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和包丁の防水処理(エポキシ充填、中子の防錆)


和包丁の防水処理(付け根の腐食折れと中子の中腐りを防止)

刃の鏡面仕上げ柄の漆塗り が終わりましたので、次は「柄付け」なのですが、ここできちんと防水・防錆処理を行いたいと思います

本職(プロ)の料理人さんの場合は、中子が錆びてやせ細るよりも、包丁が研ぎ減って行くペースの方が速いため、下記で紹介している入念な防錆処理を施す必要性は少ないかと思います

ですがこの包丁は、「家庭用」として使いますので、かなり長期間使用することになりそうです。 そのため、しっかりと防水・防錆処理を施しました

今回の柄付けは、一度中子を焼いて柄付けした後に、一旦取り外して再度柄付けしています
中子を焼いて柄付けする方法はこちらです

中子に防錆コーティングを施す

和包丁の中子と柄
中子が水分と接触しないよう、塗料を塗ってコーティングします
使用した塗料は、柄を塗った際に使用したカシュー漆で、かなり薄く溶いて塗布しています

画像の、「マチ」から後ろの中子の部分、色が薄茶色に変化している部分が、漆を薄く塗布した箇所になります

この中子をコーティングする処理は、あまり一般的ではありません(かなり特殊な処理です)
そもそも柄を付け外しすること自体が、一般的ではありませんので、このような処理が難しい場合は、後ろの方で紹介している、「エポキシ充填」のみでも充分効果があると思います

堺一文字光秀
薄刃包丁

青鋼 紋鍛錬
中子を漆でコーティングした後、完全硬化するのを待ってから、柄付けします

この柄は、一度中子を焼いて包丁に柄付けしていますので、穴の形がきれいに仕上がっています
そのため、2回目以降の柄付けは、中子を穴に押し込んで、柄尻を木槌でトントンと叩けば元通りに納まります

中子の角の部分などは、柄の内部と擦れやすい部分ですので、挿入時にコーティングが剥がれてしまう可能性もありますが、そこそこ堅牢な被膜ですのである程度は持ってくれると思います

中子の防水コート処理は、万一水分が侵入した場合の予防措置であり、この後の工程で、柄と刃の隙間を埋める処理の方が、より重要なものになります

やってはダメ! 柄付け時の、木工用ボンド塗布

なぜこのような処理が広まったのかわかりませんが、「柄付けの際に、中子に木工用ボンドを塗布する」という処理があります

やっている本人は、防水と抜け防止のつもりで、良かれと思ってやっているのだとは思いますが、木工用ボンドは酢酸ビニル樹脂系エマルジョンです。水をベース剤にして乳化させた液体であり、要は「水性」です
一度乾燥した木工用ボンドも、長時間水分と接触すると水分を含んで白濁してきます。一旦そうなるとなかなか水分が抜けません。 これでは、包丁の中子を早く錆びさせるためにやっているようなものです

この処理は、自分で「研ぎ師」と名乗っている方が推奨しているものですが、何も知らないというのは恐ろしいことだと思います
もしかすると、知ってわざとやってるのかもしれません。中子がダメになると、包丁の買い替え需要が発生して、商売が儲かりますからね (ちなみに、「研ぎ師 和包丁 差し柄」で検索すると出てきます)

柄とマチの継ぎ目にエポキシ樹脂を充填(防水処理)

和包丁、中子の防水処理
コニシボンド
ハイスピードエポ
(5分硬化型)

セメダイン
ハイスーパー30
(30分硬化型)
刃と柄の継ぎ目の部分から水分が浸透しないよう、エポキシ接着剤を境目の部分に充填します

画像は、エポキシを塗る前のマスキングを施した状態です
峰とアゴ側の境界の部分は、奥まっていますので非常に塗りにくい部分ですが、割り箸を削って先端の細いヘラを作り、細かい部分まで届くようにしました

