アゴと峰を磨き込み、細部に至るまで美しい光沢を
アゴの内側と峰は、丁寧に磨き込んで美しく仕上げました
細かい部分ですが、この部分を丁寧に仕上げることで、
量産品の包丁では得られない美しさを引き出すことができます
具体的な作業工程ですが…
耐水ペーパーでグラインダーの目を消し、徐々に番手を上げて
2000番まで引き上げ、仕上げに粗目のコンパウンドをかけ、最終工程として
ブルーマジックをかけています
作業自体は、口金の鏡面仕上げの工程とほとんど同じです
ただ、口金のような柔らかい金属とは異なり、峰もアゴも焼きの入った高硬度のハガネです
また、アゴの内側は磨きにくい箇所でもあります
同じ金属でも硬度が異なると、傷取りや研磨にかかる負担が異なります
このあたりは実際にやってみて、「違い」を体感してみてください
やってみると判りますが、サンドペーパーの食い込み具合が全く違います
作業前の状態(アゴ)
アゴの内側にグラインダー跡がしっかり残っています
そこそこ
高級な包丁でも、この程度の仕上げが普通です
せいぜいバリ取りを丁寧にして、指あたりを良くしてある程度です
ここをきれいに仕上げようと思ったら、自分でやるしかありません
別角度からの一枚です
口金とブレードの境のあたりに、深い傷が入っています
このような細かな傷を取って流麗に仕上げると、
市販品では得られない高級感を演出することができます
磨き込み後(アゴの内側)
新潟精機
ポリッシング
パウダー
#20000
包丁の前方向を持った場合、
中指側面にアゴの内側が当たります
※ 金色に写っている部分は、漆を塗っている箇所です
面取りを施して角を丸め、面を平滑に仕上げることで、指あたりが良くなります
(外観だけではなく、使い心地も良くなります)
和食の心得のある方は、峰に人差し指を乗せたり、包丁の腹を指で挟むようにして、前方向を持つことが多いですが、このような持ち方を多用する場合は、アゴの内側を滑らかにして指あたりを良くしておくと良いです
完全に平滑にする必要はありませんが、角が立っているようなら面取りを施しておいた方が、使い心地が良くなります
別角度からの一枚です
傷が消え、きれいな平滑面が出ていることが判ります
アゴの内側や、峰の磨き込みについては、技術的には難しいものではありません
大手メーカーでも個人規模の鍛冶屋でも、造作もなくできることです
なにしろ、わたしですらできるのですから、専門業者ならできて当然です
ただこの部分は、手作業による丁寧な研磨が必要となるため、作業コストを製品価格に転嫁すると、包丁の価格自体が跳ね上がってしまいがちです(少なくとも、安く売るとコスト的に合わなくなる)
その割にはほとんど目につかず、消費者に対するアピール効果も皆無のため、各メーカーは「バリだけ取って、指あたりが悪くならないようにしている程度」です
そもそもアゴの内側の仕上がり具合など、誰も気に留めない箇所なので仕方ありません
普及タイプの数千円の包丁と1万円前後の高級包丁を比べると、仕上げに違いがありますが、あくまでも程度の差でしかありません
上の画像のような、美しく磨き上げた峰やアゴ(の内側)を手に入れたい場合は、自分で手磨きする以外にありません
一般的に市販されている包丁で、最初から美麗に仕上げられている包丁は、ほぼありません
閑話休題:本当に素晴らしい包丁とは?
