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有次の包丁(アジ切)

最終更新日: 作者:月寅次郎

有次(アジ切庖丁)

有次・包丁
「有次」のアジ切庖丁

銘には「特製 有次」とあります
物が「アジ切」であるところと、銘の字体からして、築地有次ではなく、京都有次の製品のもようです

サイズは(刃渡り)は4.5寸(13.5cm)、アゴから先端までは実測で12.8cmです
(マチ付きの和包丁なので、刃渡りは先端からマチまで計測しています)

アジ切包丁について

アジのような小さな魚はもとより、小型のイカをさばく際にも使い勝手が良い包丁です(イカ裂きと呼ばれることもあります)

また、サイズ的に見ると「和式のペティナイフ」といった趣もあり、実際個人的にはペティナイフのような使い方をしています

この有次のアジ切包丁は、なりは小さいですが、裏の付いている立派な和包丁です
イメージとしては、刺し身包丁(柳刃包丁)をそのままミニサイズに仕立てたような感じです

なお、小型の出刃包丁状の形状のものを「アジ切包丁」と呼称し、小型の柳刃包丁のようなものを、「貝サキ包丁」と呼ぶ場合もあります

和包丁というとまず名前が挙がるのが、柳刃、出刃、薄刃包丁の3種です。次に、昔の家庭用包丁として使われていた「菜切包丁」が挙がります
さらに、「骨切り(鱧切り)」、「蛸引き(関東版柳刃包丁)」、「うなぎ裂き」など、各分野の専門的領域のな包丁が連想されます

そういう意味では、「アジ切包丁」は、どちらかというと、和包丁の中でもややマイナーな存在であり、このタイプをラインナップに加えていないブランド銘柄も多々見られます

とはいえ、家庭で使う分には、多用途に使える包丁です
もちろん、舟行包丁や、和包丁の柄付けを施した三徳包丁を使うという手もありますが、両刃で構わないという場合は、無理に和包丁を使う必要もありません。片刃で、裏があってこその和包丁だと思います。

実際に、出刃や柳葉などの和包丁は、それぞれの専門領域に特化しすぎているきらいがあり、普通の家庭料理を作る際には、(大型の魚を一尾丸ごと買うのでなければ)使う機会も少ないものです

アジ切り包丁や貝サキ包丁は、片刃の裏が付いている包丁がどのようなものなのか、それを知るための最初の一本としても、おすすめできるところです。
「片刃・裏すき」は、研ぎ方も実に奥が深く、探求のやり甲斐があるというものです。

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有次・包丁

洋型の魚用包丁(サバキ・骨スキ)について

せっかくなので、サバキ包丁にも言及しておきましょう

サバキ包丁は、アジやサバなど、さほど大型でない魚をおろす場合に、使いやすい包丁です(骨スキと呼ばれることも)

一般的にはあまり馴染みが無く、主婦層の間でも知名度が低いですが、魚釣りが趣味で、自分で魚を調理する方の間では、よく使用される包丁です
商品ページのレビューを見ると判りますが、実際「魚のサバキ用途」として購入している方がほとんどです

この包丁は刃の先端が尖っているのが特徴です、魚の腹を開く際、刃を差し込む時に実に具合が良いです
「刃先をブスッと指し込んで切る」という動作が、とてもやりやすいのです。三枚におろすのもやりやすいです

刃先の尖っていない三徳包丁で同じことをやろうとすると、(できないことはありませんが)以外にやりづらいです
三徳包丁は、肉・魚・野菜のどれにも使いやすいので「三徳」と呼ばれていますが、実際のところは野菜向きの包丁です(肉と魚には、それほど適性がありません)

ちなみに肉に使う場合は、骨と肉の間に刃を差し込んで切り離す場合や、肉質を柔らかくするために先端を刺すように使って筋切りをするなど、尖った刃の先端が有効に働きます
この用途を重視する場合は、「骨スキ」と呼ばれることが多いです、

この手の「刃先が尖った三角型の包丁」は、呼称も統一されておらず、刃の形状も片刃だったり両刃だったりします
峰厚に関しても、叩くような荒い使い方を考慮した厚手のものや、抜けの良さを重視した薄手のものまでいろいろです

実際に購入する場合は、両刃/片刃、炭素鋼/ステンレス、厚手/薄手などの特徴をよく把握し、自分の用途や好みの合ったものを選びましょう

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有次・包丁

鋼材 - 白紙2号

鋼材は「白紙2号」です(そのはずです)
京都有次は、「上製」が「青紙2号」、「特製」は「白紙2号」、「登録」は白紙3号を使っていると聞きます

切れ味は申し分ありません

入手時の状態

有次・包丁
この包丁は、中古で入手しました

有次・包丁
「裏」の状態です

腐食跡やいろいろと突っ込みどころはありますが、一応刃は付いています
一番の「ダメポイント」は、やはりアゴ付近の裏押しに付いている腐食孔です

両刃であれば、研ぎすすめることで腐食跡を削り取り、修正することも難しくありませんが、この包丁は片刃です
安易に裏を研ぐと、裏押しが広がってしまいます
かといってそのままの状態では、腐食跡が刃筋に出てしまい、そこだけ小さな刃こぼれのようになってしまいます
せめてもの救いは、腐食跡の位置がアゴの直ぐそばであり、致命的な場所ではないということです

この後の方針としては、無理に腐食孔を削り取るのではなく、微細な刃こぼれとして露出するのは許容範囲として、普通に研いで使いたいと考えています

有次・包丁
柄の状態、木材は朴、桂は黒水牛です

有次・包丁
桂の周辺
小口の部分が少し汚れており、水牛桂(口輪)には、砥石が当たって削れた跡があります

有次・包丁
裏側から見た桂、少々汚れが目立ちます。この後きっちり磨きをかけて、リフレッシュしたいと思います

有次・包丁
アゴの内側です

この部分は、後日磨きを入れたいと思います
刃筋に刃こぼれが見えるのは、刃裏の錆による腐食です
(一つ前の画像の、アゴ付近の裏押しを見ると判ります)