エポキシ接着剤を塗り終えたら、硬化が始まる前にマスキングテープを丁寧に剥がします。 完全硬化したら完成です


今回実際に使用したのは、コニシボンドのハイスピードエポ(5分硬化型)です
硬化後の体積収縮が少なく充填接着が可能で、色も淡色透明(非常に薄いあめ色)ですので、用途的にはぴったりです
これでも問題なく作業可能ですが、もっとゆっくり余裕を持って作業したい場合は、クイック30ハイスーパー30のような、30分硬化型のエポキシ接着剤を使用すると良いと思います
(作業当日の気温が高かったせいか、予想より早く硬化が始まってしまい、実は一度やり直しています)

【 追記 】
後日セメダイン ハイスーパー30を使ってみたところ、匂いがほとんど無くて透明度も高く、とても扱いやすいエポキシ接着剤だったため、今ではこちらを使っています(左の画像の商品です)

和包丁・エポキシ充填(防水・防錆)
画像は、エポキシ樹脂を塗布した後の状態です

刃と柄の境で白っぽく光を反射している部分が、エポキシ樹脂を塗布(充填)した箇所です
エポキシ樹脂を盛りすぎると、柄を交換する必要が生じた場合に、古い柄を抜くことが困難になりますので、必要最小限の量にとどめておくことも重要です

前工程で中子に塗布した「漆コート」のはみ出た部分は、樹脂が硬化した後に、コンパウンドで磨き落としています(きれいに仕上がったと思います)

口輪の内側の部分は、木材の小口面になりますので、導管が多数露出しており、毛細管現象で水分が浸透しやすい部分です
今回は、導管に漆を浸透させた上で薄塗りを重ね、堅牢な漆の表面層を作り上げましたので、この部分から水分が入ることもまず無いでしょう

このように、和包丁の防水・防錆処理として、「刃と柄の隙間」、「中子の表面」、「柄の表面(口輪内側の小口面)」の、3点の対策を施しました

このようにしっかりと処理をすると、中子が非常に長持ちしますので、包丁自体が研ぎ減ってハガネが無くなるまで使うことができるでしょう

簡易的な防水処理 (蜜蝋クリームを塗り込む)

尾山製材
みつろうクリーム
(木工用)

カメヤマ
ローソク
簡易的な防水処理としては、木工用の蜜蝋クリーム(ワックス)を塗り込むという手法もあります
刃と柄の境と、口輪の内側の小口の部分にかけて、しっかり塗り込みます

エポキシ充填ほどの堅牢性はありませんが、誰でも簡単にできますので、包丁を研ぐタイミングなどに合わせ、その都度一つのメンテナンスとして行えば、とても効果的な防水処理になります

また、より入念に仕上げたい場合は、「蜜蝋クリームを塗り込む → ドライヤーの温風を当て、隙間や導管に浸透させる」という作業を繰り返すと、より高い防水効果を期待できます

施工する際は、柄の木材(小口の部分)がよく乾燥した状態で行ってください
また、温風を当てる場合は暖めすぎに注意して下さい。極端に熱を加えすぎると、口輪が膨張して外れたり割れたりする可能性も皆無ではありません
PC桂ではない水牛の角製の桂は、天然素材ですので極端な乾燥や熱に強くありません(経年変化で欠けが生じやすい素材です)。ドライヤーの風を当てて暖める場合は、あくまでも温風程度にとどめてください。間違っても熱風を当てないようにしましょう


蜜蝋クリーム(ワックス)以外にも、伝統的な防水方法として、ろうそくを塗り込むというやりかたもあります
みつろうクリームは「半練り」のような粘度ですが、ろうそくは常温で固体です
そのため、刃と柄の間に隙間が生じている場合は、溶かした蝋で隙間を埋め、さらに小口に蜜蝋クリームを塗り込むと良いと思います。 隙間がほぼ見当たらない場合は、蜜蝋クリームのみでOKです

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