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キングデラックス - 切削力のみで砥石を論じるのは片手落ち


キングデラックス

● 商品名:「キングデラックス」
● メーカー:「松永トイシ」
● 番手:#800、1000、1200番(中砥石)
● 種類:ビトリファイド製法(焼結系)


キングデラックス
#800番砥石

キングデラックス
#1000番砥石

剛研デラックス
#1000番
定番の中砥石「キングデラックス」です

砥石といえばコレ」という認識の方も多いのではないでしょうか?
それくらい知名度が高く、ホームセンターなどでも必ず陳列・販売されています

キングデラックスは、#800、#1000、#1200と、3種類の番手がラインナップされています
最もよく使われているのは#1000番で、これが一つの定番砥石です

ちなみに、わたしが使っているのは、#800番になります
なぜ#800番を使っているかと言うと、「たまたま安く入手できたから」という理由に他なりません

ただ、実際使ってみると、この番手はなかなか具合が良く、重宝しています

ステンレスの包丁の場合は…
800番で粗目のギザギザを刃筋に付けることができ、刃の掛かりが非常に良好です
ステンレス刃物は、下手に番手を上げると滑ってしまい、切りかかりが悪化する事がありますが、あえてやや番手を落とすことで、掛かりが良好の刃を付けることができるのです
800番という低番手と安物包丁の組み合わせで、どれだけの切れ味を出せるか? …については、左のリンク先ページでテスト・検証しています。合わせてご覧ください

ハガネの和包丁の場合は…
番手が低い分だけ切削力が高く、研ぎ始めからカエリ出しまでが早いです。さくっと楽に「返り」を出すことができます
ハガネの包丁は、思い切って高めの番手で仕上げても、刃の掛かりがさほど悪化しません(※1)
ですので、つなぎの3000番→仕上げの6000番と番手をあげ、キレキレの刃に仕上げていくのですが、どうせ番手を上げるのであれば、最初のカエリ出しに使う砥石は、ある程度番手が低いほうが楽に作業できるということなのです(刃筋の修整や、わざわざ荒砥を出す程ではない、ごく小さな刃こぼれの修整についても、同様に効果的です)

800番の砥石を上手に使えば、最初はぐいぐい力を入れてサクッと返りを出し、最後の方は砥泥を上手に使って優しく研ぎ上げ、荒く付いた研ぎ傷を、より細かい目に整えて研ぎ終えることも可能です

このような感じで、ステンレス包丁でもハガネの和包丁でも、それぞれに低番手ゆえの切削力の高さを活かし、スピーディーかつ実用的な刃に仕上げることが可能です

シャプトンの刃の黒幕を「切削力が高いので良い砥石」と安易に語ってしまうサイトが多いですが、切削力が高いというのは「同じ番手の砥石と比較した場合」という条件あっての話です

最終的に高めの番手で研ぎ上げるのであれば、(ほとんど刃が減っていないという場合を除き)最初はやや低めの番手からスタートするのも、一つの効率的な手法です
※1 これこそが、ハガネの包丁が切れ味が良いと言われる肝の部分だと思います

キングデラックス
砥石台を自作している時の一枚、サイズ合わせのために置いているだけですので、砥石が吸水していない状態です

キングデラックス
自作砥石台が完成して、使っているところ
キングデラックスの吸水が終わり、砥石台の上にセットして、「これから研ぎ始めます」という状態

左に置いているのは、スエヒロの3000番砥石「黄華」です

わたしがこのキングデラックス#800番を入手する前は、同じキング砥石のPB-04を長年使用していました
PB-04については、こちらのページで詳しく解説していますが、片面が800番、もう片面が6000番の両面砥石となっており、800番側はキングデラックスの800番が使われています

