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荒砥石で研ぐ - 顕微鏡解析1

最終更新日: 作者:月寅次郎
荒砥石

荒砥石で研ぐ - 顕微鏡解析1

荒砥石編では#800番未満を対象とし、以下の3本の砥石をテストします。

それではまず、研ぎ上がりの刃の状態から見ていきましょう。

刃の仕上がり・研ぎ目

SK11 ダイヤモンド砥石 #150番

ダイヤモンド砥石 #150番
ダイヤモンド砥石 #150番で研いだ刃面です

深めの研ぎ傷が盛大に付いて、かなりギタギタの表面になりました。

この電着ダイヤモンド砥石は、表面に酸化鉄微粒子が付着し、色が変わって見えています(そのくらい使い込んだ状態でテストしています。私物ですので使用状態に差異があります。各砥石の条件を同一にできず、申し訳ないですがご容赦ください)

※ 砥粒の切れが落ち着いた状態ですので、新品に近い状態なら、さらにギタギタの仕上がりになったと予想されます。

SK11 ダイヤモンド砥石 #600番

ダイヤモンド砥石 #600番
ダイヤモンド砥石 #600番で研いだ刃面です

#150番にくらべればいくらかましですが、依然としてギタギタな状態です。
そのくらいよく削れているということでもあります。

硬い刃金にも容赦なく研ぎ傷が入るため、地金と刃金の違いがよく判らなくなっています。

刃の黒幕モス #220番

刃の黒幕モス220
刃の黒幕モス #220番で研いだ刃面です

#600番のダイヤモンド砥石と比較すると、幾分ギラ付きが抑えられており、研ぎ目の深さも浅いようです。
刃金と地金の質感の違いも、うっすらと出るようになりました。

この実験結果を見る限りでは、電着ダイヤの600番よりもGCの220番で研いだ方が、細い目に仕上がっています

番手(メッシュサイズ)というのは、砥粒の平均粒径サイズですので、研ぎ目の深さを決定づける一要因でしかありません。

砥材の硬度や砥粒の角の立ち具合、砥粒同士の結合強度、結合剤の柔らかさなど、多種多様な要因が複雑に絡み合い、どこまで鋼材に食い込むかが決まってきます。

あらと君 #220番

あらと君
あらと君 #220番で研いだ刃面です

荒砥だけあって深めの研ぎ傷が入っていますが、軟鉄部分には若干の『曇り』も見られ、ギラ付きが抑えられている感じです。

うっすらとではありますが、地金がねずみ色に曇り、刃金は白く輝いています
荒砥で研いだにしては、和の刃物を感じさせる研ぎ上がりになっています。

今回テストした荒砥石の中でも、最も目が細い仕上がりになりました。

ナニワ研磨工業 ニュー大村砥

ナニワ
ニュー大村砥

今回のテストでは取り上げていませんが、しっかりと砥泥が出るタイプの荒砥が好みの方には、ナニワ研磨工業の『ニュー大村砥』がおすすめです。
(粒度#150番・GC砥粒・焼結タイプ)

砥泥が出やすい分だけ減りも早いですが、IR-1300なら厚みが5.5cmもありますので、少々研ぎ減っても何ともありません。

平面が崩れやすいというのはデメリットとして考えられがちですが、それと引き換えに、常に角の立った砥材が露出した状態で研ぐことができ、目詰まりや目つぶれとは無縁というメリットが得られます。

どちらのメリットを優先させるべきかは、個人の好みや研ぐ刃物の種類によっても変わってきます。
ちなみにわたしは、少しくらい減りが速くても、砥泥がそれなりに出て、常に目の立った状態で研ぐ方が好みです(平面が崩れてきた場合は、出っ張ってきた部分を逆に活かして研ぐようにしているからです)

