堺景虎(小三徳包丁)
堺景虎(小三徳包丁)
入手時の状態
入手時の「
堺景虎」の状態です。
この包丁は中古で入手しました。
芯材は日立金属の
青紙スーパー(炭素鋼)、側面はステンレスの利器材です。
(炭素鋼複合材とも言えます)
刃の先端が欠けており、このまま使うには少々忍びない状態です。
この欠けは、荒砥石でゴリゴリ削って修正しました。
3本セットの抱き合わせ販売で、中古で入手した包丁です。(
堺業平、
堺清貞とのセット販売でした)
柄の割れ
よく見ると、柄に割れ目が入っています。
これは、柄を腹側から見た状態。
こちらは、背側から見たところ。
背側の方が、割れの隙間が広くなっています。
さらによく見ると、金色のシールの付いている辺りが、最も割れ目が広がっています。
これは、この部分に何かしらの、割れが広がる理由があるのでしょう。
こういった包丁をいくつか見てきましたが、これはおおよそ察しがつきます。
内部に水が侵入して、中子が腐食、膨張した結果、内側から柄を押し広げる力が加わり、割れが入るパターンです。
雑な造り
柄とブレードの継ぎ目に、隙間がありすぎます。
いくらなんでもこれは酷いです。
アゴの内側部分の仕上げも雑ですね。
錆で色が変わっているため、少し分かりにくいですが、加工時のグラインダー跡がしっかり残っています。
3000円前後の安物包丁であれば、「安いので仕方ない」と、許されるレベルですが、この包丁はそんなに安くはありません。
これは反対側から見たところです。
ブレードの芯材の位置に注目してみましょう。
芯材である「青紙スーパー」は、左右からステンレス材で挟まれています。
問題は芯材の位置です。中心からわずかにずれがある程度であれば許容範囲ですが、上の画像を見る限り、少々ズレが大きいと言わざるを得ません。
また、ブレードの端の部分も要注目です。
打ち抜き工程の作業が雑なのか、端の部分に歪みがみられます。
板状の鋼材からブレードを切り出す工程において、端にバリやわずかな歪みが出るのは、金属加工の常ですが、許容範囲というものがあり、一目で歪みが判るというのは、もはや瑕疵と言えるレベルです。
機械プレスでの打ち抜きなのか、手作業での切り抜きなのか、工程の詳細は不明ですが、驚くべきはこの状態のまま、修正をおこなわずに柄付けし、出荷したということです。
包丁に対する意識が、低すぎると言わざるを得ません。
六百年の伝統とは?
柄には、『六百年の伝統 堺打刃物』という金ラベルが貼られていました。
この包丁に、このラベルを貼って売るのは、堺の名が泣くというものです。
確かに堺の刃物には、600年の歴史がありますが、そもそもこれは、関市で製造されているOEM供給用の包丁です。
(もしくは『ノーブランド品』として販売されている包丁です)
そのため、同じ包丁で、銘だけが異なるものが、多数販売されています。
「関市で製造」と書きましたが、それは、下の参考ページを見ると判ります。
● 参考ページ:兼景(ヤフオク出品商品一覧)
兼景のプロフィールを見ると、そこに…、『兼景の包丁は、岐阜県関市で製造され』 …とあり、関市で作られていることが判ります。
銘は別だが、同じ包丁
このオクゼン「堺景虎」と同じ包丁が、実際にどれだけあるのか、調査してみました。
amazonでは、下記4ブランドが見つかります。
(ツバ無しに限定していますが、ツバ有りタイプもあります)
(価格は2024年5月28日に調査したものです。現在の価格は、リンク先でお確かめください)
1.
青紙スーパー鋼割込 三徳包丁 (15,494円・兼景)
2.
青紙スーパー 三徳包丁 ツバ無(14,630円・實光刃物)
3.
青紙スーパー 三徳包丁 本割込(11,980円・堺石藤)
4.
