峰とアゴの内側も鏡面化
細かい部分を丁寧に鏡面に仕上げることで、包丁のグレードが一段と上がります
前ページでは、
「平」の研磨を取り上げましたが、このページではアゴの内側と峰を磨いて鏡面に仕上げます
アゴからマチにかけての研磨
アゴの内側も、丁寧に仕上げます
作業手順を簡単に紹介すると…
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耐水ペーパーで、大まかにサビを落とす
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軸付ゴム砥石でグラインダー跡を除去し、面取りを施す
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コンパウンドで平滑度を引き上げ、鏡面に仕上げる
…という具合です
これは見た目だけの処理ではなく、実利もあります
角の立った部分を落とし、丁寧に面取りすることで、指あたりが良くなります
また、包丁洗浄後の拭き取り時においても、布巾がスルスルと抜けて引っ掛からなくなります
グラインダーの溝跡に水分が残留することも無くなります
それでは、実際の作業に移りましょう
錆を落とす
まずは、作業前の状態をよく確認します

入手時、サビ取り前の状態は、このような状態でした
錆が深く入っていて、かなりガタガタです
指が直接当たる部分ですので、
握り心地やフィット感に影響します。ここは入念に処理したいポイントです
耐水サンドペーパーで、おおまかに錆を取りました
※ サンドペーパー(耐水研磨紙)の選び方については、
● サンドペーパーはどれも同じではありません のページをご覧ください
低品質の研磨紙にはどのようなデメリットがあるか、実例サンプルを上げて赤裸々に解説しています
この段階では表面を薄く削っただけですので、
製造時のグラインダー跡が、まだ盛大に残っています
とはいえここまで仕上げれば、柄を付けて刃付けすれば、普通に使える状態です
ミニルーターとゴム砥石で、グラインダー跡を消す
PROXXON
ミニルーター
No.28400
ヤナセ
ゴム砥石#80
ゴム砥石と電動工具(プロクソンのミニルーター)を使って研磨し、グラインダーの跡を除去しました
(左の画像の商品です、実売価格が表示されない場合は広告ブロッカーをOFFにしてみてください)
上の画像は、まだコンパウンドをかける前の状態ですので、鏡面と言うほどではありませんが、グラインダーによる研磨痕は除去できており、かなり平滑な面が出ています
ここまで仕上げることができれば、
あとは手磨きで簡単にフィニッシュ可能です
なお、
ゴム砥石は、#120番、#320番、#600番というように番手を徐々に上げて使用しています
必ずしもこの番手で無ければダメというわけではありません。#80→#120とゴム砥石で仕上げ、後は耐水ペーパーで研磨するのも一つの方法です
※
ゴム砥石は品質の確かなものを使いましょう
(軸径の適合も要確認です!)
以前、モノタロウのプライベートブランド品を使用したことがありますが、砥材の量が少ないのか、研磨効率が非常に悪く、閉口した覚えがあります(サンドペーパーも切れが今ひとつでした)
言うまでもありませんが、メーカー名で検索しても会社のページがヒットしない中華品は「地雷そのもの」だと思って下さい
左上の画像の商品は、
ヤナセのゴム砥石ですので安心して使えます
(わたしも実際に使っています)
プロクソン純正のゴム砥石も販売されてはいますが、
小さい割には高いのでコスパが悪いです
画像のミニルータは、わたしが長年使っているPROXXONの「NO.28400」というモデルで、550gとやや重めですが50Wの強力タイプでトルクも充分です
使用した感想や、ミニルーターの選び方のポイントについては、こちらの ミニルーター - PROXXON(プロクソン) のページをご覧ください
鏡面に磨く
KOYO
サイザー46
ブルーマジック
ウィルソン
超微粒子
コンパウンド
この後は、ミニルーターをそのまま使い、赤棒相当の
サイザー46でバフがけして目を細くした後、
ブルーマジックで手磨きして鏡面に仕上げ、さらに
ウィルソン超微粒子を使って光沢の乗りを良くしています
(左の画像の商品です、実売価格が表示されない場合は広告ブロッカーをOFFにしてみてください)
柄を分離した状態で、刃体だけにして研磨していますので、柄に近い根本の部分まできっちり磨き上げることができました
マチの切れ込んだ部分は磨きにくいところですが、手を抜かずに磨き込んでいます
アゴ内側の面取り部分も、ゴム砥石を当てた時とは異なった、てらてらした光沢を乗せることができました
細かい部分に手を抜かずにきっちりと仕上げると、数段上のグレードの包丁のようになってきます
この包丁は、物自体はとても良いものでプロ(本職)向けの商品でもあるため、元々のグレード自体はかなり高いものではあり、本来のグレードに戻ったというべきかもしれません
ブルーマジックの使い方については、別途
ブルーマジック のページで解説していますので、そちらをご覧ください。
恐らく日本一詳しい解説ページです(自称ですが、まず間違いないと思います)
アゴ内側の処理
新潟精機
ポリッシング
パウダー
#20000
「平」を鏡面仕上げにした和包丁は、いくらでも販売されていますが、霞の和包丁で
アゴの内側まで鏡面に仕立てたものは、ほとんどお目にかかれません
(本焼きならありますが、霞の場合はそこまでやらないのが普通です)
ここは目につきにくい部分ですので、
美麗に仕上げても製品価格が上がるばかりで、
加工費用に対する販売訴求効果が薄いとみなされています
洋包丁においても同様の傾向があり、どのメーカーもアゴの内側については、「いかに手を抜いて(低コストで)、それなりに仕上げるか」というスタンスになっています
少なくとも、「当社の包丁は、アゴの内側までこんなに仕上げがきれいです!」と積極的にアピールしているメーカーは、皆無です
そのため、アゴの内側を美しく仕上げたければ、自分でやる以外にありません。
(個人で行う包丁のモディファイとしては、「違いを見せられる部分」です)

