「オピネルのオイル漬け」は、国内のみの限定流行、その理由
「オイル漬け」のような、誤ったメンテナンス方法が流布されているのは、日本国内だけです。これは、
"OPINEL OIL"で英語検索をかけてみると、よくわかります
「海外が正しい」とは申しませんが、これには大笑いです
なぜこんな誤った手入れの方法が、国内限定で広まってしまったのでしょうか?
理由1:アウトドア系総合情報サイトが、こぞって拡散した
オピネル
エクスプローラー
語弊を恐れずにはっきり言ってしまうと、それは、
アクセス数を稼ぐことしか考えていないアウトドア系総合情報サイトが原因です
お騒がせ系のYouTuberや、ツイッターで炎上してしまう人など、バカなことをやらかしてしまう人は、世の中に一定数必ず存在します
通常であれば、それらに対し「
こういう事は、やってはいけません」と、その分野で影響力のあるメディアが警鐘を鳴らすのですが、こと「
オピネルのオイル漬け」に関しては、そのような修正力が全く働かず、むしろ前述の大手サイトが、安易なSNSの引用や転載記事を乱発し、ガセネタ拡散の片棒を担いでしまいました
本来は「ガセネタ」に対して警鐘を鳴らす立場の大手サイトが、こともあろうか、逆に拡散してしまったのです どことは言いませんが、CampHackや、YamaHack、暮らし~の…あたりが有名ですね(他にも多数ありますが)
昨今のインターネット事情は、「
いかがでしょうか?」で末尾を締める、〇ソコンテンツが蔓延していますが、先にあげたアウトドア系総合情報サイトも、そのレベルに落ちているありさまです
低コストでアクセス数を稼ごうと、アウトドア経験の少ない三文ライターに記事を書かせ、不正確でいいかげんな情報を乱発しています(実際のところ、パクリと転載だらけとの記事もあり、あまりに酷いです。いわゆる「
コタツ記事」というやつです)
ナイフに関する充分な知識があり、長年オピネルを使ってきた、アウトドア経験の豊富な方であれば、
オイル漬けは、効果が疑わしいどころか、トラブルを誘発しかねないことは、容易に気づくはずなのですが、そのような人材が社内にいないのでしょう。
嘆かわしいことこの上ありません
理由2:国内のナイフ文化が未熟で、受け手側のリテラシーが低い
オピネル
アウトドア
海外に比べると、日本国内ではナイフ文化があまり醸成されておらず、「ナイフは一部のマニアが楽しむ趣味性の高いもの」という認識が一般的です
そのため、大手サイトが掲載した「
オピネル買ったら、オイル漬けは必須の儀式!」という記事を、
疑問に感じずに、そのまま鵜呑みにして実際に試してしまう人が、あまりにも多かった …というのも原因の一つです
結果として「
オピネルを買ったので、さっそくオイル漬けをやってみた」的なブログ記事が多数アップされることとなり、それを見た人が真似をして、ツイッターやブログに掲げるという「
ガセの拡散ループ」ができ上ってしまいました
「これはおかしい」と感じる人が一定の割合で存在すれば、このようなループはすぐに収束するものですが、その割合が非常に低かったのでしょう
結果として、「オピネルのオイル漬け」は、(国内では)そこそこ流行ってしまいました
ナイフ文化に対する親しみの薄さや、修理やメンテナンスをあまりやらない、日本人のDIY精神の低さが、このガセネタの流布に寄与してしまったと言っても過言ではないでしょう
理由3:英語で検索しない、日本語しかできない
オピネル
DIY
ほとんどの日本人は、日本語でしか検索しません。これが三つ目の理由です
今回の件は、
検索対象を英語に設定して"opinel oil" でググれば、「どこかおかしい」という考えに至るはずです
なにしろ、摺動部をオイルで潤滑する情報はヒットしても、「オイルに漬ける」という情報は、ほとんど出てこないからです
わたしが調査した際は、「ロシア人YouTuberが、オピネルをオイルで煮る様子」という情報がヒットしましたが、逆に言うとその1件しか見当たりませんでした
こうなると当然、「オイル漬けは、本当に有効なのか?」という思いが湧き、オイル漬けを思いとどまるはずなのです
「海外では、誰もオイルに漬けていない」という事実に到達できていれば、オイル漬けがここまで広まることはなかったのですが、そこにたどり着いた人の数があまりに少なかったのです
このように、外国語に疎いという日本人の特性が、「情報の蛸壺化」に拍車をかけました
これが、国内のみでオイル漬けが流行ってしまった、三つ目の理由です
やっているのは、アウトドア経験やナイフ歴の浅いブロガーのみ
ビクトリノックス
アウトドア
クッキングナイフ
そもそも油漬けをやっているのは、ほとんどが
「ナイフの初心者」です
作業対象として紹介されているオピネルも、買ったばかりのピカピカのものばかりで、わたしのように
旧タイプのオピネルを使っているような、年季の入ったオピネルユーザーではありません
つまりオイル漬けを紹介している方々は、さまざまなナイフを使いこなしてきたアウトドア愛好家ではなく、
生半可な知識で、アクセス目的のコピー記事を書き散らかしているだけなのです
乾性油の自然発火防止措置についても、何ら言及のないページも多く、実にいい加減です
オピネルユーザーなら必ず習得すべき手法である、
「刃が出ない時の対処法」についても、全く記載がないサイトが多く、
「そもそも正しい使用法を知らないので、安易な油漬けに走っている」としか思えません
さらにはどのサイトも、判で押したように、
「オイル漬けと黒錆処理」ばかりで、「人がやっているのを真似してるだけ」でしかありません
わたしも実際にオピネルを2本所有していますが、オイル漬けをするつもりもありませんし、必要性も感じません(使い方次第です)
(ちなみに、カーボンスチールのものを90年代初頭から、ステンレスのフィレナイフは2008年頃から使用していますので、オピネル歴はそこそこ長い方だと思います)
わたしのアウトドア歴は、たいしたものではありませんが、ページ下部に簡単に紹介しておきました。よろしければご覧ください
こちらの著者プロフィールでもご覧になれます
なぜ「オイル漬け」なのか? 発想が短絡的すぎる
まず、油漬けが効果的だと考える人の、ありがちな思考パターンを分析してみましょう
オピネルの正しい使い方を知らないため、
ブレードの根本に水をかけて洗ってしまう
さらに、
オピネルが公式に推奨している、「固い時の刃の出し方」を知らない
↓
ハンドルの木材が吸湿して膨張し、刃が出なくなる
↓
これじゃダメだ、何か対策しなきゃ
そうだ!木に油を塗れば、防水になるはず!
