源泉正(和ペティ包丁)
源泉正(和ペティ 包丁)
この包丁、元々はかなり
使い込まれて刃幅が短くなった鎌形薄刃包丁だったのですが、刃体の錆を落として刃の形状を整え、刃厚も薄く研ぎ抜いて、「
片刃の和ペティ」として復活して頂きました。
本当はもう少し手を入れたいところですが、現状でも充分使えるので、とりあえずこのまま使っています。
なかなか
使い勝手の良い形状ですので、個人的に気に入っています。
切れ味は申し分ありません。
軽く丸めたティッシュの上で刃を滑らせると、かかりが良好なことが分かります。
ズバズバッと切れてくれます。
後述の通り、
鋼材は白紙2号と推定していますが、白紙は噛みつくような刃がかりの良さがいいですね。
『裏』に関しては、ほぼ『ベタ裏』にしています。
この包丁のサイズであれば、ベタ裏にしたところで、さほどデメリットが顕在化しません。
『裏』の凹みはなぜ必要なのか、メリットとデメリットについて、真を突いた解説をしているのは、ネット上でもあまり見当たらないのですが、時間が取れたらこれについて解説をしてみたいところです。
ベタ裏にしたのは、(後述のように)経年によって刃筋が反っており、裏面の腐食も酷かったからです。
入手時の状態
入手時の「
源泉正」の状態です(包丁全体)
かなり使い込まれて
刃が小さくなっており、鎬筋も上がっています。
口輪(桂)の部分には、砥石が当たってできた
削れ跡が見受けられます。
包丁の寸法、コンディション
現状の実質的な刃渡りは13cmで、マチから先端までは14.5cmです。
元々の状態は、恐らく
5寸(15cm)の鎌形薄刃包丁だったと思われます。
(使い込まれて短くなり、刃幅も狭くなっています)
● 刃筋の状態
刃筋の中央がわずかに歪んで、
いわゆる「鎌首」になっています。
また、アゴの部分と中央付近に
刃欠けが生じています。
● 反り
あとでよく見て判ったのですが、この包丁は
経年による反りが出ていました。
それほど酷い反りではありませんが、
表面が伸び、裏面が縮むような典型的な反り方をしています。
結果として切刃の中央が出っ張り、刃先とアゴが引っ込むような形状になっています。
そのため、砥石を当てて面で研ぐと、出っ張った部分が削られて刃筋がへこんでしまいます。
鎌首になっているのは、この反りの影響です。
● 反りの修正
この反りの対処ですが、(裏側から見ると)刃先とアゴが出っ張った形になっていますので、出たところを削って落とし、平面に整えたのちに刃付けをし直せば、刃筋もおのずから整ってくるものと思われます。
このやり方ではハガネが若干薄くなりますが、致し方ありません。こじ棒で曲げたり、叩いて反りを矯正する手法もありますが、ここまで刃が薄いと折れる可能性の方が高いですので、削って修正する予定です。
鎬筋は、かなりあがっています。
このため、『源泉正』の
銘も半分消えかかっています。
切刃部分の
研ぎ目はかなり粗く、中砥石のものではないようです。
おそらく荒砥で研ぎ込んだのでしょう。
『
裏』の状態です。
赤錆は除去されていますが、
孔食(腐食の跡)はそれなりに残っています。
深めに入った孔食を除去するのは、それなりに手間がかかりそうです。
(硬度の出ているハガネを研磨するのは、作業がかなり大変です)
刃付専門業者が使っているような縦型回転砥石があれば、何とかなるでしょうが、あんな大型の業務用機械はさすがに持っていません。
反りの問題も残っているので、反りと孔食の両方に対処するには…、
-
角砥石に当て、力を込めてガシガシ研ぐしかない
-
ベタ裏になるけど、そこは目をつぶる
-
洋包丁のようなイメージで、裏からマイクロベベルを当てて使えば良い
…という結論に達しました。
口輪(水牛桂)の部分です。
砥石が当たって盛大に削れた跡があります。
前オーナーは、こういう細かい部分は気にせずに、「
使ってなんぼ」という感じで
ゴリゴリと力任せに研ぎ込むタイプの方だったのでしょう。
とはいえ、
切刃の「面」はそれなりに出ていますので、心得のある方が使っておられたもようです。
柄尻の拡大画像です。
かなり薄くなってはいますが、
柄尻に『源泉正』の刻印が打たれていることが判ります。
