オフィスチェア(OAチェア)のガスシリンダーを交換しました。
交換作業にあたり、ネット上のページに一通り目を通しましたが、どれも基本的な整備経験に乏しい方が作業したと思われるものが多く、「
そもそものやり方が間違っている」と感じるものばかりでした。
おそらく、
圧入されたパーツを外した経験がないのでしょう(それが普通だと思います)
このページでは、整備や分解修理に詳しい人が、オフィスチェアのDIYガスシリンダー交換について解説します。
ちなみに、わたしのDIYスキルは、このくらい です。包丁のカスタムも多数やっています。
※ DIYのトップページ はこちらです。
追記:下手ですが、イラストを描いて図で判るようにしてみました(実際の作業画像も多々掲載しています)
※ ゲーミングチェアも構造的には変わりませんので、基本的に同じ手順で作業可能です。
※ お目汚し失礼いたします
当サイトのコンテンツは、筆者が長年に渡り蓄積した知識と経験を元に、かなりの時間と労力をかけて執筆されています。
まとめサイトや、こたつ記事への転用はもちろんですが、無断転載等を禁止します。
また、YouTuberの皆さんにも釘を刺しておきますが、当サイトのコンテンツを換骨脱胎し、あたかも自分の知見のように語るのは止めてください。
著者プロフィールの下の方にも書いていますが、パクリに対しては、積極的に実費請求や警告を行っています。
悪質な業者に対しては(著作権侵害の事例ではありませんが)通産省や行政機関に協力を依頼し、新聞記事に掲載した事例もあります。
なお、当サイトの説明には、一部筆者が作成した用語が含まれています。
これは、説明をわかりやすくするための措置ですが、公式にはそのような呼称は用いられていないものも多々あります。
(ですので、パクるとまるわかりです)
ガスシリンダー交換の概要
素人さんがやりがちな「ダメパターン」
ko-ken
ソケットハンドル
ネット上の「ガスシリンダー交換」の解説では…
「椅子の脚が傷つかないよう、
『当板』をして叩く」とか、
「金属ハンマーだと傷が付くので、
ゴムハンマーを使う」など、
それだと、逆に外れない方法ばかりが書かれています。
まともな整備経験が有る人は、決してそのような方法は取りません。
仕組みや構造を理解せず、頭より先に手を動かしがちな人が陥りがちな間違いです。
どうして椅子の方を叩こうとするのでしょうか?
椅子は痛むし、なんと言っても、取り外す方向に真っ直ぐ力が伝わりません。
まずは、下の解説イラストをご覧ください。
叩き出し 重要3原則
上のイラストは、
圧入パーツ「叩き出しの3原則」です。
厳密に言うと、オフィスチェアのガスシリンダーは圧入されてはいません。テーパーで嵌っているだけなので、割と簡単に外れる部類です。
Ko-ken Z-EAL
エクステンションバー
SK11
コンビハンマー
1.真っ直ぐ叩く
これは最も重要です。
椅子の脚を叩いて外そうとすると、真っ直ぐに力が加わらず、斜めに力が伝わってしまいます。
力を斜めに加えて外そうというのは、そもそも無理があります。
苦労して当然です。1時間ぐらいかかったとしても、無理はありません。
2.衝撃を与える
これは、基本です。
金属製ハンマー、金槌や玄能など、叩いた時にインパクトが伝わるような、硬い道具を使用することが重要です。
衝撃を与えて固着を緩めて外すわけですから、この場合は
プラスチックハンマーやゴムハンマーは使用しません(完全に非推奨です)
プラハンやゴムハン、当板などを使用すると、ガツンとした衝撃が伝わりませんので、「極めて非効率的な作業」となります。
「金属ハンマーでは、椅子が傷ついてしまうのでは?」と心配する必要はありません。
なぜなら、椅子を叩くのでなく、交換パーツの方を叩くからです。
3.外すパーツの方を叩く
椅子を叩くことは推奨できません。
このような「叩き出し作業」では、交換するパーツの方を叩くのがセオリーです。
これから交換する使用済みのガスシリンダーであれば、叩いて傷が入っても困ることはありませんが、椅子側を叩いて、「受け側」を歪ませてしまうと、椅子そのものを廃棄するしかなくなります。
廃棄するパーツ側を叩くので、傷が入らないように配慮する必要もありません。金属製ハンマーで直接叩き込めます。
テーパーで嵌っているだけなので、真っ直ぐ叩けば、軽い衝撃で簡単に外れます(力任せに叩き出す必要はありません。コツンと叩いて固着を緩めるだけで良いのです)
それでは、
ガスシリンダーを真っ直ぐ叩いて外すためには、どのような準備作業が必要となるのでしょうか?
