登山の様子に移る前に、ブライトホルンがどんな山なのか、簡単に解説しておきましょう
実際の登山の様子を読みたい方は、
ブライトホルン登山2(すり鉢状の氷河を渡る)を
山頂からの景色をご覧になりたい方は、
ブライトホルン登山4(山頂到達、360度のパノラマ)を、ご覧ください
ブライトホルンとは
ブライトホルンはスイスアルプスの山で、標高は4,164m。位置的にはスイスとイタリアの国境付近にあります
西側にはマッターホルン(4478m)、東側にはモンテローザ(4634m)があり、著名な山々に挟まれているおかげかブライトホルンの知名度は今ひとつ高くありません
このあまり知られていないブライトホルンですが、イタリア側に広がるすり鉢状の氷河は雄大で、開放感が素晴らしく、ここから見上げる南斜面は白くたおやかに雪をまとっており、優雅な美しさを湛えています
ブライトホルン南面 (イタリア側)
画像は、ブライトホルンの南斜面を、登頂前に撮影したものです
ザイルを繋いだ手前の登山者が印象的ですが、山の麓で黒い粒のように見えているのも登山者の人影です(よかったら探してみて下さい。山の大きさを感じられます)
豆知識:「白くたおやかで」という表現を使いましたが、北杜夫さんが著した「白きたおやかな峰」の舞台は、カラコルムの「ディラン峰 」であり、ブライトホルンとは異なります
ちなみに「モンテローザ」はスイスの最高峰であり、アルプス山脈で2番目に高い山です(一番目はモンブランで、フランスの最高峰となります)
(居酒屋チェーンの会社名に同名のものがありますが、ここでは関係ありません)
白きたおやかな峰
北 杜夫
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なんで山登るねん
高田直樹
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青春を山に賭けて
植村 直己
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1965年の京都府山岳連盟カラコルム登山隊がモデル
登場人物の「柴崎」が北杜夫氏で、「竹屋」が後述の高田直樹氏
「小説とはいっても、内容はほとんど実際に近い」と高田氏に言わしめた、上質の山文学
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昭和の山エッセーだが、これを超えるものは令和になってもなかなか現れない
山で逝った芝ヤンの話は、現実の話だけに胸に迫る
これを読むために「ヤマケイ」を買った人も多くいたというのも頷ける
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たとえ山好きでなくても、読んで楽しめる一流エンターテイメント
フランスで職を得るエピソードは心に沁みる。真摯な心は言葉を超えて伝わるものなのですね
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ブライトホルン北壁 (スイス側)
ブライトホルンには様々な副峰があり、2~5までの峰々全体がブライトホルンですが、単に「ブライトホルン」と言った場合は、最も標高の高い、画像「5」の西峰(4164m)を指します
ブライトホルンの主な登山口は、画像「6」のクライン・マッターホルンという岩山に設けられた、「マッターホルン・グレーシャーパラダイス駅」(3883m)になります
この登山口までは、
ツェルマットの村からロープウェイ等で登れるため、山頂との標高差が少なくなり、体力的負担があまりかかりません
等高線で確認してみると、ブライトホルンプラトーを渡る際の標高が、おおよそ3780mなので、登りは実質390m程度だと思われます
また、クレバス帯や、雪庇の出たナイフリッジなどの危険箇所が少なめで、雪崩の危険性も少ないため、スイスアルプス4000m級の山々の中では、技術的難易度が低めだとされています
とはいっても、登山経験の浅い方が単独で登るような山ではありません
マッターホルンの登頂予定者が、身体の高所順化を進めるためにブライトホルンに登ることもよくあり、わたしも現地でそういう方に何人もお会いしました
このブライトホルンは、(北側から見ると)溶けたアイスクリームのような掴みどころのない山容をしていますが、西側にあたるクライン・マッターホルンから見てみると、とてもスタイリッシュな山に見えてきます
ブライトホルンの西壁 (クライン・マッターホルンより撮影)