そういう意味では、キングデラックス800番をかれこれ30年ほど使い続けていることになり、「実質的に、これで2本目」になります

キングデラックス
キングハイパー
#1000番

剛研 玄人
#1000番
この時は、キングデラックス#800番 → スエヒロ#3000番嵐山#6000番と、3種類の砥石を使って刃付けしました

画像の和包丁は、水野鍛錬所の薄刃包丁(源昭忠)です

ここで使っている砥石で判る通り、わたしの砥石の好みは、切削力や平面維持度の高さよりも、扱いやすさやコントロール性を優先させています(和包丁を研ぐ場合は特にです)

砥泥の出が程よく、和包丁の面を滑らせた時に、安定してス~ッと滑らかに動かすことができ、ストロークの返し時の手応えがつかみやすい物が好みです

車のタイヤで言うと、グリップ力は適度で構わないので、滑り出しが判りやすく、万一滑ってもコントロール性が良好で、アクセル開度次第で意のままにドリフトできるような「コントーラブルで扱いやすい砥石」が好みです

やたらとハイグリップだけれども、グリップを失うといきなりスピンしたりハイサイドを食らったするタイヤもありますが、目を三角にしてコースレコードを狙うプロレーサーではないので、そのような高性能で尖った性格の砥石は、個人的に必要ないのです

研いでいる途中で、自分の意図せぬタイミングで、ガシッと噛み込んだりすると、鎬にガリッと研ぎ傷の跡が付いたりして後々面倒です
近年、吸水の必要がないマグネシア系砥石がもてはやされていますが、そこまで良いか?と思うこともままあります

刃の黒幕に代表されるマグネシア製法の砥石は、最適な水の状態から、水切れ状態までの遷移がややクリティカルで、ちょうどよいマージン幅が狭いように感じます
砥石が水を吸わない上に、砥石自体がほとんどど減らず、砥泥の出も少ないのですから、当然といえば当然です。(どうして誰もこれを指摘しないのでしょう? 誰も気にならないのでしょうか?それとも気づいてすらいないのでしょうか?)
この件に関しては、刃の黒幕(シャプトン)のページでも解説しています(あわせてご覧ください)

路面舗装に例えるとよく分かるのですが、水を通さないアスファルト路面では、雨水が溜まるとハイドロプレーニングを起こすことがあります

これに対して、キングデラックスに代表されるビトリファイド製法の焼結型砥石は、水が多すぎれば(ある程度は)砥石が吸収しますし、砥石表面が水切れしてきたとしても、砥石内部に多量の水を蓄えていますので、いきなり水切れしたりはしません
適正な水状態を維持するマージンが、格段に広いのです

このあたりは、適度に水が抜ける新工法のアスファルト塗装によく似ており、「砥石表面でのハイドロプレーニング」とも無縁です

※ 砥石表面でハイドロプレーニングが起こると書きましたが、洋包丁の場合はまず起こりません。面で研ぐ和包丁で(気を抜いて)力を緩めがちにストロークすると、手応え無く「にゅるっ」と滑ってこうなる場合があります
マグネシア製法の砥石は、砥石を固めているセメントの材質が水に溶け出すと、質感が「にゅるにゅる、むちむち」したエマルジョンっぽい液体になる傾向があるため、このような懸念があります
ビトリファイド製法の砥石は、砥泥が出ても、良い意味で「サラサラ、ザラザラ」としており、このような懸念がまずありません

こういう点も、個人的に焼結型の砥石の好きなところです

「研ぐことを仕事にしている方」が、切削力の高い砥石を好むのはよく理解できます
単位時間あたりにこなせる本数が、そのまま稼ぎに直結するからです

こだわりのカンナやノミを持っている方が、平面維持度の高いカチカチの砥石を高く評価するのも、よく理解できます
研ぎ終わりまでどれだけ平面でいられるかが、和の大工道具の仕上がりの肝だからです
そのような方向性を突き詰めると、電着ダイヤモンド砥石や、カチカチで減らないオイルストーンがベストの砥石になってしまいます