青紙スーパー 牛刀(11,100円・ノーブランド品/銘無し)
側面画像のみは、どの業者?
先に「
造りが雑」だと指摘しましたが、
この包丁を側面から見る限り、それはまずわかりません。
この包丁のダメなところは、先ほど示した通り、柄と刃の継ぎ目の部分を、背側と腹側の両方からクローズアップすると判ります。
先に、4つの販売先を示しましたが、商品画像でそれが(わずかでも)判るように写しているのは、どの販売業者でしょう?
(どの業者とは言いませんが、側面画像のみしか掲載していない業者があります)
包丁は、
背通し、
本通しなど、柄の通し方も、その
価値を推し量る重要なポイントです。
洋包丁の販売において、背側と腹側の商品画像を併載することは、まともな業者であれば、常識とも言えるものです(高級包丁であれば、特にです)
包丁の構造のみならず、峰厚のイメージや、刃先に向けてのテーパーの付け方、アゴの内側の仕上げの質感などが、視覚的に判るからです。
自社利益にしか目がいかない不誠実な業者は、売ることしか考えていないので、見栄えのする側面の画像のみを用意する傾向があります。
どのような画像を用いて消費者を引きつけようとしているか、そこに注目するだけで、その業者の良心度、顧客に対する誠実さがわかるというものです。
『〇〇作』は、さすがにアカン
上の4つの業者のうち、「ノーブランド」と称しているものを除くと、残り3つは自社商標の銘を刻印しています。
この銘の入れ方ですが、「つば付きタイプ」のもので、『
〇〇作』と入れているものがあります。
『〇〇作』は、ちょっとやり過ぎです。
なぜなら、
自社では作っていないわけですから、一種の虚偽表示になりかねません。
〇〇の部分に、モデル名を入れるのであれば、それはOKです。
堺刀司の岩国作、正重作などが良い例です。これは岩国さんや正重さんという人物が作っているわけではなく、岩国というモデル名です。
筆者所有の『〇〇作』包丁
『〇〇作』包丁の例として、筆者所有のものから抜き出してみました。
どれも、それなりに名の通った包丁です。
●
堺刀司 薄刃包丁(岩国作・カスタム)
(『岩國作』と『正重作』に関する解説など)
●
梅治作 牛刀(日本橋木屋)
(洋包丁で〇〇作と付ける場合は、著名な方が手作業で制作した包丁など、それ相応のものでなければ、名前負けして恥ずかしいものです)
●
武峰作 ペティナイフ
(武峰も名が通っており、『作』と入れるに相応しい製品です)
※
源昭忠や、
有次など、著名であっても『作』の付かない有名包丁ブランドも存在します。
OEM供給用の包丁に『〇〇作』と入れるのは、節操のない売り方と言わざるを得ません。
どの業者が、それをやっているのかについては、ここでは伏せます。
『大人の事情』というやつです。
下のリンクは無関係なので、タップしてはダメですよ。
● 無関係のページ:青S 三徳包丁
1万円を超える価格は妥当か?
上の4つの包丁のなかでは、『兼景』の15,494円が最高値ですが、これは兼景が設定した価格ではありません。
転売屋によるボッタクリ価格です。
兼景は包丁をヤフオクで販売しており、
兼景の設定価格は7800円(税込・送料無料)です。
包丁全体の作りや仕上げの雑さを考えると、7800円でも高いのですが、とりあえずそれは置いておきましょう。
2番目に高いのは『實光刃物』の14,630円です。転売屋を除けばこれが最高値となります。
なお、實光刃物は明示33年創業、堺の刃物店でもそれなりの老舗です。
目利きの確かな刃物店なら、そもそもこんな包丁は最初から扱わないはずです。
それがこの価格。少々驚きですが、ここはショールームにものすごくお金をかけている店なので、さにあらんというか、納得というか、「やはりそういうスタンスなのね」…という感じです。
この包丁の造りが雑であることは、見る人が見れば、一目でわかります。
解った上で売っているなら、老舗の名折れですし、わからずに売っているなら、包丁を見る目がありません。
いずれにせよ、『堺』の包丁売りとしては、少々恥ずかしい行為です。
なお、「手研ぎで刃付け」「名入れ無料」との表示がありますが、プレミアム価格の根拠とするには説得力が無さすぎます。
3番目と4番目は、1番と2番に比べると、少し安くはなっていますが、それでも1万円を超える価格設定です。
商品の構成、造りの精度、仕上げの状態などを考えると、1万円オーバーの値段設定は、価格的に高すぎます。
この包丁、どう評価する?
