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刃の黒幕#1000オレンジ - シャプトン

最終更新日: 作者:月寅次郎

「刃の黒幕#1000番」を、月寅次郎が使ってレビュー

刃の黒幕 #1000 オレンジ

シャプトンの刃の黒幕、1000番(オレンジ)のレビューです

刃の黒幕シリーズは、切削力と平面維持度が共に高い、現代的な砥石です

マグネシア製法の砥石ですので、吸水の必要がなく、使いたいときにすぐ使えるのは良いところです


#1000番のオレンジは、製造メーカーのシャプトンによると…
中砥石ではあるものの、『荒砥が要らない』と言われるほど良く刃が付き、荒・中兼用の砥石として便利
 …とされています

実際に使ってみるとまさにその通りで、荒砥のようにジョリジョリと研ぎおろす感触が指先に伝わってきます
ステンレス包丁とハガネ鍛造の和包丁の両方を研いでみましたが、硬度の出ている鋼材でも難なくおろす研磨力はさすがです

ただ、こだわりユーザーに指摘されるところの「1000番にしては、目が粗い」というのも確かです

このページでは、マニア目線で(他の砥石とも比較しながら)刃の黒幕#1000番のメリットとデメリットを列挙して、どのようなユーザーにおすすめなのかを明らかにしてみましょう

刃の黒幕オレンジ #1000番が、他の中砥石と比較してどれだけ研ぎ目が粗いのか、顕微鏡を用いて以下のページで検証してみました。
荒砥石解析ページの「あらと君 #220番」と比較すると、中砥石としての目の粗さが実感できるというものです。

中砥石で研ぐ - 顕微鏡解析2

荒砥石で研ぐ - 顕微鏡解析1

高い切削力で、効率よく研げる

包丁 カスタム

シャプトン刃の黒幕#1000番(オレンジ)は、中砥石の中では最強クラスの切削力を誇ります
この切削力の高さは、後述の「#1000番にしては目が粗い」というポイントと、トレードオフ(二律背反)の関係にあります

実質的な番手が低く平均粒径が大きければ、切削力が上がるのは当然ですので、シャプトンがこの砥石を#1000番だと称するのは、少々ずるいようにも思います

もちろんこの切削力の高さは、切れの良いWA砥材を使用していることも一因です(WA=ホワイトアランダム)
とはいえ、同様にWA砥材を使用していると思われる剛研輝#1000と比較しても、明らかに目が粗い感触です

このように、刃の黒幕#1000番(オレンジ)の切削力の高さは、切れの良いWA砥粒を背景に、(後述のように)中砥石と言い切れるギリギリまで番手を落とした、粒径の大きな研磨砥材を使用することで、結果的に大きな研磨力を得ています
はっきり言ってしまうと、これはちょっとズルいとも言えるのですが、それでもやはりこの切削力の高さは白眉であるため、高く評価する方が多いのも理解できます

単にカエリを出して小刃付けするだけでも、この研磨力の高さは一助となりますが、刃欠けを修正する、刃を研ぎおろして薄く抜く、刃の形状を修正する、といった修正作業に望む場合には、この研磨力の高さが大きな助けとなり、速く楽に作業を進めることが可能です

また、力の弱い女性の方や、砥石での刃付けに慣れていない初心者の方の場合は、この研磨力の高さが大きな助けとなることでしょう

そういう意味では、砥石で研ぐことに慣れていない初心者と、刃筋の修正までこなしてしまう熟練者まで、幅広くおすすめすることが可能です

刃の黒幕 #1000 オレンジ

平面維持力も高い

刃の黒幕 #1000 オレンジ
(使い込んだ和包丁(源泉正)を研いだ時の様子)

基本的に平面維持力は高めです

このポイントをどれだけ重視するかは、使う人にもよりますし、研ぐ刃物によっても変わります
線で研ぐ洋包丁の場合は、極端に重視する必要はありませんが、面で研ぐ和包丁、鉋(かんな)やノミの場合は、この平面維持度は重視したいところです

ただ、この平面維持度の高さは「研ぎ減りの少なさ」を意味します。「水分量変化に伴う体積変化」とは異なることに気をつけなければいけません

『刃の黒幕』や『剛研輝』に代表されるマグネシア製法の砥石は、「砥石に吸水させる必要がない」とされていますが、全く水分を吸収しないわけではありません

マグネシア砥石が水分を吸収すると、柔らかくなってくると同時に、体積が(わずかながら)膨張します
中心部まではなかなか浸透しませんが、角の部分には水分が行き渡りやすいため、水を含むと角が立ってきます

