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仕上げ砥石で研ぐ - 顕微鏡解析4

最終更新日: 作者:月寅次郎
仕上げ砥石

仕上げ砥石で研ぐ - 顕微鏡解析4

砥石で研ぐ(顕微鏡解析)- 目次

  1. 荒砥石で研ぐ - 顕微鏡解析1

  2. 中砥石で研ぐ - 顕微鏡解析2

  3. 中仕上砥石で研ぐ - 顕微鏡解析3

  4. 仕上砥石で研ぐ - 顕微鏡解析4 (現在のページ)

  5. 包丁の刃を顕微鏡で見る - 洋包丁編

砥石の違いを検証するべく、刃物を実際に研いで、顕微鏡で観察しようという企画です(仕上げ砥石編)

本来は和包丁を使いたかったのですが、鍛造刃物の代用として比不倉鉋の刃を使用しました。(切刃面積が小さく、短時間で研ぎ上がるため)

企画趣旨や刃物の詳細、検証ポイント等については、企画・テストの趣旨、条件をご覧ください(このページでは割愛します)

この仕上げ砥石編では、6000番以上を範囲対象とし、4本の砥石をテストします。
  • 松永砥石:キング S-1(#6000番)

  • 大谷砥石:嵐山(#6000番)

  • 末広砥石:G-8(#8000番)

  • ナニワ研磨工業:剛研輝(#12000番)
それではまず、研ぎ上がりの刃の状態から見ていきましょう。

刃の仕上がり・研ぎ目

キング S-1 #6000番

キング S-1
キング S-1 #6000番の研ぎ目です。

キング G-1
#8000番

キング S-1は、あまり硬くない砥石ですので、研磨粒子の食い込みも穏やかで、マットな質感に仕上がります。
霞の包丁(ハガネと軟鉄を鍛接接合した和包丁)は、鍛接の部分の上方が霞むような風合いを持つことから『霞仕上げ』と言われるのですが、霞の浮かび上がり具合が秀逸です。

地金がねずみ色に曇り、ハガネは深く沈みような色合いで、和の刃物らしく研ぎ上がりました。

硬度が高く、切れの良い砥粒を配合した仕上げ砥石は、研ぎ目のエッジが立つことから、刃面にギラつき感が出ることが多く、曇った風合いを出しにくいことがありますが、このキングS-1は、穏やかで柔らかい砥石ですので、良い具合に曇らせることができます。

天然砥石には『内曇り』と称されるものがあり、地金をきれいに曇らせることから珍重されますが、人造砥石でここまで曇った質感を出せるのであれば、高額な天然内曇り砥石を買う必要はどこにあるのかと、疑問に思ったりします。
(個人の意見です。キングS-1の曇り具合は、個人的に好みですので、和包丁の仕上げとしてよく使っています。)

嵐山 #6000番

キングデラックス
嵐山 #6000番の研ぎ目です。

北山
#8000番

キングS-1と似た感じの風合いに研ぎ上がりましたが、比べてみると、ほんの少し硬質な感じに仕上がりました。(あくまでも相対的なものです)

曇った感じはキングS-1の方がよく出ていますが、こちらの刃面にはシャープさが有り、研ぎ溝のギラ付きがわずかに感じられます。

こうやって通常の距離から見ると、嵐山#6000番の方が目が粗いように思えるのですが、実はそうではないということが、この後の顕微鏡画像で判ります。

スエヒロ G-8 #8000番

スエヒロ G-8 #8000番

スエヒロ G-8 #8000番の研ぎ目です。

剛研 富士
#8000番

8000番ともなると、刃金の輝きも一段と増してきます。

地金の方も、ふわっとした妖艶な曇り感が出ていますが、焼成砥石だけあって研磨粒子はしっかり食い込んでくるため、光の角度によってはギラ付きが出る面もあります。

このG-8の研ぎ画像は、後から撮影したため、他の画像とくらべて撮影角度が異なっています。機会があれば、同じ角度で取り直したいと思います。

剛研輝 #12000番

剛研輝12000
剛研輝 #12000番の研ぎ目です。

刃の黒幕 クリーム
#12000番

#12000番まで番手を上げると、ほぼ鏡面の仕上がりになります。

表面平滑度が上がり、光の乱反射が極小になっているため、光の反射角度がカメラ側に向かうか・向かわないかの二択状態です。まさに、カメラマン泣かせの刃肌です。

この角度から映すと、光がカメラ方向に反射してこないため、刃面が黒く写ってしまいました。
角度を変えると、鏡のように写ったりもします。まさに鏡面に近い仕上がりです

ここまで番手を上げると、刃筋のギザギザがほぼ消えますので、毛を剃る用途に合った刃に仕上がります。(紙を切る場合も、繊維に引っかからないため、滑らかに切り込めます)

一方、霞の包丁の審美性という観点からは、ハガネと軟鉄の質感のコントラストが引き立たないため、評価の難しいところです。
本焼きの包丁であれば、刀身の刃紋が引き立つとは思いますが、一般的な霞の包丁の場合は、好みによるかと思います。