画像は、クライン・マッターホルンのロープウェイ駅で撮影したものです
(ブライトホルンを下山後、ツェルマットへ降りる直前に撮影)
ツェルマット方向から見上げた時とは趣が異なり、山頂直下の黒々とした山肌が、実に凛々しく映えています
山腹に溜まった雪塊の量感も素晴らしく、氷河化して切れ落ちているところの躍動感も素晴らしいです
また、この近さから見ると、氷の厚みの程度や割れ目が入ってクレバス状になっているところまで視認でき、氷河の動いている様子が伺い知れます
また、山頂に載ったアイスキャップが実に可愛らしく、端の方は大きな雪庇になっています
この氷冠の側面には、斜めにトレースが走っているのが判ります(よかったら目を凝らして探してみて下さい。これが登頂ルートです)
ブライトホルンの西面は、このように雪と岩とのコントラストが美しく、なかなか絵になるスタイリッシュな山でもあります
ブライトホルンを遠方から望む
これはヨーロッパヒュッテから見た、ブライトホルンの朝焼けです(モルゲンロート)
ヨーロッパヒュッテは標高2220mの山中にあり、ここからツェルマットまでは歩いて丸一日かかる距離です(直線距離で、約10キロほどだと思います)
ある程度距離を取り、標高のあるところから望遠で撮影しましたので、ブライトホルンを真横から見るようなイメージで撮影できていると思います
(オートルート16日目に撮影)
こちらはさらに遠方から撮影した、ブライトホルンの画像です
マッター谷のかなり後方、ガセンリードの村から山中に入ったところで撮影しています
ツェルマットまでは、歩きで1日半~2日程度離れています
左上の山塊がブライトホルンです
少し判りにくいですが、マッターホルンの山頂も顔を出しています(画像中央のあたり、メッテルホルンの右後方)
右上方のヴァイスホルンは実に美しく、この位置から見るボリューム感は素晴らしいです
また、ランダの大崩落(1991年に発生した大規模な岩屑流)の様子もよく判ります
(オートルート15日目に撮影)
豆知識 このように、グレッヘンを起点として山道に入り、山腹の山道をマッター谷を遡るようにして進み、ヨーロッパヒュッテを経由してツェルマットまで足を伸ばすのは、「ヨーロッパウェグ」と呼ばれる定番のコースです
「ツール・ド・モンテローザ」、「ウォーカーズ・オートルート」の一部でもあります
土屋太鳳さんのブライトホルン挑戦について
冒頭で、「ブライトホルンはあまり知られていない」と書いてしまいましたが、
女優の土屋太鳳さんが、テレビ番組企画でブライトホルンに登ると発表がなされたことで、山としてのブライトホルンの知名度が上がってまいりました(2019年の24時間テレビ)
太鳳さんは登山に関しては、(おそらく)初心者に近いでしょうから、一部に心配する声も上がっているようですが、天候さえ悪くなければ問題なく登頂するだろうと予想しています
元々本人には、舞踊やダンスなどの多様な運動経験がありますし、事前のトレーニングから体調管理、さてはスイス現地に着いてからの高所順応まで、専門的なトレーナーの指導の元、基礎体力の向上も含めて訓練を重ねておられることしょう
実際に山に登った経験こそ少ないかもしれませんが、何ら問題は生じないことと思います
逆に心配なのは、テレビ番組の影響で、安易に「ブライトホルンに登ろう」と考えてしまう人が増えてしまうことです
実際に登るまでいかなくても、アイゼンを装着しない軽装の状態で、現地ガイドも付けずに氷河帯(ブライトホルンプラトー)に足を踏み入れてしまう人が増えるのではないかと危惧しています
追記(2019/08/26 24時間テレビ終了後):
天候が思わしくなかったため、残念ながら登頂を見合わせたようですね
このような山に登る場合は、ツェルマットに滞在しながら天候が安定するのを待ち、好天の日を狙って登るのが一般的だと思いますが、テレビ企画であるために、登頂日が限定されてしまったことが要因の一つだと思います
結果的には残念な事になりましたが、登頂を断念することも登山の一つであり、賢明な判断だったと思います
この時のテレビ放映の様子については、
ブライトホルン登山後記8(土屋太鳳さんと24時間テレビ)のページにて詳しく解説してみました。結果的に24時間テレビの批判になっているかもしれませんが、あくまでも私見として読んで頂けるとありがたいです
さて、ブライトホルンの簡単な解説が終わったところで、
次のページからは、実際の「ブライトホルン登山」の様子に移ります
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