Misono
UX10
Misono
スウェーデン鋼
上の画像で、
アゴ付近の小刃幅が広くなっていることが判りますが、これは刃付けの角度を変えたわけではなく、研ぎを失敗したわけでもありません。研いだ後に初めて判ったのですが、
ここだけ「刃筋が厚めに残っている」のです
この部分は、
製造メーカーが刃の抜き具合を変え、意図的に厚みを残しているもようです
アゴの周辺は厚みを残して堅牢性を確保し、その先は薄く抜くことで、刃の抜け具合を良くしているものと思われます
こんなことを造作もなくやってのけるとは、MISONOの包丁、恐るべしです
見事な職人技です。このような凝った刃の抜き方をしている洋包丁は、初めて見ました
量産人の包丁では、まずありえない刃体の仕上げです
この点は動画では言及していませんが、実に素晴らしい「
研磨整形の美技」です
わたしが考えるところの、
「真に素晴らしい包丁」とは、どの鋼材を使っているかではなく、刃付けをどうするかでもなく、「刃の抜き具合」が絶妙な包丁です
包丁の研ぎおろし(刃の厚みを抜く作業)については、こちらの…
● 包丁を研ぎ抜いて厚みを削ぐ ページが参考になると思います
これは自分で藤次郎のペティナイフを整形しなおした時のものです
「刃体の厚み整形が少々雑で、これはいかがなものか?」と感じたため、自分でやり直しました
刃の抜き方が凡庸な洋包丁は、意外に多い
佐治武士作
SRS13 粉末ハイス鋼
黒崎優 閃光
粉末ハイス鋼SG
刃筋周辺を絶妙な技で薄く抜いても、外観からは判別がつかないため、誰にも注目されません
ですがそれは、
包丁を振るった時に「抜けの良さ」として感覚で伝わってきます
プロの料理人から一定の評価を獲得している包丁は、この点に抜かりないことが多いものです
作業工程の手間とコストがかかり、商品価格も高額になりがちですが、ここは非常に重要なポイントです
しかしながら、ほとんど言及されることはありません(こんなことを力説しているのは私くらいかもしれません)
ちなみに安物の包丁は、板材を打ち抜いて、刃筋のみを削って刃を付けたような凡庸な仕上がりになっています
刃の抜き方が凡庸な洋包丁は、意外に多いのものです
「伝統」や「職人技」、
「火打鍛造・古式鍛造」を標榜した、個人の鍛冶屋が仕立てた洋包丁に、特にこの傾向が多いです
包丁の鍛接・鍛造や、焼入れ硬度に意識が行き過ぎて、「しなやかで薄い刃」の良さを全く理解していないのです
結果として、
粉末冶金の超硬鋼材や青紙スーパーのようなガチガチに硬い鋼材をもてはやし、
洋包丁であるにも関わらず、峰の付いた抜けの悪い刃に仕立てたりしています
わかってはいるものの、「商売」として敢えてやっている業者さんもおられるとは思います
硬度が高すぎて削るのが難作業だというのもありますが、靭性が低い鋼材のため、物理的に薄くできないのです(硬い鋼材は靭性が低く、薄手に仕上げると簡単に刃こぼれするためです)
包丁販売業者も、意外に無頓着
堺孝行
槌目ダマスカス
VG10 33層
有名な刃物販売業者の通販ページには、おおよそ目を通しているつもりですが、どの販売業者も「刃の抜き方(刃筋の厚みやテーパーの付け方)」には無頓着で、全く言及がありません
酷いところになると、包丁を峰側から俯瞰した画像すらありません
この画像が無いと、口金から刃先方向へどのようにテーパーがかかってるかが、全く分かりません
峰厚サイズが表示されていないところも結構多いです
そのような細かい点はどうでもよいのか、それとも、重要性に気がついてすらいないのか、実際のところはわかりませんが、
どの業者も、
鋼材がどうとか、本刃付け・ハマグリ刃がどうしたとか、そんなことばかりで、どこもレベルが低い…、ではなかった、「ご商売に熱心」でいらっしゃいます。
(個人の意見です)
峰の磨き込み
プロクソン
ミニルーター
RYOBI
ホビールーター
峰も角を丸め、丁寧に磨き上げました
峰の角を落として滑らかに仕上げておくと、
硬い食材を押し込んで切る際に手当たりが良く、安心して荷重をかけることができます
また、包丁を振るっている時によく目に入る箇所でもありますので、
磨き上げてきれいにしておく甲斐があるというものです
作業自体は、
口金の鏡面仕上げとおおよそ同じです
ミニルーターなどの電動工具と軸付き回転ゴム砥石を上手に使うと、労力を節約することが可能です
ただ、
電動工具の難しさもよく理解しておかないと、逆に失敗して修整が大変になったりもします
(バフや回転砥石をうっかり止めてしまうと、そこだけ深く掘れてしまうので、スムーズに動かし続けないといけません)
電動工具を使うと
時短になって労力は減りますが、難易度は逆に増しますので要注意です
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