顕微鏡で解析

それでは、顕微鏡で撮影した画像を見てみましょう。

SK11 ダイヤモンド砥石 #150番

ダイヤモンド砥石 顕微鏡
『電着ダイヤモンド砥石 #150番』で研いだ刃物の、顕微鏡画像です。

粒度が粗い分だけ、深い研ぎ目が付いています。

鍛接跡の筋がわかりにくくなるほどの状態です。

刃筋にはギザギザが大きく出ており、のこぎりの歯のような仕上がりになっています。

SK11 ダイヤモンド砥石 #600番

ダイヤモンド砥石 顕微鏡
『電着ダイヤモンド砥石 #600番』で研いだ刃物の、顕微鏡画像です。

ビシッと鋭角な研ぎ溝ができています
砥泥が全く出ないため、研ぎ傷のギラ付き感も盛大です。

この#600番ダイヤモンド砥石は、未使用に近い状態で研いだため、砥粒の角が立っており、鋼材にグイグイ食い込んで深い掘れ跡ができました。

ダイヤモンド砥粒という超硬素材であることも作用して、600番砥石としては、かなり深めの研ぎ目に仕上がりました。
使い込んだ状態で研いだ場合は、もう少し穏やかな研ぎ目に仕上がったことでしょう。

ダイヤモンド砥石の#150番と#600番を研ぎ目を見ると、実番手ほどの差異が出ていないように思えますが、これには理由があります。

● 砥粒の摩滅状態の違い
#600番の方は、ほとんど使用しておらず、砥粒の角が立った状態ですが、
#150番の方は、表面に鉄微粒子が付着して金色に見える程度にまで使い込んでいます。
そのため、砥粒の角が落ちて、いくぶん粒子が丸まった状態になっています。

● 力の入れ方(圧力のかけ方)
今回テストに使用した比不倉鉋刃は、切刃面積が小さく、やや研ぎにくい刃物になります。
ダイヤモンド砥石のような、点接触の集合体のような砥石では、グライド感(滑り感)がよろしくなく、力を入れると噛み込んで研ぎ角度がぶれてしまい、鎬筋に傷が入る懸念がありました。
そのため、#150番の方では充分に力を入れられず、いくぶん力を弱めて研いでいます。

双方ともに新品の状態で、圧力のかけ方も同じ状態で研ぐことができれば、研ぎ傷の深さも、さらに違ってきたものと思われます。

刃の黒幕モス #220番

刃の黒幕モス220 顕微鏡
『刃の黒幕モス #220番』で研いだ刃物の、顕微鏡画像です。

前述のダイヤモンド砥石と比べると、比較的浅めの研ぎ目に仕上がっています。

研ぎ傷が薄くなったため、地金と刃金の合わせ目(鍛接跡)の筋目が、くっきりと観察できるようになりました。

なお、この画像は中央付近が黒っぽく写っていますが、これはその部分が凹んでいるわけではなく、研ぎ傷(溝)が規則正しく揃っていることによって、光学的に生じたモアレ干渉縞です。

砥泥がしっかり出ることにより、溝の角が落ちたり溝の深さがランダムになると、光の反射方向が整わずに乱反射するため、モアレ干渉が出現しません。
その場合、波長が長めの赤色光が吸収されるため、画像の色が緑方向に遷移します。
掲載画像はホワイトバランスを調整しているため、緑がかった画像はありませんが、モアレの出ていない画像は、たいてい緑がかった色調になっていました。

あらと君 #220番

あらと君 顕微鏡
『あらと君 #220番』で研いだ刃物の、顕微鏡画像です。

ギラギラした感じはかなり抑えられ、(相対的な比較ですが)マットな質感が出てきました。

とはいえやはり荒砥です。刃筋のエッジを見ると、のこぎりのようなギザギザが出ていることが判ります。

販売ページの説明では、『(砥材の粒径は)#220番だが、実質的に#400程度の研ぎ上り』と書かれていましたが、『確かにその通り』という感じです。

砥粒が食い込んだ部分は#220番なりの研ぎ溝ができるものの、剥がれたり解砕した砥粒が砥泥となって作用し、研ぎ傷の角を丸めてくれるため、結果的にワイドレンジに研げているもようです。

あらと君』と『刃の黒幕モス』は、表記上の番手は同じ#220番であり、(後述のように)砥石表面の粒子サイズも同程度に見えますが、少々違った感じに研ぎ上がりました。

GC(炭化ケイ素)の方が、PA(ピンクアランダム)よりも硬度が高いというのもあるでしょうが、それ以外にも砥粒の結合強度や解砕のしやすさなども要因の一つとなり得ます。

