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包丁の切れ味 - 砥石の番手を上げれば切れ味は良くなるのか?

最終更新日: 作者:月寅次郎
包丁 研ぐ

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包丁の切れ味 - 砥石の番手を上げれば切れ味は良くなるのか? - 目次

  1. 砥石メーカーも「番手を上げると切れ味が向上」とは言っていない

  2. 高番手が最適な刃物の例

  3. 包丁を高番手で研ぐことのデメリット

  4. 普通の包丁であれば、中砥石がベストである理由

  5. 皮付き野菜や、鶏肉の皮で違いが出る

  6. フランスパンを楽に切れるか?

  7. 切断面の粗さが舌触りの違いとなるケース

  8. 刃を薄く鋭く仕上げると、まな板に食い込む場合も

  9. 紙の試し切りで陥りがちな落とし穴

  10. 紙で何を確認しているのか?

  11. 包丁には、包丁の研ぎがある
包丁を研ぐ際に、高い番手の砥石を使って、キレッキレの刃に仕上げる方がおられます

産毛がカミソリのように剃れる!」と、自慢する方も多いです

新聞紙がとても滑らかに切れる!」と悦に入る方も多いです

はたして、カミソリのように鋭い刃に仕上げるのが、包丁にとってのベストなのでしょうか?
確かに、刃物好きなら誰でも一度は、思い切り高い番手で研ぎ上げてみたくなるものです

それはそれで、素晴らしい経験です
中砥石では味わえない領域というものがあるからです

このページでは、高い番手で包丁を研ぐ際に陥りがちなデメリットと、1000番前後の中砥石で研ぐメリットについて解説します

ここに書いてあるのは、わたしの経験を通して感じたところの、非常にマニアックな「包丁と砥石の話」です

ですので、この見解が正しくて、全てであるとは思わないでください
重要なのは自分の経験を通し、実感として身につけることです

ネットに書いてあることを鵜呑みにするだけですと、大抵ろくな結果に終わりません
ここに書いてあることが本当なのか嘘なのかは、是非ともご自分で試して検証してみてください

砥石メーカーも「番手を上げると切れ味が向上」とは言っていない

砥石を製造・販売しているメーカーも、「高い番手の砥石を使うと、切れ味が向上します」と言ってはいません(包丁メーカーも同様です。これは重要な事実です)

切れ味が良くなる」というのは「魔法の一言」です。ダイエットにおける「痩せる!」と同じで、強力な宣伝文句です
これさえ使えば、仕上砥石の売上も大幅に伸長するはずですが、砥石メーカーはこの魔法の一言を使いません
なぜでしょう?

それは、高い番手の仕上げ砥石を使ったからと言って、必ずしも切れ味が向上するとは言い難いからです。(下手をすると、景品表示法における「優良誤認」に該当する可能性もあります)

番手を上げると、滑らかに切れるようになります。それは確実です
ただ一方で、微妙に刃のかかりが悪化する場合もあるのです

そう、「滑らかに切れる」というのと、「刃のかかりが良い」というのは、「切れ味」における、別要素だからです

言い方を変えれば、この2つの要素を高い次元で両立できる包丁こそが、優れた包丁であり優れた鋼材です
また、研ぎが上手な方は、高い番手で仕上げても、刃がかりがさほど悪化しません(研いだ直後は特にそうです)
逆の言い方をすると、包丁研ぎにあまり慣れていない方が、高い番手の砥石を使い、安いステンレス包丁を研ぎ上げた場合、(滑らかには切れたとしても)刃のかかりが悪く、切りかかりで滑りが出ることがあります

包丁の切れ味について
包丁の切れ味は、以下の4つの要素に分けることができます

1.刃がかりの良さ(触れた瞬間に食いつくように刃が入り、滑らずに切り込んでいけるかどうか)
2.切り進みの滑らかさ(刃がかかった後、切り進め時のザラザラ感の少なさ)
3.刃の「抜け」の良さ(食材を左右に押し分ける、圧力抵抗の少なさ)
4.表面抵抗(食材とのミクロ的な摩擦抵抗、張り付き感の少なさ)

この4点は、いっしょくたにされて「切れ味」と表現される場合が多いですが、それでは「底が浅い」というもので、何も語っていないのと同じです。
(そのくらい大雑把で、レベルの低い表現です)