上の画像は、
ミソノの牛刀(スウェーデン鋼)のアゴの内側を処理した例です
口金の部分も同時に研磨をかけています
(具体的な作業手順は、画像をタップすると該当ページに飛びます)

こちらは、
関孫六10000CLのカスタム事例です。量産品の包丁でも一手間加えることで、ここまで美しく仕上がります
ハンドルは、いつものように「漆塗り」で仕上げています。こちらも画像をタップすると該当ページに飛びます
このように、月寅次郎の包丁カスタムは、
アゴの内側まで美麗に仕上げるのが一つのポイントです
(他の包丁も、すべてこのクオリティで仕上げています)
● 関連ページ:
月寅次郎の包丁カスタム一覧
アゴ内側の「えぐり」
見てわかる通りこの包丁には、アゴの内側が大きめに削り込まれています
(個人的にこれを「えぐり」と呼んでいます)
ここにえぐりを入れるというのは、(製造側としては)ひと手間かかる作業です。どちらかというと「えぐり」の無い包丁の方が一般的だとは思います
大きめにえぐりを入れているから良い包丁、高級な包丁、・・・というわけではありませんが、個人的には「この形」が好みです
握り込んだ時の指あたりが良いというのもありますが、マチからアゴにかけての曲線が美しく見えるというのも理由です
ちなみに、我が家にある別の和包丁、
水野鍛錬所・源昭忠には、「えぐり」がありません。また、
堺刀司の薄刃包丁 には「えぐり」があります
※ 堺刀司の和包丁にも「えぐり」の有るものと無いものがあります。堺に所在のある「特定の刃付け業者さん」が、このシェイプの外観に仕立てていると推測しています
峰も同様に仕上げる
郷右馬允義弘
鎌型薄刃
白紙2号
峰の部分も丁寧に磨いて仕上げました
作業的には、アゴの部分とほぼ同様の磨き方をしています
包丁の峰は、上の方を持って握り込むと手に当たる部分ですし、常に目に入るところでもあります
峰の角を丁寧に丸め、磨き上げると、庖丁の高級感がぐっと上がります
(安物の洋包丁は、プレスで抜いた跡が残っていたり、バリ取りがいい加減だったりと、差の出やすい部分です)