↓
でも、ロックリングやブレードが邪魔して、塗りたいところに油を塗れないなぁ~
分解するのは難しそうだし、なんかいい方法はないかな~?
↓
そうだ、油に漬ければ、分解せずに塗れる! 油がバッチリ染み込んでいいんじゃね?
でも、下手に浸けたら、後々油でベトベトしそうでヤダな…
↓
調べてみたら乾性油が使えそう! 乾くとベトベトしないのでいいかも!
よし、オピネルを乾性油に漬け込んで、乾燥させればいいんだ。オレ、天才!
こうやってまとめてみると分かりますが、「オピネルのオイル漬け」は…
● オピネルを分解する必要がない
● 乾性油を使うので、乾燥後はベトベトしない
● 特別な道具を必要とせず、時間さえあれば誰でも簡単にできる
…というのが、ポイントになっています
ただここで、いくつかの誤りも指摘できます
● そもそもオピネルの正しい使い方を理解していない
● 乾性油に一度漬けるだけで、高い防水効果が得られると誤解している
…などです
本人は一種の「LifeHack」のつもりなのかもしれませんが、はっきり言うと底が浅すぎるのです
国内のアウトドア愛好家の層が厚く、ナイフの構造や取り扱い、木材のDIY加工(オイルフィニッシュの仕方)などに詳しい人の絶対数が多ければ、このような事態にはならなかったとは思います
オピネルの公式サイトでは、このような「オイル漬け」が言及されることはありません
なぜなら、このような「処理」は、製品の不具合やトラブルに繋がる可能性があり、全く持って推奨できないからです
● 次のページ >>
オピネルのオイル漬けは、木材表面加工として常識はずれ
筆者のアウトドア歴(主な山行・旅・キャンプ)
オートバイによる長期ツーリング旅行(テント泊)
日本一周 (約10か月半)
アメリカ大陸横断・往復(約2か月)
トレッキング、歩き旅など
ウォーカーズ・オートルート全工程踏破
(フランス・シャモニー~スイス・ツエルマット 16泊17日、水平距離200km、累積標高12,000m)
・ 西表島南西海岸トレッキング
(南風見田~鹿川~落水崎~パイミ崎~崎山湾~網取湾~サバ崎~舟浮)
・ 西表島縦断トレッキング
(仲間川展望台付近より山中に入り、マヤグスクの滝、マリュードの滝を経て浦内川に抜けるコース)
・ 知床岬トレッキング
(相泊~知床岬先端往復)
・ 礼文島歩いて一周&利尻富士登山
登山(主なもの)
ブライトホルン登頂(4164m)
・ 後立山 縦走登山
(テント泊:栂池~小蓮華山~白馬岳~唐松岳~五竜岳~鹿島槍ヶ岳~爺が岳~鳴沢岳~赤沢岳~スバリ岳~針ノ木岳~蓮華岳~針ノ木雪渓)
・ 表銀座 縦走登山
(テント泊:燕岳~大天井岳~槍ヶ岳~北穂高岳~奥穂高岳~上高地)
・ 大雪山 縦走登山
(テント泊:層雲峡~黒岳~北海岳~忠別岳~五色岳~化雲岳~ヒサゴ沼~トムラウシ山~ヒサゴ沼~化雲岳~天人峡)
長期キャンプ生活
某南の島にて海浜釣り生活
(ガス無し・電気無し・水道無し(小川有り)で、3か月x3回)
● テント宿泊日数
正確には不明ですが、長期のテント泊をカウントするだけで、軽く600日を超えています
おそらく700日前後ではないだろうかと思われます
● アウトドア調理回数
こちらも正確な回数は不明ですが、テント泊で自炊しなかったことは、数えるほどしかありません(貧乏旅行ばかりでしたので、自炊せざるを得ませんでした)
通常は一泊につき夕食+朝食の2回調理しますが、滞在型長期キャンプの場合は昼食も作ります
そうしますと、野外での調理回数は、合計1500回を超えているものと思われます
夕食時は白米を炊くことがほとんどでしたので、お米の炊飯回数も600回を越えていると思います
包丁・ナイフ・刃物 のメインページに戻る