「研ぎ」を生業としておられる方でも、これらをきちんと分けて表現している人は、実に少ないです(稀と言っても良いでしょう)
恐らく、感覚的には捉えている人が多いとは思いますが、それを言語・文章化して伝えることができるかというのは、全く別の話です
職人の世界で「見て覚えろ」というのが多いのは、「感覚では分かっているけども、それを上手に言語して、相手にわかるように説明することが難しい」ということの裏返しです

高番手が最適な刃物の例

カミソリの刃付け

包丁 研ぐ

剃刀は、肌表面に当てて使うため、可能な限り凹凸を減らさないと肌の表面を荒らしてしまい、カミソリ負けを起こしてしまいます
「ヒゲをいかに捉えて切るか?」も重要ですが、「肌当たりがどれだけ滑らかか?」も、同様に重要な要素となるのです
そのため、剃刀はできるだけ番手を上げる必要があります
日本剃刀の場合は、良質の天然砥石や、目の細かいダイヤモンドペーストで最終仕上げをする方もおられますが、頷けるところです
人造砥石の場合は、最低でも#12000番くらいまでは上げたいところです

昭和の時代の床屋ですと、西洋式の折りたたみレザーを革砥で仕上げる風景がよく見られました
あれも、刃の表面を滑らかに仕上げるための一つの方法です

鉋(かんな)の研ぎ

大工道具の鉋も、同様に高い番手で研いだ方が良好な結果が得られます

いかに薄く削れるかが、鉋の重要なポイントですが、刃に微細な凹凸があると、尖った部分がカンナ屑を引き裂くように作用するため、かんなくずに線状の穴が開いたりしがちです

そのため、平面維持性能の高い硬めの砥石を使い、高い番手にまで研ぎ上げる必要があります
鉋削りの大会では、たいてい8000番以上の番手で仕上げられることが多いです

勘の良い方は、ここで重要な事に気がつくでしょう
そう、カミソリもカンナも、刃を斜めに引いて使うことは無いのです

刃が真っ直ぐに当たる鉋と違い、包丁は引いて切るものです
これにより、刃の角度を擬似的に鋭角にすることができ、切れ味が良くなります

その際、微細なギザギザが有った方が、食材に触れた瞬間の食いつきが良くなり、滑らずに切り込むことが可能になります

簡易タイプのシャープナーは、包丁のエッジに傷を付けることでギザギザを生み出し、一時的に切れ味を回復させていますが、これも微細なキザギザの効能です

カミソリやカンナは、刃を斜めに滑らせず、真っ直ぐに当てて使うため、このようなミクロのギザギザがあると、かえってデメリットにしかなりません

そのためこのような刃物は、8000番以上の高い番手の砥石で仕上げることが望ましいのです

包丁を高番手で研ぐことのデメリット

包丁 研ぐ

刃の黒幕
#8000番

包丁の刃をこのような感じに仕上げると、食材に切り込む際、線接触となるため、「点接触」で食い込んでいきません
そのため、食材表面で刃がかからず、ごく僅かですが滑りが出る場合があります

この傾向は、ステンレス鋼材の中でも耐摩耗性が高く、砥石のかかりが悪い鋼材に顕著です

鍛造のハガネ(炭素鋼)の場合は、そこそこ番手を上げても刃が滑ることはありませんが、刃がかかりの悪い、のっぺりしたステンレス刃物鋼材ですと、この傾向が感じられます
同じステンレス鋼の場合でも、炭化物がしっかりと微細球状化されている場合は、この傾向があまり表面化しません(一概には言えませんが、そういう場合もあるということです)

普通の包丁であれば、中砥石がベストである理由

皮付き野菜や、鶏肉の皮で違いが出る

包丁 トマト
結果として、適度に番手を抑えて研いだ方が、皮付きの野菜を切る場合など、触れた瞬間に刃が入っていきます

脂肪分があり、刃が滑りがちな肉類を切る場合も同様です
皮付きの鶏もも肉を切り分けて、唐揚げを作る時などに実感しますが、ある程度ざらつきのある刃の方が、皮で滑らず、肉や筋をしっかり捉えてくれます

フランスパンを楽に切れるか?

