ブライトホルン登山後記7(英語力は必要か?)


ブライトホルン登山後記7(英語力は必要か?)

語学力はあるに越したことはないのですが、実際どのくらい必要なのでしょうか?
「地図さえ読めればいいんだよ!」という方もおられると思いますが、実際のところ、気になるものだと思います

このページでは、スイスでの山小屋宿泊のケースや、キャンプ場、ドミトリー宿での出来事を参考に、わたしが英語で困ったケース、話が通じて助かったケースなどをお話したいと思います(実体験です)

単独登山とツアー登山、現地でガイドを雇う場合など、それぞれで必要な英語力は異なります

単独登山の場合

単独登山の場合、極論すれば登山口にたどり着けるだけの英語力があれば、問題ありません
最も英語力の必要ないケースです

スイスを訪れ、ツェルマットまで移動して宿泊の手配をし、クラインマッターホルンに登るまでの、交通機関や宿泊の際に、若干の英語能力が必要になる程度です(天気予報はピクトグラムで判りますし、温度も摂氏表記で日本と変わりありません)

ガイドを使わずに単独で登る場合は、自分で山と対話する能力が重要になります
遭難して救助要請する場合を除いて、英語が必要になることはほとんどどありません

わたしの場合は、アイゼンをレンタルする必要がありましたので、その際に登山用品店で英語を使って会話した程度です

スイスはざっくり分けると、フランス語圏とドイツ語圏に別れます
ツェルマットはドイツ語圏に入りますのでドイツ語が使われていますが、山岳リゾート観光地であるため、ほとんどの場所で英語が通じます

ツアー登山の場合

この場合も、あまり英語力の必要ないケースです
主だった事はすべて事前に手配済みでしょうし、そもそもツアー客に高い英語力求めてはいません
英会話があまりできなくとも、充分に登山が楽しめるよう、ツアー企画自体が調整されているものと思われます

現地でガイドを雇う場合

これが最も難しいかもしれませんね。ある程度の英語力がないと、ガイドとの意思疎通ができませんし、そもそもガイドを雇うこと自体が難しくなります

日本人ガイド、もしくは日本語の判るガイドを手配できれば一番ですが、それほど人数は多くないでしょうから、難しいと思います

山の事故の例ではありませんが、"No Jump"と"Now Jump"を聞き違えたために、バンジージャンプで死亡事故が起こった例があります(2015年・スペイン・サンタンデール橋)

身振り手振りでもある程度は通じるのですが、誤解が生じた時にそれが判らないままだと、思わぬ事故につながることがあります
ある程度英語ができる人は良いですが、ガイドを選ぶ際に「お互いの意思疎通がどれだけ可能か?」というのは、要素の一つとして考えておいた方が良いでしょう

「意思の疎通ができないので、ガイドとして雇うことができない」と言わなければならない場合もあるでしょうし、逆に
「指示が伝わらないので、ガイドとして引率できない」と言われしまうこともあるかもしれません

その場合は、そもそも「雇えない」「引率できない」というお互いの意思を使えること自体が難しいとも思います

実例:山小屋の注意書き(英語)

これは、スイスの山小屋(プラフルーリ小屋)に宿泊した際に撮影した、山小屋の注意書きです(英語部分のみ拡大抜粋)

"The water form the tap isn't drinkable"の部分は、特に重要なので、最も上に書かれています
Tapは蛇口ですので、「水道水は飲料不可です」の意味になります

山小屋の注意書き(英語)

一番上の文章のみ解説しましたが、他の注意書きについてはいかがでしょうか?
コインシャワーの使い方や、山小屋でもストックの取り扱いなど、さまざまな注意が記載されています
人によっては、理解度に差が出るところだと思います

こういった注意書きは、どこの山小屋も表現が異なるだけで似たようなものですので、一度辞書と照らし合わせて確認しておくと、他の山小屋でもおおよそ類推できるようになります
(それでも、どうしても意味の取れない単語もあると思います。それはそれで、その都度調べましょう)

ざっと読んで、すべてきちんと把握できるようであれば、(海外旅行・海外登山に必要な)としては問題ない方だと思います

山小屋やホテル、ドミトリー宿などで、このような表示の意味が不明の場合は、とりあえず画像で撮影しておいて、後で時間のある時にゆっくり辞書で確かめてみると良いです(英語の堪能な人に、画像を見せて尋ねるのも良いでしょう)
とはいえ、上記の「飲料不可」のように、重要情報はその場での把握が望ましいので、やはり英語力があるにこしたことはありません

