中砥石で研ぐ - 顕微鏡解析2
砥石の違いを検証するべく、刃物を実際に研いで、顕微鏡で観察しようという企画です(中砥石編)
本来は和包丁を使いたかったのですが、鍛造刃物の代用として
比不倉鉋の刃を使用しました。
(切刃面積が小さく、短時間で研ぎ上がるため)
企画趣旨や刃物の詳細、検証ポイント等については、
企画・テストの趣旨、条件をご覧ください
(このページでは割愛します)
この中砥石編では、800~1500番の範囲を対象とし、3本の砥石をテストします。
それではまず、研ぎ上がりの刃の状態から見ていきましょう。
刃の仕上がり・研ぎ目
刃の黒幕 オレンジ #1000番
刃の黒幕 オレンジ#1000番の研ぎ目です。
かなりビシビシと研ぎ目が入っています。1000番の中砥石としては明らかに粗いです。
この砥石は、メーカー公称で「#1000番」として販売されていますが、刃に付く研ぎ目は1000番とは言いづらいです。
感覚的な話になりますが、中砥石と荒砥石のちょうど境目あたりの番手です。個人的には600~700番付近と評したいところです(少なくとも800番よりは確実に下です)
ハガネと軟鉄の双方に深い研ぎ傷が入っており、和の刃物としてこのまま使うのには忍びない印象を受けます。
もう少し番手を上げ、滑らかな切刃に仕上げたい衝動に駆られます。
目が粗い分だけ切削力は高めです。これをメリットと捉えることもできますが、(普段の研ぎでは)ここまでの目の粗さが必要ない方も多々おられるでしょう
上手に使えば利用価値の高い砥石です。
剛研輝 #1000番
剛研輝 #1000番の研ぎ目です。
刃の黒幕オレンジと比較すると明らかに目が細かいです(1000番中砥石としては普通と言って良いでしょう)
ハガネの部分には、いい具合に深みのある表情が出ています
なかなかいい感じですね。このまま使うのも悪くないですし、仕上砥につなげる場合でも、(ここまで目が細かければ)高い番手に合わせやすいです。
刃の黒幕オレンジと同様に、切削力が高く切れの良いWA砥粒を採用しているため、光の角度によってはギラ付き感も出るのですが、1000番のマグネシア砥石ですので致し方ありません。
この番手で積極的に曇らせたい場合は焼成法の砥石を使うのがベストです
キングデラックス #800番
キングデラックス #800番の研ぎ目です。
艶消しのマットな感じに仕上がりました。
地金がいい具合に曇っており、ギラつき感が抑えられています。
ハガネ部分がより美しく輝けば全体的にも引き立つのですが、800番の砥石にそこまで求めるのは酷というものです。
この砥石は焼成法(焼結型)の砥石ですが、実に焼結砥石らしい仕上がりです。
使用されているのは標準的なA砥粒(アランダム)であり、WAでもPAでもありませんが、比較的靭性が高いため、砥粒の解砕が抑えられ、角が立ちにくくソフトな当たりとなるのがポイントです
これを、切れが今一つだとデメリットに捉える人も多いですが、深い研ぎ傷が入りにくいため、番手以上の目の細かさに仕上げる事もでき、ワイドレンジに研ぐことができると積極的に評価することもできます。
どう捉えるかは使い手次第ですが、焼成タイプは玄人受けする砥石でもあり、安定して扱いやすい砥石でもあります。
性能がどれだけ引き出せるか、使い手の技量次第で違いの出やすい砥石とも言えます
顕微鏡で解析
それでは、顕微鏡で撮影した画像を見てみましょう。
刃の黒幕 オレンジ #1000番
『刃の黒幕 オレンジ #1000番』で研いだ刃物の、顕微鏡画像です。
中砥石と言うには研ぎ目が深く、溝幅も明らかに広いです。
研ぎ溝をよく見ると判りますが、溝の角が白く反射しているその奥で、光が届かずに黒くなっている部分があります。
研ぎ目の溝幅が太く、深さもあるという証拠です。
好意的に捉えると切削力が高いと言うこともできますが、番手を上げて仕上げ砥石に繋げる場合は、間に『中仕上げ砥石』を挟みたくなる仕上がりです。
また、ここまで研ぎ目が粗いと、固い根菜類を切る場合に抵抗が顕著に出て、滑らかな切れ感が感じられません。
(柔らかい食材を切る場合にはそれほど差は出ませんが、目の詰まった人参などでは顕著に感じられます。実際に切って試した実感です)
剛研輝 #1000番
『剛研輝 #1000番』で研いだ刃物の、顕微鏡画像です。
均一な細い研ぎ目が、一面に入っています。
キレの良いWA(ホワイトアランダム)砥粒ならではの、鋭角な筋目ですが、1000番らしい目の細かさになっています。
キングデラックス #800番
『キングデラックス #800番』で研いだ刃物の、顕微鏡画像です。
キングハイパー
#1000番
剛研輝#1000番とは対象的に、焼結型砥石らしくギラ付きのない、曇った感じに仕上がっています。
もちろん、800番なりの研ぎ目はついているのですが、研ぎ溝の角が鋭角に立っていないため、結果的に光が散乱してマットな質感が得られています。
この刃の場合は、切刃面積が小さいため、砥泥がしっかり出る前に研ぎ上がってしまいましたが、潤沢に砥泥を出してソフトに刃を当てればさらにこの傾向は顕著となります。
焼成法で作った砥石の面白いところです。
砥石表面 顕微鏡画像
砥石の表面を顕微鏡で撮影した画像です。
表面の質感と凹凸(粗さ)を観察することができます。
中砥石の砥粒は、(撮影技術にもよりますが)この解像度でも充分観測可能です