包丁 パン切り

VICTORINOX
ブレッドナイフ
プロフェッショナル

フランスパン(バゲット)を切るときも同様で、800番くらいのやや低めの番手を使用した方が、硬いパンの表面を滑ることなく、ザクっと切り込んでいけます

パン切り包丁は、波刃にすることでマクロの点接触を作り、切込みのきっかけとしていますが、800番での刃付けは、これをミクロの点接触で実現しようというものです。(これさえ会得しておけば、パン切り包丁など買う必要はありません)

800番の砥石で仕上げると、番手が低めであるがゆえに滑らかな切り込み感は劣るようにも感じますが、料理を作ることを考えると、800~1200番の中砥石で研いだ方が実用的であるのです

研ぐこと自体を趣味的に捉える刃物マニアや、調理を仕事にしている人は別として、研ぐ際の手間と仕上砥石にかかる費用を含めて考えると、中砥石だけで済ませる方が、家庭内実使用を考えるとメリットの方が多いのです
ちなみに、高番手の仕上げ砥石は、比較的高額です(エントリークラスの包丁よりも価格が高いです)

切断面の粗さが舌触りの違いとなるケース

もちろん、「カミソリでの肌荒れ」と同様に、食材の切断面がそのまま舌触りとなって味の違いとして出てしまう料理は、6000番以上の番手まで上げて仕上げる必要があると思います

刺身を引く場合や、大根の桂剥きなどがこれに該当しますが、家庭ではあまりやらない調理です
逆に、このような調理を家でも行うような方は、6000番まで番手を上げて研ぐだけの価値があるというものです

刃を薄く鋭く仕上げると、まな板に食い込む場合も

包丁 研ぐ

わたしの場合、薄刃包丁を普通に6000番で仕上げただけでも、打物をする際に刃が食い込んで使いにくく感じることがあります
薄刃包丁は、片刃であることもあって、刃の角度が通常の洋包丁の1/2程度しかありません
ですので、余計に食い込みがちなのです

木のまな板や、カチカチに硬い樹脂製まな板だと、また違ってくるのかもしれませんが、使用しているのが柔らかめのエラストマーまな板ですので、余計にそうなのかもしれません(そのため、打物用と桂剥き用に、薄刃包丁を2本を使い分けています)
ペティナイフサイズの鯵切り包丁の場合は、同じ片刃の和包丁でもこうはなりません。これは重量の違いがその差となって出ているためです
薄刃包丁は平の面積が大きいため、その分重量も増しがちです。刃渡り6寸以上の薄刃包丁で、この傾向が顕著になってきます


紙の試し切りで陥りがちな落とし穴

包丁 研ぐ

紙はセルロース繊維の集合体です
そして包丁は、紙を切るために作られたものではありません

「紙が滑らかに切れる」ことと、「食材表面で滑らずに刃がかかり、容赦なく切れ込む」というのは、別の要素として、分けて捉えなければなりません
前者を追求すれば、カミソリやカッター刃のような、高番手で仕上げた刃物が最適となります。後者の特製を優先させるならば、微細な凹凸の付いた咬み付くようなエッジが最適となります

研ぐことが好きな人であれば、誰でも一度は、思い切り高い番手で研ぎ上げてみたくなるものです
それはそれで、素晴らしい経験だと思いますので、包丁を高い番手で研ぐことを否定するものではありません

10000番以上の番手で研ぐと、切刃が鏡面に仕上がり、実に美しく仕上がります
わたしもたまに、思い切り番手を上げて研ぐこともありますが、洋包丁の場合はもっぱらキングデラックスの#800番で研いでいます
手打ち鍛造の和包丁の場合でも、キング S-1(6000番)を最終仕上げとして、それで終わらせることが多いです

それ以上番手を上げても良いのですが、包丁研ぎの手間と、料理に使う実用性というものを勘案して考えると、このくらいがちょうど良いと考えているからです
それ以上番手を上げても構わないけれども、安物ステンレス洋包丁の場合は、少し使うと「滑る刃」になりがちですし、優れた鋼材を使用した高級包丁の場合でも、「自己満足領域」となるからです

紙で何を確認しているのか?

