛刀 210㎜
V金10号は、武生特殊鋼材が製造している刃物用鋼材です。
コバルトを1.3~1.8%含有していることが最大の特徴で、耐摩耗性と耐蝕性に優れており、硬度もHRCスケールで61-59程度あり、包丁やナイフなど、さまざまな刃物に採用されている優れた鋼材です。
ZDP189(日立金属安来製作所)や、
スーパーゴールド2(武生特殊鋼材)などの
粉末ハイス鋼(粉末冶金鋼)ほどではありませんが、刃物鋼材のなかでもお値段高めの材質で、『
高級刃物用鋼材』といって差し支えない部類です。
当然この鋼材で刃物を作ろうとすると、往々にしてお値段高めの製品に仕上がることが多いものです。
にもかかわらず、この藤次郎のペティナイフは、(VG10を使っていることを考慮すると)なかなかのお手頃価格に仕上げているということができるでしょう。
どちらかというと、
仕上げにお金をかけるよりも、鋼材にお金をかけたという質実剛健な作りになっており、下に書いているように、実用上問題にならないていどの程度の仕上げの甘さも見て取れます。
ですが、そんなことを気にするというのであれば、よりたくさんの金額を支払って、関孫六プレミアのような
仕上げ加工に存分にコストを掛けた高級包丁を買えばよいのです(下記リンク※1参照)
コストパフォーマンスという観点からすると、なかなか素晴らしい包丁ではないかと思います。
藤次郎の包丁は実用的なので、プロの料理人さんもよく使っていると言われますが、頷けるところです。
● 関連ページ:
藤次郎のDPコバルト合金鋼は、本当にV金10号なのか?
● 関連ページ:
おすすめの包丁 (外観より切れ味重視でランキング)(※1 関孫六プレミア限定)
ハンドル材は積層強化木の一種だが、木質感の少ない実用派タイプ
藤次郎に採用されているハンドル材は、
一般的な積層強化木とは異なり、木の板ではなく、木材の粉が原料に使用されています。
(一般的な積層強化木は、樹脂浸透させた薄板の木材を、高圧プレスして一体化させたものです)
そのため
木目が一切ありません。表面の質感は、木材と樹脂の中間のようなテクスチャーとなっています。
この、藤次郎が採用しているハンドル材は、基材が粉状のため
高い充填密度を出すことが可能です。
原材料となる木材の比重や密度に左右されることなく、安定して目の詰まった高密度の状態に仕上げることが可能ですので、一般的な積層強化木のような
個体差がほとんど生じません。
また、
長年使用した場合の表面白化も出にくいため、耐久性に関しては非常に高いハンドル材の一つです。
木質感には乏しいため、見た目の風合いや、美麗な外観を演出することには不向きですが、毎日何時間も包丁を振るうような、プロの料理人の用途にも応えてくれる、デュラビリティに富む素材です。
藤次郎はどちらかというと、(家庭の主婦よりも)調理現場からの評価が高い傾向にありますが、このような耐久性の高いハンドル材を採用している点も、評価される一因となっています。
現在このハンドル材は、積層強化材という表示になっています。
このペティナイフ購入時のハンドル材表記は、「黒積層強化木(ECOウッド)」でしたので、表記の変更がなされたもようです。
(『木』が『材』となっており、「ECOウッド」の表記が消えましたが、表示が変わっただけであり、素材そのものの変更ではないものと思われます)
研ぎ味はやや硬めなものの、実用的な、いい刃が付きます
藤次郎プロ
ニッケルダマスカス
堺孝行
ダマスカス柳刃
黒塗鞘付
研いでみると
やや硬めの砥ぎ味で、なんとなく「鉄面皮」といった印象を受けましたが、それなりにいい刃が付きます。
カエリの出方からも、しっかりと硬度が出ていることが伝わってきて、刃持ちも良好であろうことは容易に想像がつきます。(あまり粘る方ではなく、カチカチとした感じです)
ハガネのように「惚れ惚れするような刃が付く」といった方向性ではありませんが、これはこれで、非常に
実用的な刃に仕上がります。
ハガネはある意味、良くも悪くも芸術的な切れ味を持っていますが、この藤次郎のV金10号は、まさしく実務的で、業務用としてバックヤードで使うならば、最適な選択の一つではないかと思います。
