堺一次 薄刃包丁(一次請合)
この包丁は現在修復作業中のため、暫定的に現状の画像を掲載しています
現在までに終わっている作業は…
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刃体全体の大まかな研磨
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反って出っ張った平(ひら)の矯正(曲げるのでなく、砥石で削って修正)
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裏の修正(8割程度完了)
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中子の防錆処理(劣化した小口面の木材除去とエポキシ充填)
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柄の汚れ落としと研磨、漆塗装(あくまでも仮塗装です)
…です
「堺一次」について
「堺一次」は、馬場刃物製作所の銘で、その名の通り堺の刃物になります
以前は、堺が付いておらず、『一次』という銘でした
包丁用語『登録』と『請合』
この包丁には、「登録 一次請合」と刻まれています
ここで言う「請合」は「良く切れること、請け合います」といった意味を持つ用語で、「切味保証」と同じような意味合いで使用されています
現代ではかなり死語と化していますが、昭和の時代の大工道具や刃物などにはよく見られたキャッチフレースです
登録は、「商標登録済」という意味です(偽物対策用の表記です)
古い切出小刀や大工道具などでは「商標登録」と4文字刻みになっていることも多いです
ちなみに、時代がかなり古くなると、『登録』という文字が『録登』と逆方向から刻まれていたりもします
包丁も、古いから良いというものでもないですが、古いがゆえに現存数が少ないものは、入手も難しいですし、そこに価値を見出す人も出てきます
この包丁は、馬場刃物製作所さんに確認したところ、
『(最終的には中子を見ないと判別できないが、銘の文字からして)恐らく20年以上前の包丁だろう』
…と伺っており、1990年以前に製造された包丁のようです
この包丁について
ブランド:堺一次(一次請合)
包丁のタイプ:関東型薄刃包丁
刃渡り:5寸
柄:サクラ(推定)
鋼材:青紙2号(推定)
柄は、桜材と思われます。
少なくとも朴ではありません。持った時の密度感や重量が全く異なります
最初は、イチイかとも思いましたが、イチイはもう少し色が濃いのが普通です
また、柄尻と側面の2箇所にガムポケットと思われる黒褐色のスポットがあり、この特徴から桜材と推定しています
鋼材は研いだ感触から、青紙2号と推定しました。
ある程度の耐摩耗性があり、研磨力の穏やかなキングデラックスで刃付けしようとすると、意図的に砥粒を食い込ませないと、効率よく研ぎおろすことができません。
微妙に滑って食い込みにくい感触が伝わってきます
また、紙を切った時の感触も、青紙にありがちな滑らかさを持っています
青紙1号の可能性も否定はできませんが、恐らく青紙2号で間違いないでしょう(少なくとも白紙の感触ではありません)
入手時の状態
包丁の全体像です
極端に酷くはありませんが、腐食も多く、柄もくすんでいます
この包丁は中古で入手したものですが、こうやって下手に錆を落としていない包丁の方が、(個人的には)まだ安心できます
和包丁の面の重要性をあまり理解していない古物業者が、見栄えを良くするために錆を落として面まで崩してしまうと、局所的に深堀りがあったり、酷いときに刃筋に砥石があたらなかったりと、色々と大変だったりします
(経験者は語る)
刃物の平と切刃の状態
刃先の状態
柄の付け根の状態
他の和包丁と並べて撮影してみました
サイズは5寸です
和包丁の場合、マチから先端までの長さで測ります。この一次請合のサイズは5寸(15cm)になります
アゴから切っ先までの、厳密な刃渡り長で言うと、(画像の通り)約14センチになります
画像の包丁は、上から、
高砂屋、
堺刀司(岩国作)、そしてこの堺一次、源泉正、
(京都)有次です
源昭忠(水野鍛錬所)は、並べるのを忘れたため、この画像には写っていません
刃の反り具合
峰方向から見た状態です
20年以上前の和包丁のため、よく見ると『反り』が出ています
軟鉄とハガネを鍛接して焼き入れするため、収縮率の違い等によって、応力歪が内部残留するためです
製造直後は、研師の方が真っ直ぐにきれいな面を出してから出荷しますが、年数を経ることによって、徐々に残留歪が顕在化し、反ってきます