「Cabane de Prafleuri」というのは、プラフルーリ小屋という意味です
「Cabane」はフランス語で「小屋」という意味です、発音は「カバン」に近いです
山小屋の呼称だけでも、「ここはフランス語圏なのだ」と判ります

山の場合は「モン・ブラン」や「モン・フォー」のようにモン(Mont)が付くことが多いです
尖った尖塔状の岩山の場合は、「エギーユ・ド・◯◯」だったりします

山小屋のトイレの注意書き(英語)

山小屋のトイレの注意書き(英語)
こちらは、「Europa Hutte」のトイレの注意書きです
ここに来るまでの間、4件の山小屋に宿泊していたのですが、このヨーロッパヒュッテはリゾート系というよりも、山系の山小屋という感じで、(珍しく)水洗トイレではありませんでした(それでもコインシャワーがあるところが、さすがスイスの山小屋という感じです)

こういう場合は、意味がわからなくとも人に尋ねるのが難しいものです
トイレですから(差し迫っている場合は)とりあえず用を足してから、注意書きに目を通すことになります
個室トイレで自分しかいませんので、人に尋ねるわけにもいきません
この、やや特殊なドライトイレの正しい使い方はいかなるものか?ズボンを下げた状態のままで必死に考えるしかありません

正直に言うと、「山では英語は関係ない。英語力より登山力!(山の技量と体力と地図読み力)」と言いたいところですが、このような表示を見るにつけ、やはり英語は読めて話せたほうが良いものだなと、改めて感じます

「Europa Hutte」というのは、ヨーロッパ・ヒュッテと読み、ヨーロッパ小屋という意味です
「Hutte」はドイツ語で「小屋」という意味で、英語では"hut"となります(ピザハットのハットはこの意味です。ピザ小屋であってピザ帽子ではありません)
山小屋にヒュッテと書いてあれば、「ドイツ語圏に来たなあ」と感じます
山の場合は「マッターホルン」や「ブライトホルン」のように「◯◯ホルン」となっていることが多いです

山小屋の主人の説明が聞き取れない!?

前述の、ヨーロッパヒュッテでの出来事です

朝食が終わり、食堂で落ち着いていると山小屋のご主人がなにやら話し始めました
かなり後ろの方に座っていて、声が届きにくかったのもありますが、何を言わんとしているのか、意味が判りません
「困ったなぁ」と思いましたが、それはそれ、旅先では「とにかく何とかする」しかありません
朝食の時に同じテーブルだった人に、尋ねてみました
「今の話が聞き取れなかったんだけど、何を言っていたのか教えてもらえませんか?」

数学の先生だというその人は、わたしにも判るように、やさしく的確な英語で教えてくれました

「山小屋の先の吊橋が、岩の崩落によって危険な状態になっていて、渡ることができません」
「ツェルマット方向にトレッキングする人(ヨーロッパウェグを歩く人)は、ランダの町から臨時のマイクロバスが出るので、それに乗ってテッシュアルプまで迂回すると良いです」
「バスが出るのは、◯時です」

な、な、なんという重要情報なのでしょう!

吊橋

わたしはツェルマット方向に行く予定だったのですが、何も知らずに歩いていたら、封鎖になっている吊橋の前で途方に暮れていたことでしょう

丁寧に教えてくれた数学の先生に、深くお礼を言って、バスに遅れないよう支度を始めたのでした

というわけで、個人的に英語がわからなくて最も困ったのが、この場面です


意思の疎通は、相手の言うことの予測に寄与している部分が多分にあり、その予測の範囲から大きく外れると、何を言っているのか、理解するのに時間がかかったりします

前述の「吊橋の封鎖」についても、予想だにしない不測の事態だったために、言語的な予測が追いつかず、冒頭の重要ポイントを聞き逃してしまいました
そのため、あとに続く仔細なことまで、全くわからなくなってしまいました

このように、「不測の事態」や「思わぬトラブル」に遭遇した場合は、本当の英語力が試されることになります

ちなみにわたしの英語力は、TOEICでは730点です
このぐらいの英語力になると、海外旅行や海外登山において、英語で困ることは少なくなります
聞き取れないことや意味がわからないことは、往々にしてよくあるのですが、先程のケースのように、こちらから改めて尋ねることで、別の分かりやすい表現で説明してもらうことができるのです