はっきり言うと、作りが酷いです。
間違ってもおすすめすることはできません。
包丁としての仕立てが雑なのです。
ブレードに関しては、鋼材(芯材)が
青紙スーパーですが、硬いだけで冴えがありません。
これなら、良く鍛錬した青紙2号の方が、よっぽど扱いやすいです。
刃体形状も今ひとつであり、「打ち抜き鋼材」をそのまま使った感がありありです。
そのため、
峰厚にぼってりと厚みが残っており、刃の抜け具合がよろしくありません。
スキ具合は、安物包丁にありがちな、下半分のみを削った形状。
両刃の洋包丁にも関わらず、鎬筋が出っ張っています。
打ち抜きで生じた『かえり』の除去も雑です。
柄の造作もよろしくなく、ブレードとハンドルの継ぎ目に隙間が多く、水が容易に内部に侵入してしまいます。
筆者の知人もツバ付きタイプの赤柄のオクゼンを持っていますが、全く同様の割れ方をしていました。
これはもう、構造的にダメだと言わざるを得ません。
この包丁を一言で形容すると…、
-
「青紙スーパー」という鋼材ブランドを笠に着て、
-
鋼材名に釣られる消費者を誘引し、
-
見せかけの3つ鋲と、派手な赤柄でプレミアム感を演出し、
-
その実、仕上げが雑で
-
本当に必要な部分には手間とコストがかけられていない包丁、…です。
柄を分解
とりあえず、柄を分解して外してみました。
中がどうなっているのか、見てみましょう。
柄を固定している鋲の頭を、ドリルで揉んで、かしめを外します。
中を見て、驚きました。
なんと、柄尻のピンは、ダミーです。
三つ鋲は見せかけであり、実質的には『
二つ鋲の半中子』
これは、
子供だましもいいところです。
三つ鋲なのに、なぜ本通しでも背通しでもなく、「コンシールドタン構造」なのだろうと思っていましたが、分解することでようやく謎が解けました。
しかもこれ、本来の穴を使わず、
中子の末端ぎりぎりに別穴を設け、その穴を使って固定しています。
この別穴を使うことで、外観からは半中子とは判らないピン配置にしています。
実にあざといです。
中子の末端ギリギリに穴を設けるのは、強度的には脆弱になるわけですが、そんなことはお構いなしですね。
これは、
包丁として酷い、ヒドイ、ひどすぎます!
ちなみにこの「オクゼン」ですが、東急や三越、小倉井筒屋などの百貨店で「堺打刃物 研ぎ実演販売会」と称して、実演販売をしています。
筆者も、実際に分解するまでは、まさか『二つ穴の半中子』だとは思わなかったわけですが、これが一般の方であれば、簡単に騙されてしまうところです。
補足
『包丁として酷い、ひどすぎる』と書きましたが、この包丁を酷いと感じるのは、筆者がさまざまな包丁を分解し、その中を見てきたからこそです。
包丁に詳しくない人であれば、この包丁のどこがそんなに酷いのか、実感が湧かないかもしれません(おそらくそれが普通でしょう)
なぜ酷いのかを一言で言うと、それは、『包丁に詳しくない消費者を騙している』…とでも言えるような、あざとさを秘めている商品だからです。
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