オープンキッチンで華々しく、というよりは、
バックヤードで寡黙に仕事をこなすタフなやつ、という感じです。
あまりに実用的すぎて、若干面白みに欠けるような気もしないではないですが、これで不満が出るようでしたら、「切れ味に『華』が無い」とかいうマニア的な視点になってきますので、その場合は、
コバルトスペシャルを使った包丁でも求めるか、
ディープなハガネ(炭素鋼)の世界に入っていくしか無いかもしれません(刃物マニアが好む粉末ハイス鋼というのもあります)
敢えて難点を挙げるならば、鋼材としては
耐摩耗性が高めのキャラクターであるため、
「簡単に、さくっと刃が付く」というタイプではないというところです。
研ぎにくいというほどではありませんが、決して研ぎやすいというわけでもありません。
それなりの砥石を用意して、きちんと研ぐことのできる人には問題ありませんが、砥石使いが苦手な方は、もう少し研ぎやすい包丁を選択した方が良いでしょう。
(これは、そこそこ研ぎ慣れた人の個人的感想です。包丁研ぎに初めてチャレンジする人の場合、いろいろと戸惑うかもしれないので、おすすめしづらい鋼材の部類です)
刃体の整形に、若干の甘さが見て取れる
細かいことを言うと、刃の厚みに関して、「これは、う~む・・・」と、首をかしげたくなる点が2つあります。
まず一箇所目は、口金近辺の厚みが薄くなっているところです。
「この部分、ちょっと削りすぎてる」という感じがしないでもありません。
(たまたま成形不良気味の個体に当たった可能性も否定できませんが、amazonのレビューで同様の指摘をしている方がおられますので、恐らく「こういう仕様」なのでしょう)
堺孝行
黒影 牛刀
通常の刃は、口金付近が最も厚くなっており、刃先に行くに従って徐々に薄くなるものですが、なぜかこの藤次郎のペティナイフは、口金付近がくびれています。
言い方を変えると、アゴより先の峰部にやたらと厚みがあるという感じです。
ペティナイフとしては、ややぼってりしてる、‥と言ってもよいくらいです。
計測してみると、
最も厚い部分は2mm(口金より1.5cmほど先の部分)で、くびれた部分は1.7mmとなっており、その差はわずか0.3mmしかありませんが、目視では結構目立ちます。
これはおそらく、一体口金成型時の切削加工によるものでしょう。
溶接ビード(溶接痕の盛り上がりのこと)を削り落として平滑にする際、グラインダーを深く当てすぎて、削りすぎているものと思われます。
幸いなことに、元々の刃が厚めのため、くびれているといってもまだ充分な厚みが残っており、強度的には全く問題ありません。
とはいえ、ペティナイフの刃厚が2mmなのは、少々厚すぎとも思います。
三徳包丁ではないのですから、せめて(最厚部分でも)1.7mmくらいにまで削いで欲しいものです。
(ただ、製品価格を勘案するとあまり贅沢も言えません。薄くするのは結構面倒で、手間暇とコストがかかるのです)
二点目は、峰近辺の削り込みです。
おそらく、峰の角のバリを取るための研磨工程によるものでしょうが、峰近辺がかなり削り込まれており、結果的に、峰の少し下のあたりが妙に厚く感じられるのです。
刃に『肩』があるみたいで、なんだか変な感じです。
「妙なところが出っ張ってるな…、どうしてここが厚いの?」という感じです。
これも、はっきり言ってしまうと、「削りすぎ」によるものだと思います。
とはいえ、これらは細かい話ですので、さして気にする程のことではありません。
商品価格を考慮すれば、「重箱の隅をつつきすぎ」なのです。
「そんな細かいことを言うのであれば、定価1万円前後の、高額なペティナイフを買えばいいんだよ!」・・・なのです。
包丁やペティナイフの微妙な刃の厚みなどは、全く気にしない人もたくさんおられます。ここで指摘したのは、普通の感覚であれば、あまり気付かない程度の細かい話です。決して藤次郎の包丁の作りが悪いわけではありません。
ちなみに、高価格帯の包丁の場合は、このような細かいところまで抜かりなく仕上げているものが多いです。