下の解説イラストを見てください。
叩き出しの準備作業
ガスシリンダー
高脚部用
G2036
ガスシリンダーをまっすぐ叩き出すためには…
1.座面と背もたれを「座面ベース」から外す
2.「アウターシリンダー」と「インナーシリンダー」を分離させる
…という事前作業が必要になります。
少々面倒に思えるかもしれませんが、DIYは、そもそも面倒で手がかかるものです。
この作業が難しいようでしたら、最初からメーカーに修理に出すか、OAチェアを新しく買い直す方が無難です。
実際の作業の様子は…
●
イトーキ・スピーナ(OAチェア)の分解 のページで、
「アウターシリンダー」と「インナーシリンダー」の分離については
●
OAチェアガスシリンダーの分解(アウターシリンダーからインナーシリンダーを分離) のページで解説しています(そちらでご覧ください)
このページは、大まかな概要と作業フローを紹介するに留めています。
また、「浸透潤滑剤」の使用については、7ページ目の
整備上級者が教える小技のページで言及しています。合わせてお読みください。
(圧入部の固着を緩めるための作業として有効です)
ガスシリンダーの叩き出し
TONE
コンビハンマー
事前の分解作業が終わったら、後は叩き出すだけです。
叩き出しの際、足の甲の上にシリンダーが落ちると怪我をします(気をつけましょう)
叩き出し自体は難しくありません(むしろ簡単です)
大きなハンマーを使わなくても、金槌や玄能などの小さな金属製ハンマーで充分です。
コンビハンマーの金属側でも構いません(わたしもこれで叩き出しました)
※ 「コンビハンマー」というのは、左上の画像の商品です。実売価格が表示されない場合は、広告ブロッカーをOFFにしてご覧ください
片側が金属、もう一方が樹脂となっている多用途ハンマーです。正式には「コンビネーションハンマー」です。
わたしの場合は、実際に10回前後軽く叩いただけで、あっけなく外れました。
叩き出しにかかった作業は、
時間にして1分もかかっていません。
具体的な叩き出し作業の手順(詳細)は、以下のページに記録してあります(参考にしてください)
●
アウターシリンダーの叩き出し
●
インナーシリンダーの叩き出し
●
インナーシリンダーの取り外し(裏技編)
叩き出し作業用ハンマー 買うならこちら
● コンビネーションハンマー (amazonで検索)
● コンビネーションハンマー (楽天で安い順に検索)
※ コンビネーションハンマーは、片側が金属ハンマー、反対側がプラスチックハンマーになっており、多用途に使えます(なんでも一本で済ませる場合はこちら)
● 両口ハンマー (amazonで検索)
● 両口ハンマー (楽天で検索)
※ 両口ハンマーは、両面が金属です。
コンビタイプよりも重量があるため、高い叩き出しの力が必要な場合に有効です。
ガスシリンダーの選び方
AKRacing
ガス式昇降
シリンダー
長尺タイプ
ネット上の他の解説ページには、「
アウター外径50mm/インナー外径28mmで、サイズが同じだからこのガスシリンダーを選んだ」と書かれているものが多いです。
しかしながら、この
外径サイズは、適合の可否には無関係です。
上のイラストを見ると判ると思いますが、
シリンダー外径の太さは椅子の脚に嵌るかどうかには関係ありません。
嵌っているのは、テーパー(絞り込み)の部分ですので、外径ではなく、テーパーの角度が重要です(角度が違うとガタが出て、ぴったり嵌まりません)
というよりそもそも、オフィスチェア用のガスシリンダーは、外径が50mm/28mmサイズの統一規格となっており、どれも基本的に同じなのです。
ちなみに、テーパー部の角度についても規格があり、こちらは「14-7テーパー」という角度に統一されています。
そのため、「テーパーの角度が合わずに嵌まらない」ということも、まず起こりません。
それでは、どの部分のサイズが重要となるのでしょうか?