今回のテストも、その時の砥石の状態(目の立ち具合や潰れ具合)にも左右されますので、あくまでも一つの事例として考え、絶対的なものとは捉えないでください(参考程度にとどめてください)

砥石にもさまざまなタイプがあり、新品の時は良好な使い心地なのに、使い込んでいくと研ぎ感が変わってきたり、すぐに目が詰まって刃にかからず、ツルツル滑ってばかりで放り投げたくなる砥石もあります(どこの会社とは言いませんが)

そのようなデリケートな砥石は、その時のコンディションの良否で評価が大きく分かれます。今回の考察も、とある砥石の一時点の状態を切り取って解析したものと捉えていただければ幸いです。
(なんか、えらい含みを持たせちゃったなぁ)

砥石表面 顕微鏡画像

砥石の表面を顕微鏡で撮影した画像です。
表面の質感と凹凸(粗さ)を観察することができます。

荒砥は粒子が粗いため、砥粒の一粒一粒がよく判ります。

SK11 ダイヤモンド砥石 #150番

ダイヤモンド砥石 #150番
ツボ万 アトマ
砥石修正用 中目

『ダイヤモンド砥石 #150番』砥石表面の、顕微鏡画像です。

150番だけあって、粒径サイズが大きいです。

かなり使い込んだせいか、全体的に角が取れ、丸っこくなった粒子が多くなっています。

左側の縦筋が入っている部分(ダイヤ粒子のない部分)は、菱形に設けられた砥石の溝の部分です。(電着されていない部分)

SK11 ダイヤモンド砥石 #600番

ダイヤモンド砥石 #600番
『ダイヤモンド砥石 #600番』砥石表面の、顕微鏡画像です。

600番になると、ここまで粒子サイズが小さくなります。
左側の非電着層の部分には、剥離したダイヤ粒子が付着しているのが見えます。

よく見ると、やや大きな粒子も混じっているようにも見えます。

刃の黒幕モス #220番

刃の黒幕モス220 顕微鏡
『刃の黒幕モス #220番』砥石表面の、顕微鏡画像です。

GC砥材(グリーンカーボナイト/緑色炭化ケイ素)を使用しているため、やや緑がかった黒褐色砥粒が見て取れます。

研いだ感触では、グイグイ食い込む感触がやや薄く、少し目つぶれしている感もありましたが、見た感じでもそのような感じです(角の落ちた粒子が多いようです)

表面を修正砥石で当たってあげれば、元通りのキレの良さが復活するでしょう。せっかくのテストなのですから、もう少し「キレキレの状態」で使ってあげるべきだったと反省しています。

あらと君 #220番

あらと君 顕微鏡
『あらと君 #220番』砥石表面の、顕微鏡画像です。

ピンクアランダム砥粒のため、見た目もきれいな桜色です。

番手が同じの「刃の黒幕モス」と比較すると、見た目上の粒子サイズもおおよそ同じように見えます。

粒径も揃っており、極端に大きな粒子は見当たりません。
角も立っており、シャリシャリと良く削れます。

砥石表面の顕微鏡画像ですが、粒子の凹凸が判りやすいように撮影しています。
(試行錯誤して、工夫して撮影しています)

ただ単に上から顕微鏡を当てて撮影しただけでは、凹凸感が判らない、のっぺりした絵面しか映らない場合もありますので、自分で検証される方はご留意ください。
砥石の結合剤の違いや、粒度・番手にも影響されます。

荒砥石(今回のテスト対象)

今回テストした荒砥石は、以下の3本です。
このページでは、顕微鏡観察によって、どの程度の研ぎ目が付くのか、表示番手と実際の研ぎ目の差異を検証しました。

砥石の使用感などのインプレは、長くなるので割愛していますが、ご覧になりたい方は、下の画像(もしくは上のテキストリンク)をタップして、「月寅次郎が使ってレビュー」のページでご閲覧ください。

