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包丁の鋼材(ステンレス刃物鋼)

最終更新日: 作者:月寅次郎
包丁

包丁の鋼材について(ステンレス編)

包丁の鋼材(ステンレス刃物鋼)

クロムモリブデン鋼

12C27AUS-6などのステンレス鋼材ですと、HRC硬度は55~58あたりになり、価格的に手頃で、耐蝕性も良く、包丁として「使えるレベル」になります。ある意味「硬すぎなくて使いやすい」部分もありますが、別の見方をすると凡庸にも思えます
(以下のリンクは、ほぼ同等の硬度の鋼材を使用した刃物のインプレです)

 ■ X50CrMoV15鋼材(と推定される)ヘンケルスの小包丁を使った感想

 ■ X55CrMo14鋼材(と推定される)ヴィクトリノックスのペティナイフを使った感想

 ■ 420HCのガーバー製ナイフをアウトドアで3か月連続使用した感想

 ■ 12C27Cのナイフ(オピネル)をカスタムした例

ミソノ440
440AAUS-8あたりの鋼材になると、HRC硬度も58前後となり、価格、耐蝕性、切れ味のバランスが取れてきて、いわゆる「一般的に使い良い包丁」になります。すべてが及第点に達していますが、突出したところもないため、どこにも「最強」的な要素はありません
とはいえ、最もバランスが取れていると言うこともでき、(最強ではありませんが)「普通の家庭用包丁として優等生」です。最もおすすめできるかもしれません

左の包丁は、洋食調理人用の包丁メーカーとして高い人気を誇る、ミソノの「440」です
(440Aか、それとも440Cなのか、公表されていないので厳密には分かりません)

440CATS34銀三クラスになると、硬度も60近くまで持っていくことができ、切れ味的にはかなり高くはなるのですが、その分価格も高くなってしまい、痛し痒しです
(とはいえこのクラスになると、充分「いい包丁」ということができます)

コバルト合金鋼

VG10
藤次郎
DPコバルト割込
近年人気の「VG10」は、硬度も60前後出ますし、刃持ちが良いのは判るのですが、研ぎ上げ直後の「ここ一発の切れ味」で勝負するタイプではありません。
左に掲載しているのは、VG10鋼材を使用している、藤次郎のDPコバルト割込包丁です

大量の食材を処理する業務用包丁としては良いのですが、価格も高めですし、少なくとも「家庭用の最強」ではありません
(個人的な印象ですが、VG10はどちらかというとナイフに適正のある鋼材であり、包丁に使用する場合は、VG1の方が向いている気がします)
ちなみに、藤次郎の包丁名に「DP」と入っているのは「脱炭防止処理」のことで、割り込んだ芯材から、側面材に炭素の移動を防止する処置のことです(脱炭がおきると、炭素量が減って硬度が落ちるため)
同様に「コバルト」とあるのは、VG10がコバルト含有の鋼材であるからでしょう

 ■ V金10号(VG10)のペティナイフを使用した感想

関孫六
10000CL
コバルトスペシャルは、炭素鋼を彷彿とさせる高度な切れ味があり、個人的にも愛用していますが、鋼材としてマイナーであり、包丁に仕立てているメーカー自体が少なく、価格もそこそこします

左の商品「関孫六 10000CL」は、コバルトスペシャルを使用している数少ない包丁の一つです
またこれは実体験ですが、コバルトスペシャルの包丁を水滴の付いたまま放置しておいたら、先端に薄く錆が浮いていたことがあります(切れ味と耐蝕性はトレードオフになりやすいという好例です)

 ■ コバルトスペシャルの関孫六10000CLを使用した感想

ステンレス鋼(中炭素)

SUS420J2は、ステンレス系刃物用鋼材としては価格が低廉で、耐蝕性も優秀ですが、(刃物鋼としては)炭素量が低いため硬度を高くできず、包丁としては刃持ち(エッジホールディング性能)が良くありません
焼き入れ後の硬度も、最大でHRC55あたりまでしか上がりません

そのため、刃物鋼ではあるのですが、大手メーカーの包丁にはあまり使用されていません
(使用されているとしたら、ローエンドクラスの包丁です)
包丁用鋼材としては柔らかめのため、まな板の上で叩くと、刃が潰れて切れ味が落ちやすいためです

低価格の果物ナイフなどにはよく使われています

 ■ 420J2鋼材のミニナイフを使用した感想(Kershaw Ace 1710)

色々と書きましたが、鋼材名にあまりこだわる必要はありません
鋼材名は、単に「名称」でしかないのです

わたしのような包丁マニアやナイフマニアの人は別ですが、刃物鋼材に興味のない人が「鋼材名」にとらわれても、惑わされるだけだからです
逆に興味のある方は、徹底的にこだわってみてください(ご自分でどんどん探求してけるのであれば、これはこれで楽しいマニアの世界です)

包丁の販売サイトには、「●●鋼材だから、切れ味が鋭くて長持ち!」といった方便で消費者を惑わせ、しきりに買わせようとしてきます
ですが、後述のように鋼材名をしきりにアピールしているのは、「それ以外にセールスポイントが無いから」に他なりません

「切れる/切れない」は、どの鋼材を使うかよりも、「いつ研いだか?」「研いでからどれだけ使っているか?」の方が、よほど大きく影響します

「切れ味の長持ち度」についても、極端に気にする必要はありません

硬度を高く設定可能な高級鋼材は、確かに長切れしますが、一方で、「靭性が低いため、刃こぼれしやすい」、「研ぎにくい」、「シャープナーで研ぐと、内蔵回転砥石がすぐ摩耗する」といったデメリットがあるからです

そういったデメリットを何とも思わない人(技量でなんとかしてしまう人)の場合は、長切れする包丁を選ぶ価値があります
ですが、そうでない方の場合ば、程々の硬度で、研ぎやすく刃が付きやすい包丁の方が良いのです

ここでは具体的に鋼材名を挙げてみましたが、包丁の商品説明において鋼材名が明記されていることは、意外に少ないです
クロムモリブデン鋼や、モリブデンバナジウム鋼など、「包括的な名称」で表示されていることがほとんどです(要は、刃物用ステンレス鋼材と言っているのと、なんら変わりません)

大手メーカーであるほどこの傾向が強いのですが、小規模メーカーの場合は逆のパターンが多く、積極的に鋼材名を表記している場合があります
ブランド力で真っ向勝負しても、太刀打ちできないため、「この鋼材で、この価格」というマーケティング戦略を取っているわけです。言い換えると、それ以外に勝負できるポイントが無いとも言えます

ちなみに同じ刃物でも、趣味性の高いナイフの場合は、具体的な鋼材名を明示することが普通となっており、その影響でしょうか、Gサカイなどのナイフメーカーが製造する包丁は、鋼材名まで明らかにされていることが多いようです

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