研磨清掃してリフレッシュ

有次・包丁
サンドペーパーで柄に磨きをかけ、一皮剥いてきれいにしているところ
段階的に番手を上げて、最後は2000番で仕上げています

「平(ひら)」も、ごく軽くですが、気持ち程度に研磨しています(腐食孔の深さを確かめるため)

サンドペーパーは、国産の信頼できるメーカーのものを選びましょう
画像には「モノタロウ」のサンドペーパーが写っていますが、中国製で品質の低い製品でした(非推奨です)
靭性が低いために容易に解砕し、生じた微粒子が木肌に食い込んで、木の色が変わってしまうこともありました(表面が黒っぽくなりました)

信頼できるサンドペーパーの選び方については、サンドペーパー(耐水ペーパー)は、どれも同じではありません のページをご覧ください
具体的なメーカー名を掲げて解説しています

有次・包丁
研磨・清掃後の状態

一皮剥くことで、小口の周辺がきれいになり、気持ちよく使えるようになりました
くすんでいた朴の木部も、年輪が浮き上がって見えるようになりました

口輪の木部の間に生じていた微妙な段差も、削り落として滑らかな面一に仕上げています
砥石の当て傷までは、取り切れていません(後日やる予定です)

研磨後、水洗いする前に撮影したため、研磨粉が水牛桂の目に入り込み、黒い桂が灰色っぽく見えますが、これは使っているうちに元に戻ります(徐々に研磨粉が取れ、引き締まった黒色に戻ります)

有次・包丁
柄の木部も、見違えるように滑らかな面が出ました

柄尻を見ると判りますが、なかなか良質の朴の木を使っています(有次なのですから、当たり前といえばそれまでですが)

有次・包丁
手直しが終了し、なんとか見られる状態まで仕上がりました

柄を漆塗り

有次・包丁
いつものように、柄を漆塗りで仕上げました

黒水牛の桂(口輪)は、深々とした漆黒の風合いに仕上がりました
黒色の漆を塗ったわけではありませんが、黒い漆器のような艷やかな質感が出ています
入手時の状態とは雲泥の差となり、とても満足しています

『漆』を使う場合は?

筆者が使っているのは、東邦産業の『特製うるし』です。

本漆ではなく代用品のカシュー漆ですが、乾燥時の特殊設備も不要で、紫外線にも強く、なおかつ低価格です。
乾燥後に本漆と見分けるのはほぼ不可能です。わざわざ高額な本漆を使う必要はありません。
また、東邦産業のうるしは、本来釣具用塗料ですので、防水性や耐久性も充分な担保が取れています。


色のチョイスは、漆らしい濃い目の色に仕上げる場合は『透(スキ)』を、
色合いを薄くして木目を際立たせたい場合は、『透明』がおすすめです。
(この有次は、透明を使っています)

漆 東邦産業 (amazonで検索)

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東邦産業のうるしを探す場合は、上のリンクをタップすれば表示されます。
(検索文字を入力する必要はありません)
漆だけでなく、専用薄め液や刷毛も見つかります。

朴材の柄と漆塗り

水濡れ時にしっとりくる肌当たりの良さや、滑り感が出ないフィット性の良さを優先させたい場合は、表面塗装を施さず、朴そのものの状態で使用した方が良いです

ただこの包丁の場合は、日常的に使っているわけではなく、保管している時間の方が長いため、長期保管後の劣化が少ないようにという配慮と(※)、美観的な観点から漆仕上げにしています

さらに言うと、研いでいる時に、うっかり砥泥の付いた手で柄を握っても、汚れが取れずにジタバタする必要がありません(砥泥は非常に目の細かい微粉末なので、木肌や布に付着すると、洗ってもなかなか落ちません)
また、イカをさばいている途中でスミまみれになっても、全く問題ありません(洗えば完全に元通りです)

そういう意味では、使用時の汚れに気を使う必要がなくなるのが、漆仕上げの良いところです
漆を落とす場合は、サンドペーパーで研磨すれば、いつでも元通りに戻すことができます

※ 天然物の水牛桂は、使用せずに乾燥した状態が続くと、割れや欠けに繋がる場合があります
こちらの 堺刀司の薄刃包丁 は、桂に欠けが出ていたため、エポキシ樹脂で埋めたのちに漆をかけ、ほぼわからない状態にまで補修しています

自作で専用の鞘を作る

有次・包丁
自作で、専用の鞘をこしらえました

木鞘も良いのですが、あれに入れていると、美しい刃体や銘を拝むことができません
鞘に納めた状態で、錆が出ていないかひと目で判るように、半透明な素材を使用して自作しました

有次を研ぐ

有次・包丁
剛研輝12000番を使って、最終仕上げの研ぎをしているところ

ここまで番手を上げると、刃筋のハガネが見事な鏡面に仕上がります
機能的観点から言うと、ここまで高い番手を無理に使う必要はありませんが、美観的な面からは、煌めくような輝きを引き出すことができ、高い満足感を得られます


画像の 剛研輝12000番砥石については、こちら のページで使用感を解説しています

有次・包丁
キングS-1のコッパ(小片)で、霞出しをしているところ
(切刃のギラツキやムラを整えています)

こうやってみると、やはり霞仕上げの和包丁は美しいものだなと感じます
特にこの包丁は、小ぶりの柳刃包丁といった趣があり、とても可愛らしいです

キングS-1砥石の使用感は、こちら のページです


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