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包丁のカスタム

最終更新日: 作者:月寅次郎

フルカスタムした牛刀

包丁 カスタム
1970年代後半に製造されたヴィンテージ品の包丁をフルカスタムし、現代に蘇らせました

カスタム作業の手順については、工程毎に解説ページを設けました
ページ末尾のリンク一覧から移動してご覧ください。(当ページは全体概要の紹介です)

この包丁は、YouTubeにもアップ済みで、動画閲覧も可能ですが、Webページ版では拡大画像を多用し、具体的な作業手順やカスタムの前後比較ができるようにしています
また、美しい木目の入り具合や、鏡面の仕上がり状態が判るように配慮しました

※ この包丁について
この包丁そのものの解説については、日本橋木屋 スウェーデン鋼 牛刀の解説ページをご覧ください
Misonoが製造し日本橋木屋が販売している包丁です(現在の名称は「No.6 EU鋼」、Misono直販分は「EU カーボン鋼」が相当)
昭和40年代から継続販売されているロングセラーの包丁で、ハンドルに無垢の黒檀材が使用されており、木屋とミソノのダブル刻印であることから、1975~79年頃に製造されたものと思われます(40年以上前に製造された品です)

包丁のカスタム(目次)

  1. カスタム前後の比較
  2. ブレードのカスタム
  3. 口金のカスタム
  4. ハンドルのカスタム
  5. カスタムのポイント (外観だけでなく耐久性を向上)

  6. 具体的なカスタム手順 (工程毎詳細解説ページへのリンク)

カスタム前後の比較

カスタム後の状態

包丁 カスタム
カスタム後、包丁全体(左面)
刃渡り21cmの牛刀です。刻印で判るように、製造はミソノが担当しています
昔ながらの真鍮ピンを使っている点も、「MISONOの伝統」を感じさせるところです


ブレードはハガネの「一枚もの」でスウェーデン鋼(現在のEU鋼)、手をかけて薄く抜かれた繊細な刃体になっています
アゴの近辺のみ、やや厚みを残した凝った造りで、腕の立つプロに合わせた刃の抜き方になっています (かなりの玄人仕様です)

口金は「一体口金」、ハンドル材は無垢の縞黒檀、ピンは昔ながらの真鍮製
構造は本通しですが、手作業で厚みを抜いたフルテーパードタング仕立てになっています

包丁(牛刀)カスタム品
カスタム後、包丁全体(右面)

この包丁は、ブレードがハガネ(炭素鋼)ですので、柄の内部の中子の腐食をいかに防止するか(隙間からの水分侵入をいかに抑えるか)が、包丁の寿命を左右します

今回のカスタムでは、ハンドルの隙間を入念に充填し、「隙間埋め」と「漆コート」の合わせ技で、中子周辺への水分侵入を完全遮断しました

刻印埋め」は、拭き上げ時の水切れを良くし、汚れの残留を防ぐ効果もあります

そういう意味では、使い勝手を向上させ、ロングライフにつながるカスタマイズとなりました
外観も、なかなか魅力的に仕上がったと思います

動画で見る

完成後の状態は、YouTubeでも見ることができます
よかったら見てやってください。(他の包丁や研ぎ方もアップしています)


月寅次郎チャンネル (YouTube 動画一覧)は、こちらです(「いいね」をもらえると嬉しいです!)

カスタム前の状態

木屋 牛刀
Misono
スウェーデン鋼 牛刀

上の画像は、カスタム前の状態です

ハンドルに縞黒檀があしらわれた、とても美しい包丁なのですが、カスタム後の状態と比べてしまうと、ハンドルや口金の角が立っていることもあり、相対的に無骨に見えてしまいます

「未使用」で入手したものですが、ハンドメイドで仕上げられた、かなり年代物の牛刀です
(調査の結果、40年以上前に製造された製品であることが判りました)

ブレード(刃体)のカスタム

刻印の漆埋め

包丁 刻印 カスタム
刻印の漆埋め(表面「日本橋 木屋」)

刻印の凹みが無くなるため、汚れや水分が残留しません
そのため、洗浄や拭き上げなどの手入れが、非常に楽になりました
刻印の溝をブラシで洗浄する必要がなくなり、拭き上げも「ひと拭き」で済みます
(衛生面から考えると、昔ながらの「刻印」は、「悪」でしかありません)


美しさだけではなく、機能的にも向上させることができました

包丁 刻印 カスタム
東邦産業
うるし(透)
刻印の漆埋め(裏面「MISONO 特製鍛造」)

このカスタムは、わたしが考案したオリジナルカスタムです
(同様のことをやっているのを、他で目にしたことがありません。違ってたらゴメンなさい)

包丁 刻印
カスタム前の刻印の状態です

● 「漆埋め」の具体的手順、工程の詳細については、刻印の漆埋め のページをご覧ください
(下処理の段階を含め、多数の画像で詳細解説しています)