包丁 試し切り

紙を切って包丁の刃を確認するのは、包丁を砥石で研ぐ人なら、誰でもやる事です

ですが前述のように、包丁の切れ味の良し悪しを、紙だけで評価するのは考えものです
番手を上げれば上げるだけ滑らかに切れるようになりますので、あたかも切れ味が良くなったかのように錯覚するからです

包丁を研いだ後には、わたしも紙で試し切りをしていますが、それは切れ味を確かめているのではありません
確認しているのは、2点あって…
まず、アゴから刃先までの全域に渡って、刃がきちんと付いているか?を見ています
これはほとんどの場合、問題ありません。あくまでも念の為という感じです

次に、裸眼では判らない微細な刃こぼれが、刃筋に残っていないかを確認しています

まれにですが、裸眼では見えない極々小さな刃こぼれが残っていることがあります
その場合、紙がその部分で引っかかるのです

そのような小さな刃こぼれが残っていたとしても、わざわざ研ぎ直すことは、あまりしません
無駄に刃と砥石を減らすだけで、あまり意味は無いからです

少なくとも、食材に対する実質的な切れ味では、ほとんど変わりありません
わたしが仕事として研師をやっているのであれば、小さな刃こぼれでも確実に取ってからお渡しすると思いますが、家で使う包丁を自分で研いでいるだけの話しですので、小さな刃こぼれは、敢えて取らずにそのままにしています

次回、もしくはその次回の研ぎで、自然に取れてしまう刃こぼれを、無理に落としてしまうような事を毎回やっていると、刃が早く消耗してしまいますし、砥石ももったいないと考えています

包丁には、包丁の研ぎがある

長々と書きましたが、このように、包丁には包丁の研ぎというものがあります
ごく普通に#1000番の中砥石で研げば、それで良いのです。わたしがやっているように、敢えての#800番というのも、一つの選択肢です

8000番以上の砥石を使い、カミソリやカッターのように、鋭利で滑らかな刃に仕上げることを否定するものではありませんが、家庭内での使用を考えるとあまりおすすめできるものではありません。(それはもう、趣味の領域で、自己満足に近くなります)

砥石にばかり興味を持って料理に向き合わず、紙で試し切りばかりしていると、「包丁は食材を切る道具なのだ」という本質を見失うこともあります。
こういう落とし穴にはまっている「刃物マニア」は多いものです(わたしも気をつけなければと、常々反省しています)

…とかなんとか言っておきながら、「和包丁の霞をきれいに浮き立たせたい」と、わたしも試行錯誤していたりします
その度に、「こ、こ、これは趣味的な領域なんだからねっ… 」と、言い訳ばかりしています

趣味で包丁を研ぐのであれば、実用性は度外視しても構いません
数万円する#32000番の砥石を使おうが、巣板やカラスの天然砥石で研ごうが、本人の自由なのです

いえむしろ、自己満足こそを最大限に追求するべきだと思います
他人から冷ややかな白い目で見られようが、全く構いません
趣味とは、そういうものです

一つ補足しておきます
包丁の切れ味を、研いだ直後でしか判断していない人が、以外に多いです
料理よりも、刃物を研ぐことばかりに取り憑かれている人は、この落とし穴に嵌りがちです

包丁の実使用においては、人参を数本拍子切りにした後、どれだけの状態が保てているのかというのも重要な要素です

「極めて鋭いエッジを付けることができる」というのは、素晴らしい技術ですが、3食分の調理をした後で「通常の刃付けをしたエッジ」と、さほど変わらないレベルに落ちるのであれば、それはたいした意味を持ちえません
エッジが鋭ければ鋭いほど、初期性能の落ち具合も顕著になるものです

実使用域の切れ味というのは、少し使ってまな板に当て、「エッジが少し潰れて落ち着いた状態」で判断すべきだとも思います
少し潰れた状態でも、刃がよくかかって滑りにくいのは、カミソリの様に刃付けした刃ではないと思います
あくまでも標準的なステンレス刃物の場合です。炭化物が微細球状化された良質の炭素鋼の場合は、少々エッジが潰れても、炭化物が「切り込みのとっかかり」となって切れてくれます

注意書(お目汚し失礼いたします)

ここに書いてある事は、あくまでも月寅次郎個人の見解でしかありません

記載の内容を、あたかも自分の意見であるかのように匿名掲示板に書き込んで、「自分は刃物に詳しいんだぞ」という素振りをみせるのは、みっともないのでやめましょう

リンクを張って引用するのであれば、全くかまいません。(むしろ歓迎します)

前に一度やられましたので、根に持って警告しておきますが、コンテンツ内容を換骨奪胎して動画に仕上げるユーチューバの方がおられます

このような行為には毅然として法的対応を取りますので、ご注意のほどよろしくお願いいたします


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