ホームスカッター STD-180E(実際の包丁研ぎの例)

最終更新日: 作者:月寅次郎

ホームスカッター STD-180Eで、包丁を研ぐ

刃物研ぎ機 ホームスカッター

新興製作所
ホームスカッター

STD-180E
新興製作所の「刃物研ぎ機 ホームスカッター STD-180E」の解説ページ「その2」です(全4ページ)

このページでは、実際の包丁研ぎの様子を紹介します。

電動研ぎ機は研磨力が高いですので、カエリを取る工程で反対側にめくれてしまい、カエリが取りにくい場合もあります(技量次第です)

電動研ぎ機を使った場合の、上手なカエリの取り方については、次のページ「使いこなし、コツと注意点」の方で、詳しく解説しています。

電動研ぎ機、実際の使用例

刃欠けの修整

刃物研ぎ機 ホームスカッター
刃欠けの出ている包丁を、研いで修正します。

刃欠けの修正ともなると、大胆に削りを入れて、刃筋を引き上げるしかありません。
切削量もかなりのものですので、中砥石では時間がかかり、効率も良くありません。

(荒砥がある場合は)荒砥に交換して作業します。

砥石の交換方法はこちらです。

刃物研ぎ機 ホームスカッター
荒砥でゴリゴリと削っていきます。

刃の欠けを、およそ半分程度修正したところです。

刃物研ぎ機 ホームスカッター
刃欠け修正後の状態です。

刃欠けをきれいに削り落とすことができました。
角砥石を使って手研ぎでやったとすれば、かなりの時間がかかったはずですが、電動パワーと荒砥石のお陰で、10分程度で研ぎおろすことができました。

実に、早くて楽です。

この状態からさらに進めるのであれば、刃筋の反りを少し入れたいところです。
(やや直線基調の刃筋となっています)

なおこの作業は、単に小刃を削って、刃筋を引き上げただけです。小刃付近の刃厚の調整は行っていません。

この時は「刃物研ぎ機」の初回使用時であったこともあり、まだ「機械研ぎ」に慣れていなかったため、単に刃欠けを落とすことだけに集中しました。
刃筋の反り具合の調整や、小刃付近の厚みの調整(研ぎおろし)は、後日ゆっくりやろうと考えています。


刃の厚みを研ぎ抜く


こちらは、かなり年代物の刃物です。

実はこのナイフ、峰から刃筋付近まで、厚みがほとんど変わらないという、不思議なブレード形状をしています。

形状はペティナイフに近いですが、元々はそうではなく、長年使い込んでこの形状に落ち着いたのかもしれません。

このまま使うには、刃の抜けが悪く切り抜け抵抗が大きいですので、思い切って刃厚を削ぎ、刃を薄めることにしました。

刃物研ぎ機 ホームスカッター
まずは、荒砥にゴリゴリと押し当て、大胆に削ります

刃物研ぎ機 ホームスカッター
刃先のカーブ部分を見ると判りますが、小刃幅が5mm程あります。

ペティナイフとしては、考えられない厚みです。
これを削り落として、シャープに切り抜ける刃体を作りたいところです。
(板材に一切スキを入れず、刃筋に小刃だけを付けたような形状をしていました)

刃物研ぎ機 ホームスカッター
反対側もゴリゴリ削ります。

粗くギラギラした切削痕が盛大に付いていますが、それは良く削れているということ。
砥石にも、鼠色の金属粉がびっしり付着しています。

切削効率の良さは、本当に素晴らしいところです。
手作業でやったとしたら、いったい何時間かかるか判りません。
(時間がかかるだけでなく、指紋が消えたりもします)

荒砥も同時購入して本当に良かったです。

● 関連ページ:荒砥と仕上砥石(別売)

刃物研ぎ機 ホームスカッター
切削が進み、思い描いた形状に近づいてきました
さすがは電動研ぎ機です。

座った状態で、刃を押し当てているだけなので、基本的に楽です。

刃体の面を削る場合、重要となるのは
今現在、ブレード側面のどの部分が、砥石と接触しているのか?」を、常に意識することです。

包丁の刃体は、ほぼ平面な箇所もありますが、緩やかな曲面を描いている部分もあり、一言では言えないような、複雑な形状をしています。

今、ブレードのどのあたりが削れているのか、しっかり掴むことができれば、意図した部分を削る事ができます。
(ただ漫然と削っていると、思い描いたブレード形状の通りに削ることが難しかったりします)

刃物研ぎ機 ホームスカッター
上の画像は、小刃の幅が注目ポイントです。
最初に掲載した画像とは、小刃幅が明らかに細くなっていることが判ります。
(ここまで削ったわけです)

荒砥でおよその形を整えた後は、中砥石に交換し、荒砥で付いた粗い研ぎ傷を、滑らかに整えます。

追記:
こちら側の面は、もう少し荒砥で研ぎ抜いた方が良いみたいですね。
厚みの抜き具合が少し足りません。
ですが、やり過ぎると元には戻せないため、こうやって一度確認してから後でやり直すのは、良い意味での「安全策」です。決して悪いことではありません。
(一度で仕上げようとすると、失敗することも多いものです)


刃物研ぎ機 ホームスカッター
こちら側の面は、なかなかいい塩梅に仕上がっています。

ぼってりと厚みの合ったブレードが、シャープで抜けの良い刃体に生まれ変わりました。

中砥石を当てただけですので、表面処理はもう少し手を入れたいところですが、このままでも充分使えそうです。
よく見ると、アゴの部分を少し失敗しています。荒砥が深く当たりすぎたようです

小刃筋に露出した孔食の除去

包丁 孔食
黒い点のように見えているものが孔食です(錆びによる腐食が穴状に進行したもの)

上の画像では、小刃の部分に孔食が出ています。

この程度の孔食であれば、電動研ぎ機を使えば、簡単に削り取ることができます。

孔食が切れ味に及ぼす影響は?