閑話休題:セラミック砥石について


セラミック砥石を使っている方や、購入を検討されている方は、拙著「セラミック砥石の嘘」をお読み下さい。

セラミック砥石はメリットばかりが声高に強調されていますが、これまであまり語られてこなかったデメリットについて、長期間使用した実体験に基づいて解説しています。

メーカー非公表の、経年劣化を防ぐ使い方や、性能を維持する保管方法なども併載しました。

特に「刃の黒幕」については、近年製造品はカラーリングが薄くなったため、外観からは白化現象の判別が難しくなっていますが、これを見極める独自の方法についても解説しています。

公言が憚られるような赤裸々暴露系の内容になりましたので、ネット上での公開を取りやめ、電子書籍化いたしました。

『#1000番にしては目が粗い』は、本当か?

刃の黒幕 #1000 オレンジ

「刃の黒幕の#1000番は、一般的な#1000番砥石と比べると目が粗い」というのは、本当でしょうか?

結論から言いましょう、本当です。かなり目が粗いと感じます

個人的に所有している中砥石は、キングデラックス#800番剛研 輝#1000番ペンギンデラックス#1000番、そしてこの刃の黒幕#1000番の4本です。
この4本の中では、最も粗い目が付きます

剛研輝#1000番とペンギンデラックス#1000番は、ほぼ同じの粒度で、砥粒を食い込ませ気味に研いだ場合は、研ぎ目の深さもほとんど変わりません
ただ、ペンギンデラックスは砥材の硬度があまり高くないため、切れが良いタイプではありません(むしろ悪い)
そのため、砥泥を出した状態で(意図的に食い込ませずに)ソフトに研げば、剛研輝#1000番よりも滑らかに仕上げることも可能です
キレが今ひとつで、食い込みがほどほどの部分がメリットになりうる点であり、わたしの言うところの『技量次第で、ワイドレンジに研げる』というやつです)

これはキングデラックス#800番も同様の傾向があり、意図的に食い込ませて研げば#800番の研ぎ目が付きますが、砥泥の微粒子をベアリングのように使い、ソフトに研ぎ上げれば、(体感的には)#900番前後の目の状態に仕上げることができます

一方、「刃の黒幕オレンジ」を、体感的感覚で番手付けするとすれば、「#750番前後の粗さ(番手)」と評価したいところです
WA砥粒でキレが良いため、砥泥を活かしてソフトに研いでも、砥石表面を滑ることなくジョリジョリと食い込んでしまい、結構粗めの研ぎ目で仕上がります
中砥石と言えば確かに中砥石なのですが、これ以上ほんの少しでも粗ければ「これはもう、荒砥でしょ?」と言いたくなるレベルです

刃の黒幕 オレンジ #1000番 を見てみよう

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刃の黒幕#1000番で、さまざまな包丁を研いでみた

洋包丁を研ぐ(梅治作牛刀)

刃の黒幕 #1000 オレンジ
上の画像は、梅治作 牛刀を研いでいる時の様子です
梅治作 牛刀のレビューは、こちらのページ)

研いでいると、指先にジョリジョリした感触が伝わってきます。
研げている感じ(砥材が鋼材に食いついて削っている感触)が、分かりやすく伝わってくるので、初心者の方も感覚をつかみやすいと思います

まだ実際に試してはいませんが、このくらいの研磨力があれば、VG10のような耐摩耗性の強い鋼材でも、難なく研げることでしょう
ステンレス刃物鋼は難削性があり、ものによっては滑りやすくてかかりにくく、つるつる滑って研ぎにくいこともありますが、そういった鋼材にも余裕で対応可能です

刃の黒幕 #1000 オレンジ
刃筋を大きめに撮影してみました

この程度の拡大画像では、たいして判りませんが、1000番砥石としては、かなり粗い目が付きます

トマトなどの柔らかい食材を切る場合には、さほど違いは出ず、むしろ目の粗さが「刃がかりの良さ」や、「食いつきの良さ」となってメリット方向に働きますが、
人参のような目の詰まった固い根菜類を切る場合は、小刃面の粗さがヤスリのような働きをし、食材との接触抵抗を増すために、デメリット方向に働きます
滑らかな切り抜け感が出ず、刃の抵抗が重く感じます