顕微鏡で解析

それでは、顕微鏡で撮影した画像を見てみましょう。

キング S-1 #6000番

キング S-1 顕微鏡
『キング S-1 #6000番』で研いだ刃物の、顕微鏡画像です。

前述の「普通に撮影した画像」では、深く沈むようなハガネの色合いと、良い具合に曇った軟鉄が印象的で、よほど目が細かいように思えましたが、顕微鏡で撮影してみると、意外に逆の結果が出ました。

刃筋のエッジの部分には、(良い意味で)ミクロのギザギザが付いており、刃面にもそれなりに研ぎ目がついているのが判ります。

キングS-1は仕上げ砥の番手でありながら、刃のかかりが悪化しにくく、良い刃が付くなと思っていましたが、刃がかりの良さは、この適度に残ったミクロのギザギザによるものですね。(納得)

嵐山 #6000番

ダイヤモンド砥石 #150番
『嵐山 #6000番』で研いだ刃物の、顕微鏡画像です。

キングS-1と比較すると、実に面白い結果となりました。

普通に撮影した画像では、研ぎ目に若干のギラつき感が出ていましたが、顕微鏡画像で見る限り、嵐山の方が(キングS-1よりも)目が細かいように思えます

刃筋のエッジのギザギザも、こちらの方が滑らかに仕上がっています。

これはあくまでも推測ですが、嵐山砥石の方が、砥粒の粒径が若干小さいのかもしれません。

キングS-1が、深みのある曇った質感に仕上がるのは、砥石自体が柔らかく砥泥も出やすいため、研ぎ目の溝の角が鋭角にならずに、適度に角が落ちて光が乱反射しているからだと推測されます。

スエヒロ G-8 #8000番

スエヒロ G-8 顕微鏡
『スエヒロ G-8 #8000番』で研いだ刃物の、顕微鏡画像です。

ビトリファイド砥石(焼成タイプ)だけあって、研磨粒子の食い込みがしっかりしているようです。

レジノイド砥石のように、表面で沈み込みが起きないため、粒径サイズが同じだと、より食い込みが強い傾向にあります。

同番手のレジノイド砥石を持っていないため、比較ができないのですが、同じ8000番の『 キングG-1 』や『 北山 』であれば、もう少し砥粒が柔らかく当たって、研ぎ目もマイルドに仕上がるのではないかと思います。

剛研輝 #12000番

剛研輝12000 顕微鏡
『剛研輝 #12000番』で研いだ刃物の、顕微鏡画像です。

実に面白い画像です。ほぼ鏡面に仕上がっているのですが、光の反射によっては、研ぎ溝の角で強い反射が出るため、ところどころで白い筋目が見られます。

刃筋のエッジ部分には、ギザギザがほとんどありません。

また、面白いことに、これまで黒い連続した穴のようにしか写っていなかった鍛接筋が、白く反射して写っています。

ここまで番手を上げると、切れ味もウルトラスムースになります。

ただ、費用対効果は劣悪です。トマトがスパスパ切れれば良いというのであれば、#800番のキングデラックス1本でも全く問題ありません。
違いが出るとしたら、目の詰まった硬めの根菜類を切る場合ですが、それでも#6000番程度で充分かなと思います。
包丁の場合は、鉋(かんな)やノミと違い、引いて切りますので、刃筋に極微細なギザギザの刃が付いていた方が、刃がかりが良くて刃が滑りにくく、実用的な刃となります

10000番以上の番手というのは、髪や体毛を切る(剃る)場合に必要となりますが、食材を切る包丁の場合は、基本的にそこまで必要ありません。


砥石表面 顕微鏡画像

砥石の表面を顕微鏡で撮影した画像です。
表面の質感と凹凸(粗さ)を観察することができます。

6000番以上の仕上げ砥石になると、砥粒サイズが極小のため、粒子自体を観察するのは難しくなりますが、ところどころで粒子の光の反射が確認でき、全く観察できないわけではありません。
(それでも10000番を超えると、この解像度では判別が難しいです)

キング S-1 #6000番

キング S-1 顕微鏡
『キング S-1 #6000番』砥石表面の、顕微鏡画像です。

表面に穴が見えるのは、砥粒が剥離した跡だと思われます。
穴の大きさを見ると、#6000番としては意外に大きめです。

縦に筋目がついているのは、剥がれた砥粒が(研ぐ際に)砥石表面と擦れてできた研ぎ溝と思われますが、この溝のなだらかな付き方からしても、砥石自体の硬度が柔らかく、砥粒自体もマイルドで、あまり角が立っていないことが判ります。

嵐山#6000番と比較すると、粒径はキングS-1の方が若干大きく、砥粒と砥石の硬度はキングS-1の方が柔らかいと言えます。
大きくて角のなだらかな丸い砥粒で、滑らかに研ぐ感じです。研ぎ溝の深さはキングS-1の方が深いですが、研ぎ溝の角が立っていないため、(裸眼で見ると)研ぎ傷のギラつきが出ず、曇った質感に仕上がります。

