「あらと君 #220番」を、月寅次郎が使ってレビュー
「あらと君」
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分類:荒砥石
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粒度:#220番
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砥材:PA(ピンクアランダム)
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結合:ビトリファイド(焼成/焼結型)
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製造会社:今西製砥
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寸法:205 x 65 x 34
「あらと君」は、砥石どっとこむ(株式会社 松利)が販売している荒砥石です。
パッケージには商品名が印字されたシールが貼付されているのみで、注意書きや説明書きは一切ありません。
砥石本体にも印字が無く、製造ロットナンバーのプリントもありません。
そういう意味では素性不明にも見える砥石ですが、実際には今西製砥が製造している砥石です。
あらと君
#220番 荒砥石
あらと君 #220番 のインプレ
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刃によくかかって滑らず食い込む、シャリシャリ研げる切削力(ピンクアランダムのおかげか?)
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焼結型らしい安定した研ぎ味(グライド感を把握しやすい。つっぱる感じや空滑り感も無く、クリティカルさを感じさせずない)
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使いやすい適度な硬度、砥泥もそこそこ出る(砥粒がしっかり解砕するのが判る)
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砥泥を出しすぎると砥粒の目にかかりづらくなる(適度に水を加え、砥泥の状態を維持しながら研ごう)
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焼結型のため、目詰まりとは無縁。砥石表面に鉄粉が入り込み、灰色になっても問題なく使える
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220番という粗目の焼成砥石のため、表面の水が下に抜けやすい(使いにくいと感じるほどではない)
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厚みと重量のおかげで、力を込めて積極的に砥粒を食い込ませる研ぎ方でも、安定して研げる。
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上の画像は、あらと君を使って
比不倉鉋の刃を研いだ時の様子です。
あらと君の仕上がり(研ぎ目)

上の画像は、あらと君で研いだ刃の表面を、顕微鏡で観察した時のものです。
あらと君の粒径は#220番ですが、研いだ後に包丁側に付く研ぎ目の粗さは比較的細かめで、300~400番相当と言って良いかと思います。
このため、あらと君で研いだ後に
刃の黒幕オレンジ#1000番で整えると、苦もなくスムーズに繋がります。
刃の黒幕オレンジは、実質600~700番相当の研ぎ目のため、お互いの研ぎ傷の深さが極端に違わないという背景があります。
研ぎ目の粗さを顕微鏡で観察したところ、電着ダイヤ砥石#150 > 電着ダイヤ砥石#600 > 刃の黒幕モス#220 > あらと君#220番 …という感じです。
詳細な解析結果は、
荒砥石で研ぐ - 顕微鏡解析1 のページをご覧ください。
研ぎ目の深さで
他の荒砥石と比較して解析・考察しています
あらと君
大型
上の画像は、あらと君の表面拡大画像です。
一般的に
荒砥石にはGC砥粒が使用されることが多いですが、あらと君はPA砥粒(ピンクアランダム/ピンク色のアルミナ)が使用されています。
砥粒が適度に解砕することで、角も立ちやすく、シャリシャリと鋼材に良く食いつく印象です。
砥粒の硬度で比較すると、GC(炭化ケイ素)の方がPA(ピンクアランダム)より硬いのですが、切削力の良さは、単に硬度だけで決まるものではありません。
いくら硬度が高くても、砥粒のエッジが立っておらず、丸い状態だと食い込みが悪く、効率的な切削にはなりません。
「丸くなる」というのは、摩耗して角が落ちるという場合もありますが、解砕時にどのような結晶形状になりやすいかという特性も影響します。
一般的にWAやPA(AL2O3)は結晶の角が比較的尖っており、シャープな研ぎ感が得られやすいです。
一方でGC砥粒(SiC/炭化ケイ素)は、立方多角形状となりがちで、瞬間的な食い込み感だけで比較すると、優しくマイルドな感触を持っています。
(あくまでも相対的な話であり、それほど大きな差異があるものではありません。体感的な感覚には個人差があります。違いを大きく感じる人もいれば、差異を感じない人がいても、おかしくはありません)
「あらと君」の製造会社は?
ナニワ
剛研 荒武者
#220番
なお、PA砥粒(ピンクアランダム)を使用した角砥石の荒砥は、あまりポピュラーではありません。
GC砥粒(グリーンカーボランダム)の荒砥でしたら、昔からありましたし、こちらのほうが一般的かと思います。
この手のPA砥粒荒砥石を製造している会社は少なく、メジャーな製品としてはナニワ研磨工業の「剛研 荒武者」くらいしか見あたりません。
(左の画像の商品です。実売価格が表示されない場合は広告ブロッカーをOFFにしてみてください)
そのようなこともあり、当初「あらと君」は、ナニワ研磨工業のOEM品の可能性を考えていましたが、実際のところは、京都の今西製砥株式会社が製造しているとのことです。
(このあたりは表記を改善し、製造者や製造国を明記することが望まれます)
※ 製造者の記載に間違いがありましたが、「とぎたろう」さんより連絡を頂き、修正いたしました。ご指摘ありがとうございます!(2022/06)
『あらと君』で包丁を研ぐ