砥粒の大きさや、角の立ち具合、表面粗さの違いがポイントです。
刃の黒幕 オレンジ #1000番
『刃の黒幕 オレンジ #1000番』砥石表面の、顕微鏡画像です。
中砥石としては、粒径サイズがかなり大きめです。
参考までに600番の電着ダイヤモンド砥石と比較してみましょう。
こちらが同倍率で撮影した、
電着ダイヤモンド砥石(#600番)の表面画像です。
刃の黒幕はマグネシア砥石のため、砥粒がセメント材の中に埋まっており、頂上だけが氷山の一角のように突き出ている形です。
そのため、砥粒の全景が完全には判りませんが、これをみる限りでは600番ダイヤモンド砥石の方が、粒径が小さいように感じられます。
剛研輝 #1000番
『剛研輝 #1000番』砥石表面の、顕微鏡画像です。
1000番らしい目の粗さであり、砥粒サイズも均一で、よく揃っています。(極端に大きな砥粒が見当たりません)
キングデラックス #800番
『キングデラックス #800番』砥石表面の、顕微鏡画像です。
これはこれで確かに800番という目の粗さです。
焼成法の砥石だけあって、ところどころに砥粒が剥がれて生じた穴ぼこが見て取れます。
こちらは同じキングデラックス#800番ですが、砥石表面に水を張り、砥粒の状態をわかりやすくして撮影してみました。
砥粒の間に隙間(空間)のある、焼結型砥石特有の質感が良く出ています。
刃の黒幕に代表されるマグネシア砥石は、基本的に砥粒の隙間にセメント状の物質が埋まっているため、同じように撮影しても、何が何だかよく判らないぼやっとした画像しか得られません。
こちらは表面から剥がれた砥粒と、砥粒が抜けて生じた穴の様子がよくわかる画像です。
修正砥石で削った際、強く当たって削り傷が付き、溝状に掘れた部分の画像。
剛研玄人
#1000番
砥石表面の顕微鏡画像ですが、粒子の凹凸が判りやすいように撮影しています
(かなり試行錯誤しました)
ただ単に顕微鏡を当てて撮影しただけでは、凹凸が判らないのっぺりした絵面しが映らない場合もあります
砥石の結合剤の違いや、粒度・番手にも影響されます
包丁研ぎと同じで何度も何度も繰り返し撮影すると、砥石表面の粒子状テクスチャーが判るような、安定したきれいな画像が撮影できるようになったりもします
中砥石(今回のテスト対象)
今回テストした中砥石は、以下の3本です。
このページでは、顕微鏡観察によって、どの程度の研ぎ目が付くのか、表示番手と実際の研ぎ目の差異を検証しました。
砥石の使用感などのインプレは、長くなるので割愛していますが、ご覧になりたい方は、下の画像(もしくは上のテキストリンク)をタップして、「
月寅次郎が使ってレビュー」のページでご閲覧ください。
なお、
実売価格はページ右下の
商品画像下に表示されるようにしていますので、そちらでご確認ください。
(広告ブロッカーをONにしていると、価格も画像も表示されません。広告ブロッカーをOFFにしてお楽しみください)
刃の黒幕 オレンジ
刃の黒幕 オレンジ
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会社:シャプトン
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結合:マグネシアセメント
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粒度:#1000番(公称)
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砥材:WA(ホワイトアランダム)
剛研輝(かがやき)
剛研輝(かがやき)
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会社:ナニワ研磨工業
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結合:マグネシアセメント
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粒度:#1000番
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砥材:WA(ホワイトアランダム)
キングデラックス
キングデラックス
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会社:松永トイシ(キング)
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結合:ビトリファイド(焼結型)
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粒度:#800番
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砥材:A(褐色アルミナ)
撮影に使用した顕微鏡
DEPSTECH
WF036 顕微鏡
スマホ/PC対応
2K解像度 WiFi
撮影に使用したポータブル顕微鏡
『DEPSTECH WF036』
撮影時はスマホとWi-Fi接続し、スマホ側のアプリを操作して撮影しています
ピントと光量は本体側で調整
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