峰とアゴの内側の磨き込み

包丁 カスタム 峰
峰は角を丸め、きれいに磨き込みました

包丁 カスタム アゴ
アゴの内側も、同様に処理しています

包丁 アゴ(カスタム前)
カスタム前のアゴの内側は、グラインダーによる研磨痕が残っている状態でした
(そこそこ高級な包丁でも、このくらいが普通です)

アゴと峰の磨き込み の工程の詳細については、左のリンク先ページをご覧ください

口金のカスタム

口金の形状調整と鏡面仕上げ

包丁 カスタム 口金 鏡面
口金部分は、よくある「一体口金」ですが、凹面をフラットに整形し、角を丸めて指あたりを向上させました

金色の部分が漆が乗っている部分で、銀白色の部分は金属の地肌が出ている部分です(研磨して漆を削り取っています)

この口金周辺の磨き込みは、かなり苦労した工程です

金属と木では、硬度が大きく異なりますので、気を抜いて磨くと、木側が凹んで「面一」になりません(「段付き」になります)

また、漆を塗った後に下手に金属露出部を磨くと、微細な金属粉が漆の表面に食い込み、漆の透明感が台無しになってしまいます(透明感が失われ、曇った感じになります)

結果として、金属部分と木部を分けて磨き込む必要がありました

かなり手をかけて「曇り」を取りましたが、口金と木部の接する部分に、取り切れなかった「塗膜の曇り」が見て取れます
上の画像では、ほぼ判別できない程度です

木部と金属部を一度に塗るのは初めてだったため、かなり失敗して何度もやり直しになりましたが、同時にいい経験を積むことができました

包丁 口金
カスタム前の口金の状態はこちらです

● 具体的手順や工程の詳細については、口金の鏡面仕上げ のページをご覧ください
(磨き込み前の、やすりで整形する段階を含め、詳細に解説しました)

プロクソン
ミニルーター
軸付回転砥石 回転ゴム砥石

ハンドルのカスタム

ハンドル形状の修整・研磨、漆塗り

包丁 カスタム(ハンドル)
ハンドル左側面

側面は「板目」が出ています
わずかに木理がうねっているため、黒を背景に茶系の杢が浮かび出て、実に映えます

縞黒檀ならではの、味わいのある美しさです

このような木材本来の色合いの妙を眺めていると、極彩色に色付けされたスタビライズドウッドが悪趣味に思えてきます
あんなもの、どこかいいんでしょうか?(個人の感想です)

包丁 ハンドルのカスタム
東邦産業
うるし(透明)

ハンドル右側面

漆の乗りも良く、濡れたような艶を出すことができました
真鍮製のピンも、いい味を出しています

手前味噌ではありますが、実に美しいです

高強度で腐食しにくいステンレスピンがスタンダードになった現代では、真鍮ピンが使われることは、ほぼありません(このあたりは、「昭和」の時代を感じさせるところです)
MISONOのEUカーボン鋼包丁は、伝統的な製法を尊重しているためか、「昔ながらの真鍮ピン」だけでなく、「龍の彫刻印」や「花の彫刻印」まで、「昔のまんま」です
(EUカーボン鋼は、以前はスウェーデン鋼という呼称でした)

包丁 ハンドルのカスタム

ブルーマジック
同じくハンドル右側面(別角度)

天然木の美しさをもう少し伝えることができればと思うのですが、わたしの撮影技術ではその魅力を伝えることができません(実物は、さらにきれいです)

わたしがカスタムした包丁やナイフの中では、ブビンガ材を使用したオピネルのフィレナイフ(カスタム)に匹敵する美しさで、どちらも甲乙つけ難いです

カスタム完成後すぐ撮影できればよかったのですが、少し日が開いてしまったため、部分的に小キズが入ってしまいました(残念)

包丁 ハンドル
カスタム前のハンドルはこのような質感でした

具体的な整形、研磨の工程については、こちらの…
ハンドル形状の修整、磨き込み
 ・・・のリンク先ページをご覧ください

「漆塗り」については詳細解説ページがありませんが、これは、塗ることに集中しすぎて画像の撮影を失念したためです
やっていることは、自作木製ハンドルの漆塗り と同じです。漆塗りの詳細な工程は、上記リンク先でごらんください

中子の傷を取って鏡面に

包丁 カスタム(ハンドル)
ハンドルの腹側です

こうしてみると、 フルテーパードタング構造であることが、よく判ります

※ 中子と板材の間にもわずかに隙間があり、「埋め」を施していますが、この画像では全く判りません(きれいに埋まっており、水分侵入対策は万全です)

包丁 カスタム(ハンドル)
三共理化学
超精密研磨フィルム

#8000
こちらはハンドルの背側(峰側)です
峰側の方が、腹側の中子よりも厚みがあることが判ります

フルテーパードタングは、「柄尻に行くにつれてテーパーを付け、中子を薄く抜いた構造」を指しますが、こうしてよく見ると、峰側と腹側でも、抜き具合に差を付けていることが判ります