この包丁は、年代物の
源泉正(使い込んで刃幅が細くなった鎌形薄刃包丁)。
経年によって反りの出た包丁を、研いで削って刃筋をまっすぐに整えているところです。
プロの方でしたら、矯正用のこじり棒で修整するところでしょうが、そういった専門用具は持ち合わせがありません。
また、曲げて直すと内部歪が増して耐折損性が落ちますし、徐々に元に戻ってくる可能性も否定できません。何より、力を加えすぎると折れてしまう可能性もあります。
そのため、手間はかかりますが、反って出っ張った部分を削って落として直線(平面)を出すという、かなり無茶なことをやっています。
この頃の「あらと君」は、まだ使い始めで日が浅く、砥石の表面が一皮剥けかけた状態でした。
表面層のあたりは、溶融ガラス質が砥粒に厚めにまとわりついているようで、砥石の色味も
ピンク色が濃い目のものとなっています。(細孔をガラス質が埋めているため、光が散乱しにくく、色が濃い目に映っているもようです)
上の画像をよく見ると判りますが、砥石の外層周辺は、ガラス質が多めに付着しているせいか、色が違って見えています。
これは、細孔が埋まり気味のため水分の抜けが悪く、削れた鉄分が溜まって黒っぽく見えているものと思われます。(この下の画像でも同様の現象が出ています)
※ 表面層と中の方で、少し密度感が異なる(結着の度合いが違う)というのは、後ろの方で詳しく解説しています。
裏面もしっかり砥石を当てます。
荒砥で裏出しすると簡単に
裏が広がってしまうので、こういうことは本来やるべきではないのですが、この時の作業目的は…、
「ベタ裏になっても構わないので、反って曲がった刃体を、削ってフラットに戻す」でしたので、構わずジョリジョリと裏を削っています。
(かなり時間はかかりましたが、無事に修整することができました。ほぼベタ裏になりましたが、さほど気にせず使っています)

多量の砥泥が砥石表面を覆った状態。
ここまで砥泥がまとわりついてしまうと、一種のクッションのような状態となり、砥粒の食いつきが悪くなります。このような状態になると、ねっとりした感触が出てしっかり研げません。
適度に水を加え、砥泥が厚すぎず、薄すぎずの状態を維持しながら研ぐのがおすすめです。
「あらと君」の研ぎ目は、このような感じです
柔らかい地金の部分には、しっかりと掻き傷が付き、よく削れていることが判ります。
刃金の部分も、しっかり砥粒が食い込んでいるようで、研ぎ傷がガッチリ入っています。

ピンクアランダム砥粒はホワイトアランダムに次ぐ硬度がありますが、その分
靭性は低いため、ピシピシと頻繁に解砕します。
上の画像は、堺清貞のステンレス包丁を研ぎ抜いている時の様子です。
鎬筋の出っ張った部分を研ぎおろして平らにしているところですが、ハンドルの付け根に近い部分まで砥石を当てているため、砥泥がはみ出して、ねっとりとまとわりついています。
砥石台の黒い表面の上には、解砕した砥粒が白い微粒子となって付着しています。
この解砕した砥粒を(乾いた状態で)
指で触診してみると判りますが、砥石表面の砥粒と比較すると明らかに粒度が異なり、
解砕して生じたことが感じ取れます。