嵐山 #6000番


『嵐山 #6000番』砥石表面の、顕微鏡画像です。

砥粒の剥離跡を見ると、キングS-1よりも粒径が小さめであることが判ります。

直線的にビシッと付いた研ぎ溝は、砥石が硬めで、砥粒の角が立っていることを表します。

キングS-1と比較すると、粒径がやや小さく、砥粒と砥石自体の硬度がより高いことが判ります。

嵐山#6000番には、いくぶん柔らかめの「包丁用」と、それよりも硬い「標準」の2種類がありますが、今回使用しているのは「標準」の方です。

柔らい方の「包丁用」を使えば、砥泥も出やすく砥粒がソフトに当たるため、刃面のギラつき感が抑えられ、より曇った仕上がりが期待できます。

● 嵐山#6000番の2種類の砥石と、見分け方ついては、嵐山6000番の「硬口」は、実在するのか? をご覧ください。

スエヒロ G-8 #8000番

スエヒロ G-8 顕微鏡
『スエヒロ G-8 #8000番』砥石表面の、顕微鏡画像です。

白い『島』のようなものが、表面の各所にありますが、これは肉眼でも容易に判別可能な大きさですので、単一の研磨粒子ではありません。
おそらくは砥粒を集成して固めたものではないかと思われます。一つ一つの研磨粒子は、小さすぎて判別できないもようです。

表面を縦に走る溝状のものは、研いだ際に付いた研ぎ傷と思われます。

所々に穴も空いており、小さな物は焼成砥石特有の気泡(隙間)と思われますが、まれに、『島』が剥がれて生じたと思われる、やや大きめの穴が見つかることもあります。

剛研輝 #12000番

剛研輝12000 顕微鏡
『剛研輝 #12000番』砥石表面の、顕微鏡画像です。

ここまで番手が高いと目が細かすぎるため、研ぎ溝の付いた「白い平原」にしか見えません。

砥粒の剥離跡も、剥離した砥粒も、ほとんど判りません。

12000番というのは、理論値では1ミクロン以下、0.5ミクロン以上になるはずですが、ここまで目が細かいと、この顕微鏡の解像度では砥粒自体がよく判らないという結果になりました。

砥石表面の顕微鏡画像ですが、粒子の凹凸が判りやすいように撮影しています
(かなり試行錯誤しました)

ただ単に顕微鏡を当てて撮影しただけでは、凹凸が判らないのっぺりした絵面しが映らない場合もあります
砥石の結合剤の違いや、粒度・番手にも影響されます

包丁研ぎと同じで何度も何度も繰り返し撮影すると、砥石表面の粒子状テクスチャーが判るような、安定したきれいな画像が撮影できるようになったりもします

仕上げ砥石(今回のテスト対象)

今回テストした仕上げ砥石は、以下の4本です。
  • 松永砥石:キング S-1(#6000番)

  • 大谷砥石:嵐山(#6000番)

  • 末広砥石:G-8(#8000番)

  • ナニワ研磨工業:剛研輝(#12000番)
このページでは、顕微鏡観察によって、どの程度の研ぎ目が付くのか、表示番手と実際の研ぎ目の差異を検証しました。

砥石の使用感などのインプレは、長くなるので割愛していますが、ご覧になりたい方は、下の画像(もしくは上のテキストリンク)をタップして、「月寅次郎が使ってレビュー」のページでご閲覧ください。

なお、実売価格はページ右下の商品画像下に表示されるようにしていますので、そちらでご確認ください。
(広告ブロッカーをONにしていると、価格も画像も表示されません。広告ブロッカーをOFFにしてお楽しみください)

キング S-1

キング S-1
キング S-1
  • 会社:松永砥石
  • 結合:レジノイド
  • 粒度:#6000番
  • 砥材:?

嵐山 #6000番

嵐山 #6000番
嵐山 #6000番
  • 会社:大谷砥石
  • 結合:レジノイド
  • 粒度:#6000番
  • 砥材:?

スエヒロ G-8 #8000番

スエヒロ G-8 #8000番
スエヒロ G-8 #8000番
  • 会社:末広砥石
  • 結合:焼成(焼結型)
  • 粒度:#8000番
  • 砥材:GC(炭化ケイ素)

剛研輝 #12000番

剛研輝 #12000番
剛研輝 #12000番
  • 会社:ナニワ研磨工業
  • 結合:マグネシアセメント
  • 粒度:#12000番
  • 砥材:WA(ホワイトアランダム)

撮影に使用した顕微鏡

顕微鏡(WiFi・USB)

DEPSTECH
WF036 顕微鏡
スマホ/PC対応

2K解像度 WiFi
撮影に使用したポータブル顕微鏡
『DEPSTECH WF036』

撮影時はスマホとWi-Fi接続し、スマホ側のアプリを操作して撮影しています
ピントと光量は本体側で調整

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