答えは、下のリンク先ページにて解説しています。
(解説すると長くなるので、別ページにしています)
●
OAチェア ガスシリンダーの選び方(外径サイズよりも座面高)
ガスシリンダー 買うならこちら
新しいガスシリンダーの取り付け
シマノ
プレミアムグリス
100g
古いガスシリンダーの叩き出しが無事完了したら、
後は新しいシリンダーを組み付ければ完成です。
ここまでくれば、難しいことは何もありません。
新しいガスシリンダーは(サイズさえ合っていれば)、真っ直ぐ挿入するだけで嵌ります。
お互いがテーパー形状になっているため、叩き込んで圧入する必要がないのです。
最後に、座面と背もたれを組み付ければ完成です。
具体的な作業手順、組み付け時の注意事項は、以下のページにまとめておきましたのでご覧ください。
次回のガスシリンダー交換まで視野に入れる場合は、必ずグリスを塗布して組付け作業を行いましょう(理由は以下のページで解説しています)
●
ガスシリンダー取付時の注意事項
●
OAチェアのガスシリンダー交換(整備上級者が教える小技)
グリス・浸透潤滑剤 買うならこちら
月寅次郎の本(著作)
※ 月寅次郎がこっそり明かす、包丁と刃物の裏話。 大人の事情で『核心部分』は書籍版のみの公開です。当サイトの内容が本になりました!
このページを読んで
役に立ったと思ったら、
投げ銭代わりに上の本でも買ってやって下さい。
サイト内にamazon広告が貼ってありますが、広告経由で買い物して頂けると助かります。
当サイトには、レンタルサーバー費やドメイン管理料などのコストがかかっており、書籍の売上金はそれらの費用に充当されます。(ワタシの執筆料は0円でタダ働きです)
作業対象のオフィスチェア
イトーキ Spina
スピーナチェア
今回作業対象となったオフィスチェア、
イトーキ「Spina」(スピーナ)です。
わたしが実際に使っている椅子で、今回の作業対象です。
購入からすでに10年以上が経過しており、一日あたりの着座時間も長めのため、総使用時間はかなりの長さになっています。かなり酷使していると言っても過言ではないでしょう。
しかしそこは高級チェア、コストのかかった贅沢な造りは流石です。
座面スポンジのヘタりなどは感じられますが、
フレームがたわんだり、ギシギシ音が出るようなこともなく、ビシッとした座り心地は購入直後から変わりません。
ハーマンミラー
アーロンチェア
ポリッシュ
上の画像は、
スピーナのメインフレームです。
2本の角のように伸びている、銀色の部品がそれですが、
極太のアルミダイキャスト(鋳造)でできています。
イトーキ「Spina」は、10万円オーバーの高級チェアなのですが、高いだけの事はあって、パーツにコストがかかっている事が判ります。
※ 20万円クラスのアーロンチェアやコンテッサは、さらに高額な椅子ですが、これは外装やフレームのポリッシュ仕上げにコストが上乗せされているためであり、外観にお金のかかった椅子と言えるでしょう。(ネガティブな見方をするとコスパが劣悪です)
本質的な椅子の機能という観点から見ると、10万円クラスを超えると、それ以上はさして変わりはありません(個人的な好みの問題になります)
(左上の画像の商品です。実売価格が表示されない場合は広告ブロッカーをOFFにしてご覧ください)
背もたれを支えるロッキングスプリングも、極太のものが2本も使われており、
主要パーツにはふんだんにコストがかけられていることが判ります。
この「スピーナ」は、2008年の北海道洞爺湖サミットで各国首脳が着席する椅子として採用されたことで有名になりました。
ちなみに2016年の伊勢志摩サミットでは、同じくイトーキのフリップフラップチェアが採用されています。
発売されてから年数は経過していますが、
本当に優れた製品は、時代の移り変わりに流されることがありません。
実際にわたしも10年以上使用していますが、未だに申し分ない座り心地を保っています。
この分だと、あと数十年は余裕で持ちそうな勢いです。
オフィスチェアとしては、高級な部類に属しますが、腰のサポートもしっかりしており、実に優秀な椅子です。
イトーキ Spina 買うならこちら
●
DIYのページに戻る