ゆっくりと長い年月をかけて徐々に反っていくため、包丁を使って研ぐことをしていれば、この歪は日々の研ぎと同時に削り取られていくので、反り自体が顕在化しません(裏押しの幅の違いとして、出ることがあります
こちらは、刃筋方向から見た状態です
この「反り」は、砥石に当てて、出っ張っているところを削り落として修正しました
刃の付き具合
暫定的に刃付けして、鋼材の感触を確かめました
青紙らしい、滑らかな良い刃が付きます
言うまでもありませんが、よ~く切れます
上の画像に並んでいる他の和包丁と同様に、素晴らしい切れ味を見せてくれました
修復作業の画像
柄の清掃・研磨・リフレッシュ
入手時の柄の状態です。ここからスタートします
サンドペーパーで柄の全体を研磨し、ざっくりと一皮向きました
表面のくすんだ感じや汚れは、あらかた落とせました
さらに、ビシビシに磨いていきます
木材表面がテカテカになるまで磨き上げました
ガサガサになっていた口輪(桂)も、整ったマットな質感に仕上がりました
この包丁は、黒白合わさった水牛桂が、実に魅力的な風合いを出しています
木目の色が濃くなっている部分に、わずかですが、線状のガムスポットが出ています
これは桜材と推測していますが、朴材に比べると木の密度が高く重量感もあり、木目の幅も広めです
口輪(桂)の端に薄いひび割れがあるようで、空気が侵入した部分の色が変わっています
この点は残念な部分ですが、古い包丁ですので仕方ありません
桂と柄の境のあたりです
よく磨き込んだおかげか、木材表面の奥の方でキラキラした反射が見て取れます
杢が美しく浮かび上がっています
塗装前の状態でここまで持っていくと、塗装後の仕上がりも確実なものとなります
この方向から見ると、なかなか美しい杢がでています
「磨けば光る」というやつですが、逆に言うと、磨かない限り光りません
一般に流通している和包丁で、このように、杢が浮かび上がるほどの研磨を施して販売されている製品は、わたしの知る限りありません
こそっと言いますけど、わたしも自分なりの磨き方を駆使してここまで仕上げています。
ただ単にサンドペーパーで研げばこうなるというものでもありません
木材は天然素材ですので、金属とは異なり、面の平滑度を上げるのが難しいものです(硬度が低いだけでなく、硬さが一様でなく、柔らかい部分に砥粒が食い込みやすいためです)
このサイトには、失敗事例も含めて、研磨に関する様々な情報がありますので、よかったら探ってみて下さい
作業中の汚れ対策として、カシュー漆の浸透塗装を2回施しました
さらっと塗っただけで、未研磨です
まだ導管が埋まるまでには達していませんが、この程度の塗布でも、水分が浸透しない程度の耐水性を持ちえます(この後の作業が楽になりますし、刃を本格的に修正する際、柄に砥泥が付着して困ることもなくなります)
刃体の修正作業が全て完了した後で、再度塗装を複数回施し、最終仕上げとする予定です
(この状態は、とりあえずの暫定措置です)
腹側にいい感じの杢の反射が出ており、とてもきれいです
(塗る前の磨き込みが効果的に働いたようです)
反対側からの一枚です
水牛桂の白い部分は、漆を塗布することで表面の反射が抑えられ、半透明な質感に仕上がり、高級感が増しました
まだ作業途中の状態ではありますが、いい感じに仕上がりそうです
柄尻の研磨と塗装
入手時の状態です
それほど酷いわけではありませんが、決してきれいでもありません
まずは、軽く研磨して様子を見ます
黒い点のようなものは、最初は油が付いたシミかと思ってました
(削れば落ちるだろうと考えていました)
ガッツリ磨いて一皮もふた皮も剥きましたが、シミが取れる気配がありません
どうやら、表面から付いた汚れではなく、木材由来の樹脂によるスポット状のシミのようです
いわゆる「ガムスポット」というやつで、桜材によく見られる特徴です
さらにサンドペーパーの番手を上げて、丁寧に磨き込み…
最終的に、少し丸みを帯びた形状に整えました
縁の部分もきれいに面取りを施しています
機械研磨では難しい、手磨きならではの仕上げです
カシュー漆で浸透塗装しました(2回塗装)
まだ導管が埋まるまでには達していませんが、この程度の塗布でも、水分が浸透しない程度の耐水性を持ちえます(この後の作業が楽になりますし、刃を本格的に修正する際、柄に砥泥が付着して困ることもなくなります)
刃体の修正作業が全て完了した後で、再度塗装を複数回施し、最終仕上げとする予定です
(この状態は、とりあえずの暫定措置です)
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