こういうところまできっちり精密に仕上げようとすると、やたらとコストがかかって製品価格が跳ね上がります。
「コスパ重視の質実剛健」というスタンスの製品の場合は、これはこれで、価格を抑えながらも質を落とさないという、実にまっとうな仕上げだと思います。
微細な刃の厚みまでこだわるような、包丁マニアの方の場合は、前述のように、高額な包丁を買えば良いのですし、もしくは自分で砥ぎ抜いて、好みの刃厚に仕立て上げれば良い。・・・そういうことなのです。
追記:後日荒砥を使用して、刃の厚みを修正しました。
研ぎ抜いて刃の厚みを薄くしたおかげで、前述の「くびれ」も、わからない程度に修正できました。
最終的には、下の画像のように
ブレードを鏡面に加工して、美しく仕上げています。
※
作業手順の目次はこちらです。
柄はやや細身です
ツヴィリング
ボブ・クレーマー
メイジ シェフ
ダマスカス
これも、やや気にしすぎかも知れませんが、
柄が幾分細いように感じます。
自分は手が大きい方なので、余計にそう感じるのでしょう。
逆に、手が小さめの女性にとっては、ちょうどよく感じるかもしれません。
柄の横幅をノギスで計測してみると、12.6mmでした。
ちなみに、
貝印関孫六4000CLペティナイフの柄幅は13.8mmです。
こちらと握り比べてみると、
かなり太さが異なるように感じますが、実際には1.2mmしか違いません。
手の感覚というのはずいぶんと小さな違いでも、敏感に感じ取るものだなと思います。
柄の形状の好みは、人それぞれではありますが、手が大きいために細身の柄だと合わないという方は、刃物店で一度握ってみるなどして試したほうがよいかもしれません。
120mmと150mm、どちらを選ぶか?
すでに三徳包丁か牛刀を持っていて、それに
買い足して使う場合は、120mmのペティナイフが良いでしょう。
一般的な三徳包丁のサイズは165mmですので、そこに150mmのペティナイフを買い足しても、あまりメリットが感じられません(似たようなサイズの包丁が増えるだけです)
逆に、
一人暮らしなどの場合は、150mmのペティナイフが良いかもしれません。
刃渡りが150mmあれば、ある程度の調理は可能ですし、小~中程度の食材ですと、これ一本でも色々こなせてマルチに使えます。
ペティナイフという形状に、どうしても慣れ親しみがない場合は、「
小包丁」を使うという選択もありますが、ペティナイフ一本で何でもこなす方もおられますので、このあたりは人それぞれかもしれません。
藤次郎 DPコバルト合金鋼割込 口金付 ペティナイフ 120mm 諸元
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型番:F-801
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刃体の仕立て:コバルト合金鋼とスレンレスのクラッド材(利器材)
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切刃:コバルト合金鋼(V金10号・VG10)、側面:13クロムステンレス鋼
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口金:18-8ステンレス鋼(溶接後の切削研磨による一体成型)
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柄:黒積層強化木(ECOウッド) 柄幅12.6mm
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サイズ:全長230mm 刃渡り:120mm(アゴから) 刃厚2.0mm 刃幅25mm 重量67g
● 関連ページ1:
藤次郎のペティナイフを鏡面に
● 関連ページ2:
藤次郎のDPコバルト合金鋼は、本当にV金10号なのか?
● 人気ページ1:
おすすめの包丁 (外観より切れ味重視でランキング)
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