峰側は腹側よりも強度が必要ですので、そのあたりも考慮して最適な中子の抜き方にしているようです(素晴らしいですね)

※ 追記
ミソノ刃物に確認を取ったところ、中子のテーパーは「刃体を鍛造した結果」とのことでした
つまり、鍛造によって刃筋を薄く整形しているため、「結果として中子も峰側に厚みが残り、腹側は薄くなる」との説明でした

「柄尻方向に薄くしているわけではない」との説明でしたが、この包丁は「腹側は薄く、柄尻方向はさらに薄い」という形状になっています(手作業による製造ですので、単なる個体差によるものかもしれません)

木材と木目について
峰側からは、木の「柾目」の様子がよく判ります。明るい色調の部分と黒い部分がコントラストを織りなしており、魅力的な杢を見せています

木の種類で言うと、真っ黒な「真黒(まぐろ)」の黒檀が希少であり、珍重されたりもしますが、個人的には「縞黒檀で良かった」と思っています

真黒ですと、その名の通り真っ黒ですので、黒染の積層強化木と見た目で区別が付きにくくなります
縞黒檀だからこそ、「パッカーウッドではなく、銘木の無垢材!」と、ひと目で判ります

峰側の中子にはグラインダーが噛み込んだ痕が残っていましたが、きれいに修復することができました

下の画像は、カスタム前の状態です。グラインダーが強く噛み込んだ痕が、傷となって残っています

包丁 中子

柄尻のバリ取り

包丁 カスタム(柄尻)
新潟精機
ポリッシング
パウダー
#20000
柄尻付近(中子の様子)

中子の柄尻部分は、バリがかなり酷く出ていましたが、研磨して削り取り、きれいに仕上げました
この角度から見ると、中子のテーパーのかかり具合がよく判ります

柄尻の部分はかなり薄く仕上げられており、熟練職人による手仕事を感じさせます

現代において、同様の仕立ての包丁を購入しようとすると、ハンドメイド仕様の最高級タイプになってしまいます(量産品ではまず無理です。そういう意味では貴重な一本です)

包丁 柄尻(カスタム前)
上の画像は、カスタム前の柄尻の状態です
木材を覆うようにバリが伸びているため、縁もギザギザで、厚みも厚く見えます

より具体的な作業手順については…
中子のバリ取り のページで、詳細を解説してます

ピン周りの隙間の充填

包丁 カスタム
ピン周囲に生じた隙間の修復箇所です
(この画像は、特定の方向から光を当てて、修復跡が際立つようにして撮影しています)

隙間は漆と木の粉を使用して埋めています
きれいに修整できましたので、実際にはほとんど判りません

実物を握って肉眼で見ても、この画像を見せて教えなければ、わからない程度に仕上がっています

具体的な作業手順については…
包丁の隙間埋め のページで紹介しています
(木粉や漆等を使い、凹みが消えるまで丁寧に埋設作業をしました)

包丁 ピン
カスタム前のピン周辺の状態です

わずかながらも隙間が生じていましたので、この状態で使用するとそこから水分が侵入する懸念がありました

カスタムのポイント

フェロブライト
防錆紙


RYOBI
ホビールーター

今回は、ハンドルの隙間を埋めるとともに、その上から漆コートを行うことで、ハンドル内部の中子の腐食対策を行いました

外観の美しさもさることながら、この様に施工することで、ロングライフに寄与できたと思います

未対策のまま使い続けると、隙間から水分が侵入し、錆が木部を押し上げて隙間が生じます
一度隙間ができると、そこからより一層水分が侵入し、錆の進行が加速するため、一気に包丁が駄目になっていきます
そのため、ハガネの包丁は、刃を使い切るより先に、中子の腐食で駄目になるケースが多いものです

 ● 中子が腐食してハンドルに隙間が生じた例については、こちら(梅治作 牛刀)と、こちら(古い三徳包丁の修理)のページをご覧ください

ステンレス製の包丁では、ほとんど発生しない事例ですが、ハガネの包丁では起こりやすい不具合の一つです
誰にでも簡単にできる施策ではありませんが、大事に使いたい場合は、このような対策が有効です

梅治作 牛刀でやっているように、ハンドルを分解して中子にコーディングを施すのが一番ですが、この木屋の牛刀は状態が良好でしたので、そこまでしていません
これで充分だと考えています

具体的なカスタム作業、工程毎の詳細解説ページ


日本橋木屋の牛刀 包丁の解説

和包丁のカスタム

和包丁のカスタム(薄刃包丁)
赤錆の浮いた薄刃包丁を、柄の付いてない刃のみの状態で入手しました
状態は決してよくありませんが、物自体はとても良さそうだったので、刃を鏡面に、柄を漆塗りにして、美しい包丁に仕上げました

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