小刃やエッジの際に孔食が出ている場合、紙での試し切りの際に引っかかりが出るため、あまり好ましくはありません

紙の繊維が引っかかって、雑な切れ味に感じられるのです。

ただそれは、あくまでも紙を切った場合の話であり、食材を切る場合にはさして影響はありません。
水分を多めに含んだ食材の場合、よりその傾向が強まります。

ですので、積極的に孔食を削り取るのも良いのですが、包丁の使用に伴い、自然に研ぎ減って消えていくのを待つのも一つの方法です。

上の画像は顕微鏡による拡大画像で、孔食の酷い例です。ここまで行くと、孔食を通し越して「腐食穴」という感じです

● この包丁は、日本橋木屋が販売している 梅治作 牛刀 で、現在カスタム中です。

小さな刃欠けの対処

刃欠けもごく小さなものになると、裸眼ではほとんど見えません。紙を切ってようやく判ったりします

なぜこの箇所で引っかかる?と思い、顕微鏡で拡大してみると、小さな欠けが見つかったりします

紙では盛大に引っかかるのですが、いざ食材を切る際には、ほとんど差異は感じられません。

仕事として、研ぎ師が人様の包丁を研ぐ場合ですと、ミクロの刃欠けや、小刃の孔食も、きっちり除去して仕上げるべきでしょうが、自分の包丁を自分で研ぐ場合は、無理に除去する必要はありません

包丁は紙を切る道具ではないのですから、紙での切れ味に囚われていると、本質を見失いかねません

紙での試し切りの感触は、一つの参考値として確かめながらも、実際に食材を切った時の感覚を重要視すると良いと思います。

紙はへなへなしていますので、切り抜けの良否は全く判別できません。紙を滑らかに切りたければ、番手を上げるだけで良いのです。
番手を上げれば上げるほど、滑らかに切れるようになります(あとは鋭角にする)

電動研ぎ機は、削り過ぎに注意

電動研ぎ機を、孔食や刃欠けの除去で使う場合、注意したいのは、むやみに削りすぎないということです。

先程の画像をもう一度見てみましょう。
包丁 孔食
小刃上に出ている孔食の他にも、いくつか孔食があることが判ります。

この場合、刃筋を削って孔食を除去しても、その後ろに控えていた孔食が、新たに小刃面に近づいてしまいます。

これを何とかする場合、刃の側面を研ぎ抜いて、刃筋の厚み自体を薄くするしかありません。

ただ、薄くしすぎると刃が脆くなります。やるにも限界があります。
中硬度の粘りのある鋼材であればかなり追い込めますが、しっかり硬度の出た靭性の低い鋼材だと、ちと危ないです

色々書きましたが、家庭内で自分が使用する分には、この程度であれば、気にせずそのまま使うのが得策かなと思います。
(実際のところ、包丁の厚みがどれだけ残っているかにもよります)

瑕疵のある部分を削り取るのも良いのですが、その分刃筋が上がり、結果的に包丁が減ってしまうというのは一つのデメリットです。

電動研ぎ機を使えば、刃筋を上げることなど造作もありませんが、逆に使い方を誤れば、簡単に包丁を研ぎ減らしてしまうことにもなりかねません
(それだけのパワーと切削力があります)

電動研ぎは、手研ぎを習得した後で

研ぎ減らしを最小限に抑えながらも、なおかつ、きちんと刃付けをするというのは、包丁研ぎの一つの技量です

そのような研ぎの技量は、角砥石を使った『手研ぎ』を繰り返すことで、徐々に養われていくものです。
電動工具は早くて楽で、仕事の効率化には欠かせませんが、逆に電動特有の難しさも内包しています。

力のかけ方や、当てる角度をほんの少し違えただけでも、一瞬で大きな瑕疵となってしまうのです。
電動研ぎ機を使う場合は、できれば「手研ぎ」をしっかり習得してから望みましょう
でないと、包丁と砥石を削り減らすばかりで、ろくな刃が付かない結果となりかねません

● 関連ページ:包丁の刃を顕微鏡で見る(洋包丁編)
わたしが入手した包丁の中で、一二を争う孔食の酷い例。
(切刃に孔食が露出しまくっている部分を顕微鏡で拡大撮影しています)

● 関連ページ:武峰作ペティナイフ
プロの業者が電動砥石で失敗したと思われる実例。
『武峰』の邑田武男氏が刃付けしたわけではなく、某販売業者による電動砥石の刃付です。
刃付けの瑕疵よりも、この状態で出荷・販売してしまうところが恐ろしいです。
(安物包丁なら構いませんが、これ『武峰作』ですよ)

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