ただ、そんな細かいところまで指摘するのは、わたしのような包丁や刃物にこだわる人の場合です
大抵の場合は「簡単に、良く刃が付く」というメリットの方を強く感じることでしょう

1000番にしては目が粗いというのは確かですが、そういう細かい事まで敏感な『砥石にうるさい人』は、仕上げ砥石を何本も持っているのが普通です。そういう人は仕上げ砥石を併用して、1000番オレンジで付いた粗い目を仕上げ砥で細かく整えてやれば良いだけの話です

「やや目が粗い」というのは、「切削力が高くて、良く研げる」という事とのトレードオフと言うことでもありますので、デメリットとしては相殺され、むしろメリットの利点の方を強く感じることと思います

刃の黒幕 #1000 オレンジ
上の画像は、梅治の牛刀を「刃の黒幕#1000番」で刃付けした際の顕微鏡画像です

この顕微鏡画像の倍率だけでは判断しづらいところですが、体感的にはキングデラックスの#800番よりも粗い目に仕上がっています

※『体感的に』というのは、研いだ時の砥粒の食い込み感、研いでいる時のジョリジョリ音、人参を切り抜ける際の抵抗感の3点から、総合的に判断しています

※ 他の砥石を使って研いだ、刃の顕微鏡画像は、こちらのページにまとめています

薄刃包丁(源忠昭・水野鍛錬所)を研ぐ

刃の黒幕 #1000 オレンジ
薄刃包丁(源忠昭・水野鍛錬所)を研いだ後の状態
源忠昭(水野鍛錬所)のレビューは、こちらのページ)

これは薄刃包丁なのですが、親が三徳包丁のように手荒く扱うため、かなり鈍角の片ハマグリに仕上げています(普通に刃付けすると、小さな刃こぼれが無数に生じるためです)

刃の黒幕 #1000 オレンジ
切刃の状態を拡大してみました

軟鉄部分はしっかり曇りますが、砥粒が食い込んだ部分には少しギラつきも出ています
(この後は、キングS-1#6000番で研ぎ目を整え、滑らかな刃に仕立てました)

裏は仕上げ砥石のみで調整しており、刃の黒幕#1000番は敢えて当てていません
刃の黒幕のような切削力の強い砥石で裏を押すのは、意図的に裏の幅を広げたい時だけにしています

関東型薄刃包丁(堺一次)を研ぐ

刃の黒幕 #1000 オレンジ
この包丁は、5寸の関東型薄刃包丁で、馬場刃物製作所の包丁です

現在の銘は「堺一次」に変わっていますが、この包丁は数十年以上前の製品のため、銘が旧バーションとなっており、「登録 一次請合」と刻まれています
一次請合のレビューは、こちらのページ)

刃の黒幕 #1000 オレンジ

この包丁は、経年による反りが出ています
霞の和包丁によく見られる、表側が伸びて裏面が縮むような反り方をしています

ここでは曲げたり叩いたりせず、反って出っ張った部分を研ぎ落とすことで、修正を施しています
(上の画像は、とりあえず刃付けして様子を見た時のもので、ごく普通に切刃を研いで裏も当て、面が当たらない部分と、その度合を検分しているところです

刃の黒幕 #1000 オレンジ
平(ひら)に砥石を当て、出っ張った部分を削って落とし、歪んだ『面』と『線』を出し直します

実はこの前の工程で、刃の黒幕#220番(モス)でも平(ひら)を削ってもいます。こちらは流石に荒砥だけあって、速く・粗く削れました

刃の黒幕 #1000 オレンジ

ジョリジョリと研ぎ抜いて、反っていた平の矯正は8割程度完了しました
もう少しきっちりやって、ピシッとした面を出したいところですが、これ以上やると銘も消えてしまうので、この程度にとどめています

最後は砥泥を活かしてソフトに研ぎ、研ぎ目や研ぎムラを整えました

上の画像でも、切刃先端の鎬筋に近い部分に、全く砥石が当たっていないことが見て取れますが、これは典型的な反りによる歪みの影響です

反ってしまっているので、平面の砥石に当たらないのです
これを無理に矯正しようとすると、無駄に刃筋を研ぎ減らすことになります。ですのでここは、使いながら自然に研ぎ減って、徐々に面が整っていくのを待ちたいと思います

