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高硬度の包丁は、家庭では扱いづらい

最終更新日: 作者:月寅次郎
包丁

硬度を「最強」にすると、家庭では扱いづらい

粉末冶金法 ZDP189

ZDP189の包丁
ツインセルマックス
MD67
ZDP189に代表される粉末冶金法で作られた鋼材(粉末ハイス鋼)は、刃物マニア向けの包丁としては最強かもしれませんが、間違っても一般家庭用とは言えません(包丁マニア、もしくはプロ/本職の方のための包丁です。鋼材製造元の日立金属によると、「ZDP189は67HRC以上の硬さを得られる」とされています)

左の商品は、粉末冶金鋼材を使用したツヴィリングのツインセルマックスMD67で、金属製の包丁としては最強クラスの硬度を誇ります
60人前のローストビーフを、そこそこのスピードで、時間内に切り分けなくてはならない」といったような、質と量の両方を要求される調理作業に従事される方が、必要にかられて購入する包丁です

そのような調理作業に携わる方は、切っている途中で刃が終わってしまっても、調理を止めて包丁を研ぐわけにもいかないので、このような高硬度の包丁を使わざるを得ないのです(でなければ、あらかじめ包丁を数本用意しておくかの、どちらかです)

こちらのZDP189は洋包丁に使われる鋼材ですが、和包丁の世界になると、「白紙1号水本焼」というものがあります
和食の職人用包丁としては「究極至極」ですし、製造する鍛冶職人の立場から見ても技術的難易度が高く、おいそれとは槌を振るえない包丁です
もちろんこれも、家庭で使う包丁ではありません。(和食調理人の中でも、技を極めた方が、ここぞという時に腕を振るうための包丁です)

セラミック包丁

京セラ
セラミック包丁

また、非金属にも範囲を広げると、セラミック包丁が硬度最強となります
素材としてはジルコニアセラミックスとなり、HRCで74の硬度を得ることができます

ここまでくると、切削力が高めの砥石でも研ぐことができません。砥石に入っている研磨粒子は基本的に同じセラミックスなので、充分な硬度差が出せず、結果として研げないのです(ダイヤモンド砥石で刃を付ける以外に、方法がありません)
セラミック包丁は、高硬度と引き換えに低靭性であるため、材質的に脆く衝撃に弱いです。そういう意味ではむしろ脆弱・最弱とも言えるでしょう

包丁の刃欠け、刃こぼれについて

刃こぼれをするのは、包丁が低品質だからと考える方も多いようですが、それは完全に間違いです
むしろ、硬度の高い高級な包丁ほど刃こぼれしやすいものです

高級な包丁は高硬度の鋼材が使用されており、その分だけ、粘りや「しなり」の少ない、パリンパリンの刃になっています
また、刃の抜けが良くなるよう、刃の厚みを丁寧に薄く削いでいます

このため、こじるような力を加えたり、冷凍食品を切ったりすると、容易に刃こぼれが生じることがあります
超高級な包丁になると、床に落とすような衝撃を与えると、刃が欠ける程度では済まず、ポッキリ折れることすらあります(本焼きの和包丁など)

このように、包丁は、硬くて高級なものほど刃が欠けやすいものです
セラミック包丁が衝撃に弱いのも同じ理屈で、刃体が高硬度かつ低靭性だからです

 閑話休題
包丁には、刃体が「3枚合わせ」や「割り込み」になっているものがありますが、これは、「切れ味は良いが、折れやすく欠けやすい」という高硬度鋼材の弱点を克服するための、日本独自の刃物構造です
靭性の高い鋼材で側面を覆う構造ですので、高硬度の芯材でも大きな刃欠けが生じにくく、折れにくい刃体になります

ヘンケルスやツヴィリング、ビクトリノックスなどに代表される西洋刃物メーカーには、そういった刃物文化(異種金属を鍛接接合して刃物に仕立てる技術)が発生しなかったため、一枚物の包丁がほとんどです(一説には、日本のように良質な天然砥石が産出しなかったことが要因だと言われています)

高硬度な包丁のまとめ

このように高硬度の包丁は、刃先が潰れにくい分だけ刃が持ちますが、それと引き換えに靭性が低くなるために、刃が脆くなるというデメリットがあります

刃が欠けやすい」だけでなく、「やたらと研ぎにくい」、「価格が高額」というトリプルデメリットがあるのです

もちろん、それらをすべて理解したうえで、包丁の扱いに習熟した方が購入する分には、全く問題ありません
包丁としては素晴らしい性能を持っていますので、プロ用・マニア用の包丁としては、この上ない一本となり得ます

とはいえ、一般的な家庭用の包丁としては、万人におすすめできないのも事実です

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