柄の状態です。
裏面の口輪周辺部です。
口輪の縁の部分には、
かなり傷みがあり、各所にヒビが入っています。
アゴには刃欠けがあり、修正が必要です。
小口の部分(表面)です。
見た限り、どうやら
一度研磨を入れているもようです。
刃付け・包丁研ぎ
まずは一旦
刃を付けてみて、切れ味を確かめてみました。
キングデラックス#800番で、おおまかに研いでいます。
刃欠け等の修正は、後回しにしています。
その後、
嵐山#6000番で中砥の目を消し、滑らかに仕上げました。
切れ味については申し分ありません。
筆者の持っている他の和包丁と同様に、かかりの良さと滑らかな切れ味の両立した、非常に良い刃が付きました。
刃のポテンシャルは『とても良い』ということが判ります。
鋼材は白紙2号と思われます。
砥石との当たり具合、研ぎ味、鍛接面の状態などから総合的に判断しています。
この刃は、反りが出ることで応力歪が既に取れており、
良い意味で『枯れたハガネ』に仕上がっています。
この後時間をかけ、ゆっくりレストアし、見た目も美しく仕上げたいと思います。
包丁のレストア(修理・修復)
この包丁は、現在レストア中(手直し・補修中)です。
まずは使える状態まで持っていき、その後、外観もきれいに仕上げたいと考えています。
平を研磨している様子
裏面の腐食跡(孔食)を除去している様子
口輪(桂)を薄くカットし、割れて汚くなった部分を除去します。
この包丁は、マチの際近くまで柄が深く押し込まれていたため、(わずかながら)桂をカットする余裕がありました。
私見ですが、柄とマチの間には適正な隙間があった方が良いと思います。
見た目もさまになりますし、清掃や拭き取りもやりやすくなります(広すぎると間抜けな感じですし、狭すぎると汚れや水分の除去がやりにくくなります)
サンドペーパーで柄を研磨し、
劣化してくすんだ木質表面を除去しました。
【 補足 】
サンドペーパーは信頼できるメーカーの製品を選びましょう。
(三共理化学、NCA、コバックスの3メーカーがおすすめです)
安物の研磨紙は、砥粒の剥がれが出やすいです。
また、砥粒の微粉末が表面に食い込むと、
木質表面が黒っぽくなって除去できません。
良質の研磨紙で再研磨して削り取るしかなくなります。
柾目や板目で起こることはありませんが、
木口面で発生することがままあります。
詳しくはこちらの、
サンドペーパーはどれも同じではありません のページをご覧ください。
研磨後の状態です。
柄は朴材で、汚れてくすんだ状態でしたが、
丁寧に研磨することで美しい杢が浮かび上がってきました。
このハンドルは、
虎斑状の模様が互い違いに走っていますが、朴材でこのような杢の出方をするのは珍しいかもしれません。(初めて見ました)
まだ未塗装ではありますが、非常に美しいハンドルに仕上がりそうです。
(ハンドルを研磨するまで、虎斑模様は全くわかりませんでした)
反対面の柄の状態です。(研磨後)
こちらも、杢が浮かび上がってきれいな木目がでています。
荒れて傷んでいた
水牛桂も、かなりきれいな状態に戻すことができました。
いわゆる「
白水牛」といわれる桂ですね。淡くうつろうマーブル模様の色調が特徴的です。
黒く染めた水牛桂もありますが、あれは『嘘みたいに真っ黒』なので、逆に味がありません。
このような天然物の味わいのある色調は、代えがたい素晴らしさがあります。
現状と今後の予定
現状では、小口と柄の防水処理を施し、暫定的に使えるようになっています。
まだわずかに孔食が残っており、手を加えて補修したい部分も多々残っています。
少しづつ手を加えて、きれいに仕上げる予定ですので、このページも順次更新する予定です。
この包丁は鎌形薄刃ですが、かなり刃が減っており、薄刃包丁としては「終わっている」と言ってもおかしくない状態です。
ですが逆に、この刃の形状を活かし、『
和ペティ』もしくは、『
サバキ包丁』として、
新しい包丁に生まれ変わらせることができました。
使い勝手が良く、小回りの効く包丁で、結構気に入っています。
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