こちらは
堺一次の関東型薄刃包丁(製造年代が古いため、銘には『一次請合』と刻まれています)
砥石側面を見ると判りますが、
粘土状になった砥泥が押し出されてへばりついています。
この時は確か、2~3時間程度研いだと思いますが、ずっと研いでいると、この様に側面に泥が付きます。
砥石の出っ張ってきた部分を上手に利用して研ぐことで、研ぎながら平面を保っています。
そのため、砥泥が側面に張り出すほど研いでも、砥石表面はそこそこフラットなままです。
(この件は、ページの後ろの方で解説しています)
硬さのバラつきや不良粒子は、有る?無い?
あらと君のamazonのレビューを丹念に読んでみると、品質にばらつきがあるといったレビューも散見されます。
わたしの使っている「あらと君」の使用感は、どのような印象なのか、もう少し詳しく書いてみましょう。
これを書いているのは、厚さが3mmすり減るまでに使った時点ですので、ある程度使い込みが進み、製品としての印象が固まってきた状態で執筆しています。
硬さや充填密度の差異
使用開始直後は「
硬くて減りが少なく、平面維持度が高く、砥泥もあまり出ない」という印象でしたが、同時に、「
硬すぎるがために、目潰れも若干出る」という感じも拭えませんでした。
砥粒の結束力が高く、研磨粒子同士がガチガチに固まっている感じで、正直言うと「ここまで硬いのは、あまり好みではない。」とも感じました。
オイルストーンか何かで研いでいるような感触で、溶けた溶融ガラス質が砥粒同士の隙間に入り込み、ビッチリ固まっている感じです。
砥粒の解砕も少なく、刃の鋼材を無理やり掻き取っているような、少々荒々しい感覚です。
ですが使い進むに連れて、表面が一皮剥けたのか、本来の研ぎ感が出てきたようで、砥泥の出具合も回復し、砥粒が適度に解砕して目潰れも生じなくなりました。
研ぎ味も節度のある感じが出てきましたが、恐らくこちらが本来の状態なのでしょう。
安定感があり、砥面からのフィードバックも良好で、指先にしっかりと刃先の感触が伝わってきます。
砥石は全体的に均質であることが望ましいのですが、この「あらと君」は、密度に若干のバラつきが出やすいようで、わたしの個体も表面直下の密度が幾分高めであるように感じました。
もう少し「内側部分」の充填密度が高めでも良いかなとも思いますが、だからといって酷いとか、悪いといった印象は持ち得ません。
不良粒子、粒子塊の乖離

稀にですが、
大きめの粒子塊がボロっと出ることがあります。
今まで経験したのは一度のみですが、
乖離した粒子が刃先にジャリッと当たった感触があり、「今のは不良粒子が乖離して、刃に当たったのだな」と、指先感覚でわかりました。
(上の画像の『穴』は、比較的中~小程度の剥離であり、実使用に支障が出るようなものではありません)
天然砥石の不良粒子とは異なり、人造砥石の粒径は均質ですので、粒子自体が巨大なわけではなく、ひとまとまりになった塊状の研磨粒子がボロっと表面から剥がれた感じです。
刃先に当たった瞬間に解砕したようで、再度ストロークを返しても、同様の異物感は感じられませず、刃に損傷や傷跡も出ていません(地を引くようなことはありません)
前述の充填密度とも関連する内容ですが、充填密度が低くなりすぎると、溶融ガラス質の結着強度が不十分となることがあるようで、このような粒子塊も出やすくなります。
なお、「あらと君」は淡い色調であるために、粒子塊の脱落痕を裸眼である程度確認することができます。
上の画像の脱落痕は、研いでいて異物感が感じられない程度の、容認できるレベルのものですが、大きな脱落痕が生じた場合は、改めて画像を撮影して掲載したいと思います。
「あらと君」の減り具合
元々の厚みは34mmミリです。購入後2ヶ月経過した時点で計ってみると、31mmまで減っていました。
その後さらに使用した結果、3ヶ月目で28.5mmの厚みとなり、5.5mm分使用したことになります。
(きちんと計ったわけではありませんが、累計で12時間以上は使っていると思います。)
正直言うと、そこそこ研ぎ減ります。
ただ、
荒砥というのは本来そういう傾向のものでもあります。
例えば仕上げ砥石などは、砥粒の目が細かいため、みっちりと隙間なく目の詰まった状態になるものです。
荒砥石は、目が粗い分だけ内部気孔のサイズも大きくなります。中砥石や仕上げ砥石と比較すると、相対的に密度が低くなります。
悪い言い方をすれば、「隙間だらけでスカスカ」なわけですから、それなりに減っても不思議はないのです。
(隙間をマグネシアセメントで埋めているマグネシア系の砥石だと、それなりに密度も上がり、研ぎ減りも少なくなりますが、それはそれで別のデメリットも出てきます)
減りやすい砥石は良くないのか?
砥泥がしっかり出て、それなりに減る砥石を「性能が低い」とネガティブに捉える人も多いですが、個人的には(よほどでない限り)そうは思いません。
減りが極端に少ない砥石は、目詰まりや目潰れが発生しやすいというデメリットに繋がります。
一方で適度に減る砥石は、下から新しい砥粒が常に顔を出した状態で研げますので、目詰りや目潰れとはほぼ無縁です。
砥石が減って中央が凹んでくると、正しく研げないというのも判りますし、面直しの頻度が上がるという主張も理解できますが、
凹まないように研げば良いだけです(少し難しいかもしれませんが…)
硬く締まった砥石は、面直しの頻度も低く済みますが、逆に面直しそのものに時間がかかって大変だったりもします。(実体験です)