盆栽の成長を眺めるような気の長い楽しみ方ですが、実使用に差し支えがないのであれば、躍起になって面を出すことにこだわる必要はありません

年を経る毎に、徐々に面が整っていく様子を楽しむような使い方があっても良いのではないかと思います

刃の黒幕 #1000 オレンジ
平と切刃の拡大画像です

登録の『録』の文字は、最も出っ張った位置に有ったため、完全に消えてしまいました(残念ですが仕方ありません)
『登』の文字も8割方消失し、「一次」の「一」もかなり薄くなっています
鎬筋布巾の孔食(錆による穴)は、結構残っていますが、これは意図的に鎬筋を上げないように研いだ結果です

入手時の刃は、かなり鈍角に研がれていたため、本刃付けをする心持ちで、主にハガネ側の丸っ刃を研ぎ落とす感じで研ぎ込みました
まだ完全に本刃が付いたわけではなく、いくぶん二段刃も残っている状態ですが、裏の状態との兼ね合いを見ながら、徐々に研ぎ進めていきたいと考えています


なお、画像を見ると分かるように、軟鉄の部分はおおよそ均一に曇った仕上がりとなりました
力を入れてゴリゴリ研ぐと、砥材が深く食い込んでギラ付きが出ますが、丁寧に研ぐとこのような仕上がりにすることも可能です

この時は、2時間近く研いでいたため、砥石の角が吸水して膨らんでしまい、普通に研ぐと角が当たって研ぎムラが盛大に付くため、砥石の上に刃をすべて乗せるようにして、角が当たらないようにして研ぎました(そのため研ぎムラやギラつきがあまり出ていません)

刃の黒幕 #1000 オレンジ
表面の反りを強制した後は、裏面の修正です
裏を押して、反った部分を削り落とします

刃の先端とアゴの部分が手前側に反っているため、ここを削り落として修正します
結果的に裏押しの幅が盛大に広がってしまいますが、致し方ありません
後で削って修正したいところです

刃の黒幕 #1000 オレンジ
裏側の反りの修正がほぼ終わった状態です

刃の先端と、アゴの裏押しが顕著に広がりました(一つ前の画像と見比べるとよく判ります)

かなり反っていたので、致し方ありません
刃渡りが短めの5寸(15cm)だったため、まだ良かったです
刃渡りが短いために、反りの角度に対する出っ張り具合が少なくて済みました

この包丁は、(研いだ感触から推定するに)青紙2号のようですが、刃の黒幕#1000番の研磨力のおかげで、ゾリゾリと研ぎ込むことができました

砥材の硬度が高いため、砥粒のエッジ保持性が良いので、キレが良いです
このように、本来荒砥を使うような、研いで形を変えるような極端な工程でも、効率的に研ぎおろし力で快適に作業が進みます

キングデラックスで同じ事をやろうとする場合は、指先に力を込め、意図的に砥粒を食い込ませながら研ぐ必要がありますが、そのような必要性をあまり感じません
いくぶん軽い押し圧力でも、ゾリゾリとしっかり研げてくれます(はっきり言って楽です)

キングデラックスにも、下記のようなさまざまなメリットがあり、理解して使う分には良い砥石ですが、刃の黒幕#1000番を一度使ってしまうと、軽い力でも良くおろす(研げる)ので、ついついこちらを使いたくなってしまいます

キングデラックスのメリット

1.水を含みきった時と乾燥時で、平面度が全く変化しないこと
2.研磨力がマイルドなので、(技を使えば)ワイドレンジに研ぐことが可能
3.斜めに置きっぱなしでも反らない安定度
3.価格が安い

刃の黒幕 #1000 オレンジ
こちらは、この砥石を入手した直後に撮影した側面の画像です

見て分かる通り、一見ヒビ割れのようにも見える線状の模様が付いています
この模様は側面全周に渡って見られます

爪で当たってみましたが、ヒビのような凹みは感じられません。
どうやら製造時に付着した、この砥石特有の残留汚れのようです

念の為、製造元のシャプトンに確認を取りましたが、
『製造工程の過程で生じたものであり、(個体差はあるものの)品質に問題は無い』とのことでした

というわけで、不具合や不良ではありません

ただ、見た目的に良いものではありませんので、研磨して落とす予定です
ちなみに、刃の黒幕2000番の方は、(下の画像のように)この汚れをきれいに落としています

刃の黒幕 #2000

刃の黒幕 #1000 オレンジ
使い込んだ源泉正(鎌形薄刃包丁)を研いでいる様子


砥石 月寅次郎が使っている砥石

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