なお、実売価格はページ右下の商品画像下に表示されるようにしていますので、そちらでご確認ください。
(広告ブロッカーをONにしていると、価格も画像も表示されません。広告ブロッカーをOFFにしてお楽しみください)

あらと君

あらと君
あらと君
  • 会社:砥石どっとこむ
  • 結合:ビトリファイド(焼結型)
  • 粒度:#220番
  • 砥材:PA(ピンクアランダム)

刃の黒幕モス #220番
刃の黒幕 モス
  • 会社:シャプトン
  • 結合:マグネシアセメント
  • 粒度:#220番
  • 砥材:GC(炭化ケイ素)

ダイヤモンド砥石
SK11 両面ダイヤモンド砥石
  • 会社:SK11(藤原産業)
  • 結合:電着
  • 粒度:#150番/#600番(両面)
  • 砥材:ダイヤモンド

撮影に使用した顕微鏡

顕微鏡(WiFi・USB)

DEPSTECH
WF036 顕微鏡
スマホ/PC対応

2K解像度 WiFi
撮影に使用したポータブル顕微鏡
『DEPSTECH WF036』

撮影時は、スマホと顕微鏡をWi-Fi接続し、スマホ側のアプリを操作して撮影しています。
ピントと光量は本体側で調整。パソコンとのWi-Fi接続も可能です。

補足:企画・テストの趣旨、条件

荒砥、中砥、仕上げ砥など、さまざまな砥石で研いた刃の状態を、顕微鏡で観察しようという企画です。

研ぎに使用する刃物について

本当は薄刃包丁のような『和包丁』を使用したかったのですが、刃減りがもったいないですし、時間もかかります。
そのため切刃面積が小さく、短時間で研ぎ上がる小さな刃物をテスト対象として採用しました。

今回の研ぎテストに使用した刃物は、比不倉鉋「利通」(溝掘用の鉋刃)です。刃金の鋼材は(推定ですが)白紙2号です。

黄紙2号やSK3鋼材(JIS規格)の可能性も否定できませんが、白2だと思われます。クロムやタングステン、モリブデン等を含有しない、純粋な炭素鋼に近い鋼材で、パリパリとした『かかり』の良い刃が付きます。
ハガネと軟鉄を鍛接した、鍛造品の和の刃物ということで、和包丁の研ぎ上がりを見る代用品としての採用です。


検証するポイント

さまざまな砥石を使い、研いだ後に刃の表面がどのようなテクスチャーとなるのかを検証します。
切刃の仕上がり具合、曇りやギラつき感、鏡面度などを通常写真で確認した後に、
顕微鏡拡大画像で、研ぎ目の深さや粗さ、番手相応かどうか、などを検証します。

また、砥石表面の状態も顕微鏡で撮影し、表面の粗さ、砥粒の脱落跡、砥粒の角の立ち具合等を見てみました。

テスト対象とした砥石

月寅次郎が保有しているすべての砥石をテスト対象としています(荒砥も含めています)

画像数・文章量ともにかなりのものになりましたので、ページ分割し、荒砥石中砥石中仕上げ砥石仕上げ砥石の4ページに分けています。(このページには荒砥石のみを掲載しています)

元々、包丁の刃を顕微鏡で観察するのは、こちらの 包丁の刃を顕微鏡で見る - 洋包丁編で実施していました。

ですが洋包丁は、小刃幅が細いため砥石当たり面も細く、限られた面積しか観察できません。また、小刃の角度に顕微鏡を合わせ、同じ光の角度で撮影することが難しく、同条件に揃えにくいという要素がありました。

和包丁は面で研ぎますので、顕微鏡の角度も合わせやすく、観察範囲を広く取ることができます。
また、地金刃金、鍛接部のの3箇所に対して、砥粒の食い込み具合の差異を見ることが可能です。

砥石で研ぐ(顕微鏡解析)- 目次

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  2. 中砥石で研ぐ - 顕微鏡解析2 ←次のページ

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  4. 仕上砥石で研ぐ - 顕微鏡解析4

  5. 包丁の刃を顕微鏡で見る - 洋包丁編


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