上の画像は、3mm擦り減った「あらと君」を横から見たところです。
(商品名のラベルは、箱から剥がれてしまいました)
平面出しを行っていないにも関わらず、外観上は砥石が凹んではおらず、(完全ではありませんが)それなりに平面が出ている状態を維持しています。
個人的には
修正砥石をかけずに、この状態の平面度をそのまま維持しながら、研ぎ進んでいます。
はっきり言ってしまうと、大抵の砥石は1~2分研いでいるだけで中央が凹んできて、それが手指に凹んだ感覚となって伝わってきます。(目視では判りませんが、研ぐと指先に伝わってきます)
5分研ぐ毎に修正砥石をかけ、平面を出しなおす。と、いうのも一つの手段なのですが、そんなことをしていると、なかなか研ぎ進みません。
そこで、包丁を持つ手を変えたり、砥石の向きを変えたりして、
砥石全体が均一に減るように研いでいます。
砥石の端の部分は、どうしても出っ張って残りやすい部分ですが、逆にそこを利用して研いだりもしています。
出っ張った部分を利用することで、砥粒をしっかり食い込ませることができるのです。
軽い力で高い面圧をかけることができるため、包丁の形を修正する長時間作業の時などに、楽できて良いです。
この研ぎ方は、砥石のギリギリの際まで使いますので、少し間違うと、包丁の側面にガリッと研ぎ傷を付けることがあります。そのため、万人におすすめできる研ぎ方ではありません。(はっきり言うと、全くおすすめできません)
ですが、このテクニックを習得できれば、平面出しの手間暇が全くかからず、砥石全体を無駄なく使うことができます。修正砥石も減りませんし、いい事づくしです。
以前は、研いだ後には必ず平面出しを行っていましたが、今はこのように、研ぎながら平面を維持するようになりました。
そのため、研ぎ減りの多少は、個人的にあまり気にならなくなっています。
むしろ、あまりに減らない砥石は、名倉砥石による砥泥出しが不可欠であるため、すぐに研ぎ始められず、面倒で、目が潰れたり目が詰まったりすることも多く、そちらの方がデメリットとして強く感じます。
セラミック砥石の嘘
砥石メーカーが
明かしたくない事実
ちなみに、同番手の荒砥である
刃の黒幕 モス#220番は、(最初は良かったのですが)購入後2年ほど経過してから顕著に固く締まった感触となり、砥泥の出が悪くなると同時に、ほとんど減らなくなりました。
面修正にも時間がかかりすぎるようになり、平面が出たと思ったら、今度は目が潰れていて、
刃のかかりが悪くなる状況で、非常に難儀した覚えがあります。
(刃の黒幕 グリーン#2000番でも、同様の症状を確認しています)
この経緯は、拙著「セラミック砥石の嘘」に詳しく記載しています。
赤裸々暴露系の内容になったため、公開がためらわれる部分もあり、書籍化してみました。
(右に表紙画像を表示しています。出ない場合は広告ブロッカーをOFFにしてみてください)
突っ込みどころはあるものの許容範囲内。総じて扱いやすい
密度に差異があるとか、粒子塊が出るとか、ネガティブなことを書きましたが、個人的にはさほど気にしていません。
巨大な粒子塊があまりにボロボロ出るようであれば、それはもう不良品ですが、そこまでではありません。
目潰れせずにシャリシャリとよく刃にかかり、切削性が落ちないといった基本性能が安定しているので、(砥石ではなく)刃の方に神経を集中させて研ぐことができます。
昔からあるGC系の荒砥に比べると、相対的にお値段がやや高めですので、
もう少し安くて品質が安定していれば言うことがありません。
個人的に重視しているのは、研いでいる時に指によく感覚が伝わってきて、指先感覚で「今の刃の状態がどうなっているのか」が、分かりやすい砥石です。
そういう点には一切言及せずに、切削力(下りの良さ)と平面維持度(硬さ)ばかりを語るのは、片手落ちと言わざるを得ません。
どこの砥石とは言いませんが、研ぎ汁にニュルニュル感が出る製品は、このフィードバック感を阻害するため、あまり好みではありません。
そういう意味では「あらと君」は、それなりにフィードバックをきっちり返してくる、焼成砥石の良い面を持っています。
前述のわずかなネガティブな点を除けば、総じて扱いやすく、ビトリファイド系砥石ということも相まって、個人的に馴染んでいる感覚のまま研ぐことができます。
主張も少なく黒子に徹してくれる感じで、砥石自体にはあまり気に使わずに、刃の方に神経を集中できる砥石という感じです。
どこか性能的に突出した部分もありませんが、砥石というものはそういった
全体的な調和の取れ具合、つまり、
バランスこそが重要なのだと思っています。
メリットはデメリットの裏返しであることが多いものです。どこかに突出した性能を持つ砥石は、裏を返せば、極めてネガティブな点を内包している場合も多いものです。
月寅次郎が使っている砥石
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