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本来『ダマスカス鋼』とは、何を指すのか?

最終更新日: 作者:月寅次郎

ダマスカス包丁

本来『ダマスカス鋼』とは、何を指すのか?

本来ダマスカス鋼とは、古代インドで製造されたウーツ鋼の別称です。

インドで製鉄されていたにもかかわらず、「ダマスカス」と呼ばれているのは、この鋼材が、主にシリアのダマスカスで鍛造され、刀剣等に仕立てられたことに由来します。
要は、鋼材を造った場所ではなく、その鋼材を使って刀剣に仕立てた地名が、鋼材名として定着したというわけです。

ダマスカス鋼で作った刀剣は、独特の模様が刃面に浮かび上がり、非常に特徴的な外観をしていました。
(これらの模様は、鋳造時に鉄に混ざった不純物が、均一に分散しない状態で、そのまま固まったことが原因だと推定されています)

ナイフ製作用
ダマスカス
ブランクブレード

現代において「ダマスカス包丁」、もしくは「ダマスカスナイフ」として販売されているのは、このダマスカス鋼を再現したものではなく、外観をダマスカス風に似せて作ったものです。

古代ダマスカス鋼の模様は、製鋼時の結晶作用に起因するものですが、現在ダマスカスと称している鋼材は、異なる2種類の鋼材を積層することで、等高線状の層構造を造り、表面処理で模様を浮き立たせているだけにすぎません。

つまり、現在販売されているダマスカス包丁は、本来のダマスカス鋼を使用した刀剣とは全く異なったものであり、外観を似せたものでしかありません。

言ってみれば、『外見をダマスカス風に仕立てた、見せかけの包丁』です

ダマスカス包丁

鍛造刃物の刃文は機能美だが、ダマスカス模様はただの見せかけ

ナイフ製作用
ブランク材
青紙2号ダマスカス

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切り出し小刀
ダマスカス
多層鋼

和包丁や日本刀なども、刃の表面に波打つ模様があり、特徴的な外観を見せています。

霞焼きの和包丁に見られる刃文は、炭素鋼と軟鉄を鍛接した際の合わせ面が、刃の表面に露出したものです。
また、本焼きの和包丁と日本刀の場合は、刀身に土を盛ることで、焼入れ時の熱の伝わり方をコントロールし、硬度差を生じさせることで、結果的に刃文が生じています(※4)

刃物は、硬くすればするほど折れやすくなるという二律背反を抱えていますが、これらの刃文は、硬さと粘りを両立させることで、切れ味が良くて折れにくい刃物を作るための機能美と言えるものです。

西洋の刃物ではあまり見られないこれらの模様は、日本古来の伝統的打刃物の特徴です。
言ってみれば、刃文は、切れ味鋭い日本の刃物の象徴ともいえるものでした。

一方ダマスカス包丁の模様は、これらの伝統打刃物の刃文とは大きく異なり、機能のために生じた模様ではありません。

ありていに言ってしまうと、模様のための模様であり、つまり装飾でしかありません

※4
硬度が異なることにより、研磨後の表面平滑度に違いが現れます。

比較的硬度の低い部分は研磨粒子が深く食い込みますが、硬い部分にはあまり食い込みません。
この違いが表面平滑度の違いとなり、光の乱反射の差異となって、刃文を生み出しています。

和包丁
上の画像は「堺一次 薄刃包丁」(馬場刃物製作所)

関東型薄刃包丁(5寸)
柄の材質:桜(推定)
鋼材:青紙2号(推定)
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どうやってダマスカス模様を出しているのか?

ナイフ製作用
ブランク材
ダマスカス鋼


鋼材メーカーでは、二種類の鋼材を幾重にも積み重ね、圧延接合して一体化し、多層構造の積層鋼を作ります。

この状態で積層自体は完成しているのですが、積層面が露出するように切削研磨しても、模様が際立つまでには至りません。

金属は基本的に銀白色ですので、組成が少し異なるくらいでは、反射率に若干の違いが出る程度で、色の違いがほとんど判りません。

そのため、酸洗処理サンドブラストを施して、模様を浮かび上がらせています。

酸蝕法

酸蝕法は、鋼材の耐蝕性の違いを利用した方法です。

酸性の液体に積層鋼材を浸し、意図的に表面層を薄く腐食させることで、色の違いを引き立たせています。

腐食しづらい鋼材の方は白っぽい色のままですが、そうでない方の鋼材の方は、黒色酸化被膜が形成されますので、色のコントラストが引き立ちます。

この酸蝕法は、後述のブラスト処理よりも高いコントラストが出るため、製品表面を派手に演出することができますが、あくまでも薄い酸化皮膜によって光の反射率に違いを出し、色の違いとして見せているだけに過ぎません。

そのため、表面がこすれたり、硬いものに当たったりすると、容易に被膜に傷がついてしまいます。
耐久性で比較すると、後述のブラスト法の方が分があります。

酸蝕法は、どちらかというと包丁よりも、コレクション目的のナイフに多用される方法です。

車やバイクに詳しい方であれば、鮮やかなカラーリングのアルマイト加工ボルトや、レインボーカラーに彩られたチタン製マフラーを目にしたことがあるかと思いますが、あれと同様の原理の表面処理になります。

ダマスカス包丁とは異なりますが、スミカマの「霞KASUMI チタンコーディング包丁」も、チタンの酸化皮膜によってブルーやゴールドの色を出しています。

これも同様に酸化処理皮膜ですので、側面に砥石を当ててしまうと、コーティングが剥げ、「ただの包丁」になりかねません(気をつけましょう)

スミカマ「霞KASUMI チタンコーディング」

ブラスト法

ブラスト法は、鋼材の硬さの違いを利用し、表面平滑度の差で模様を出す方法です。

『ブラスト』というのは、ガラスビーズなどの硬く小さな粒子を、空気圧を利用して高速で鋼材に衝突させ、素材表面を薄く削る処理です。
(砂を利用する場合は「サンドブラスト」です。車のレストアなど、パーツ表面の腐食を落とす目的にもよく使用されます)

ブラストをかけると、硬めの鋼材はさほど削れませんが、相対的に柔らかい鋼材の方は、微粒子が衝突した跡が微細な窪みとなって残り、表面がザラザラの梨地になります。

ブラスト法は、この表面平滑度の違いによって、ダマスカス積層模様を浮き立たたせる処理です。

そのため、表面を研磨して平滑度を一様にしたり、研ぐ際に砥石が当たって研ぎ傷が付いたりすると、ブラスト処理の跡が判らなくなり、模様が目立たなくなります。

目玉模様と、うねり模様

単に鋼材を積層しただけでは単純な縞模様にしかなりません

ですので、より魅力的な模様にするために…、

【 お知らせ 】

この項目は、「ダマスカス包丁の真実」の書籍化にともない、非公開としています。

全文は拙著「ダマスカス包丁の真実」にてお読み下さい。

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