「生活で使う、家庭で研ぐ」という視点で考えた場合、単に切削力と平面維持度だけでは、砥石の良し悪しは決まりません

  • 適度に砥泥が出て、目詰まり知らず
  • 目詰まりしないので、名倉砥石も基本的に不要
  • 水管理のマージン幅が広く、乾いてきても水切れしにくい
  • 力をかけても力を抜いても、滑り具合と削れ具合が手に感覚としてよく伝わってくる
そのような、「安定した使い心地の、わかりやすい砥石」が、初心者にも扱いやすい良い砥石です

わたしの研ぎの経験やスキルは、素人に毛が生えた程度でしかありませんが、少なくともわたしはそう思っています

キングデラックス
こちらは、わたしが1990年頃に買った関孫六「鋼牛上作」で、サビサビになっていたものを再生・カスタムした包丁です

キングデラックス
自作砥石台を作る前の状態
ありあわせのステンレスバットを水受けにして研いでいる様子です(再現)

左の包丁は、堺刀司の薄刃包丁(岩国作)です
アゴの内側を大きくえぐり、面取りしているところが好みです

切れ味も申し分ありません
中古で入手し、面がメタメタに崩れていましたが、使いながらぼちぼち修正しているところです
柄を漆で塗って、中子の防水対策を施しています
(当サイトではまだ紹介ページを未作成です。そのうち作りたいと思います)

キングデラックス
箱の底面には、「使用方法」(砥石の使い方)が書かれています

とても簡単な説明ですが、「こんなんでわかるかよ!」と言わないでください

ネットが無かった時代は、この説明を見ながら、自分なりに試行錯誤して研ぎ方を習得した人も多かったのです(わたしもその一人です)

キングデラックス
側面にも使用法(注意書)があります

キングデラックスという名称

「○○デラックス」というの名称は、覚えやすく語呂が良く、高度成長期の消費者に「新しい何か」を感じさせるものがありました

戦災孤児の「ギブ・ミー・チョコレート」から十数年、明治製菓が「ミルクチョコレート デラックス」を発売したのは1957年でした
クリーム色と黄金色に彩られたパッケージに燦々と輝く"DE LUXE"という文字は、意味はよくわからかったとしても、その当時の人々を魅了したのです

キングデラックス」が、明治の「チョコレートデラックス」に影響されたかどうかは定かではありませんが、この頃は、「デラックス」という言葉に新しい響きと輝きがあったのです

マツコ・デラックスさんについては判りかねますが、どことなく昭和の香り漂う、素晴らしいネーミングだと思います)

「キングデラックス」のブランド認知度が上がり、定番砥石としての評価が確立すると、他社も同様の名称の商品を(訴えられない程度のぎりぎりのラインを狙いながら)追従発売していくことになります

わたしの持っている砥石に、「ペンギン デラックス」というのがあるのですが、この商品もおそらくキングデラックスの知名度を利用した製品です

また、ナニワ砥石も「剛研デラックス」というネーミングで勝負をかけています

このように、他社に真似されたという結果からしても、松永砥石はこの分野でマーケティング的な勝利を収めた言って良いでしょう(そのくらいの知名度があります。一種のブランド戦略です)
シャプトン刃の黒幕という人気商品を発売していますが、これも上手なネーミングだと感じます

ナニワ砥石やスエヒロなど、日本の有名どころの砥石製造会社は、品質的に同等(場合によってはそれ以上の)製品を作っていたりもするのですが、「キングデラックス」の知名度が上がりすぎたために、「次は、キングデラックスではない別の製品を試してみよう」とはならず、「次も同じ製品」という指名買いをする人があとを絶ちません

個人的には、ナニワ砥石が「キングを上回る性能を!」と気合い入れて作った「剛研デラックス」も使ってみたいですし、ワンランク上の砥材を使用した、プレミアム仕様の焼結砥石である「キングハイパー」や「剛研 玄人」も一度使ってみたいものです


砥石 わたしの使っている砥石

わたしが使っている砥石の一覧ページです