「基礎体力と登山の技量を高めることで、山はより楽しく登ることができる」と言いましたが、語学力を高めることは、海外旅行全体をとても楽しいものにしてくれます
今回約一ヶ月の間、一人でスイスの山々をまわっていましたが、たくさんの山小屋やキャンプ場、宿泊施設などで、様々な国の同好の士と、たくさんたくさん会話を交わしました

オランダから来た人は、「オランダは平地ばっかりで山がないから、スイスまで来ちゃうんだよ~」と言ってました
サンフランシスコから来た人は「ギメルワルドに居心地のいいドミ宿あるから、お前もすぐ来い!山の眺めが素晴らしいぞ!」と、後で連絡までしてくれました(その後、実際に行きました)

シュヴァルツホルンを降りたところで会ったスイス在住の人は、「オートルート歩き終わったら、絶対俺のとこ寄れよ、俺のヨットでレ・マン湖クルーズに連れてってやるよ」と言ってくれました(こちらも行って、本当にヨットに乗せてもらいました)

使える英語力は、体力や登山の技量と同じで、簡単に身につくものではありません
ただ、一度(ある程度のレベルまで)身につけると、本当に財産になります

個人的な感想になりますが、スイスを歩いていて様々な方々と会話を交わすうちに、「英語を勉強してて本当に良かった」と心から思いました

声高に「英語を勉強しましょう!」などと言うるもりは毛頭ありませんが、ある程度英語が使えると、海外に行った時に何倍も楽しく過ごせますよ


山に入ればこっちのもの?

私の場合は、「山に入ればこっちのもの」という感じでした
ほっとするのです もちろん、山に入ったという意味での、別の緊張感は持っていましたが、電車を乗り違えて間違った方向に行くこともないですし、強盗や盗難、詐欺被害などの人為的犯罪に合う確率が格段に下がります

地図の読み方は万国共通ですし、山でどう行動すべきかというのは、基本的に国内でも国外でも何ら変わりはないのです

事前に地図読みを行ない、地形を頭に入れて登ります

登山口のクライン・マッターホルンで下車した際は
南側がイタリア側、北側がスイス側でツェルマットの街は北側になります(山頂に登るまで見えませんが、そういう位置関係にあるというのは、頭の中に入っていなければなりません

取り付き点までのすり鉢状の氷河は、北側が低くなっており、そちら方向は危険なので、南に迂回して進みます
モンテローザは山陰にあたるため、山頂に登るか東側の稜線に出るまで見えませんが、「方角としては、こちらにモンテローザがあるはずだ」というのは、頭に入っているべきです

「標識に沿って登山道を歩いていたら、いつか山頂に着くだろう」というのは、初心者にありがちなことですが、こういった山には、道も標識もありません
そういった情報は、先に頭に入れて登ります

方角と、めぼしいランドマーク(この場合は他の山々です)との位置関係を把握して、頭に入れておく必要があります
現場で地図を取り出して確認することがありますが、それはあくまでも「確認」でしかありません(ある程度のことは、頭に入れておきます)

最も斜度のキツイところ、目印がなくて現在位置をロストしやすいエリア、エスケープルート、引き返し不可能となるポイント、安全に休憩できる場所、などなどなど、そういった情報は事前にしっかり頭に入れて登ります
そうすることで安全性が高まるだけでなく、その山に対する知見が深まり、より一層登山の楽しみが深まります

地図

スイスで山を楽しみたい方に

ブライトホルンに限らず、スイスという国は、「山好き、登山好き」にとってはたまらない場所です

技量の高い人にとっては、それぞれのレベルに応じた、最適な難易度の壁や山に事欠きません
山の初心者から中級者が、ハイキング感覚で安心して歩けるようなトレッキングコースも充実しており、素晴らしい山の眺めを楽しめます
「わたしは歩きません!」というアラブ系観光客のような方でも、様々な展望施設へ多種多様の交通機関が通じており、存分に山の景色を堪能できるのです

ヴァイスホルンと牛

わたしはスイス観光局の回し者ではありませんが、一ヶ月間の間スイスの山々を巡り歩いたおかげで、すっかりスイスが好きになってしまいました

ツィナルへ至る山道

機会があったら、一度スイスを訪れて、山々や氷河を眺めてみて下さい
山小屋に寄る機会があったら、ぜひ泊まってみて下さい

とてもいいところです

ホテルシュヴァルツホルン

スイスに行くためだけのために、お金を貯めて体力を保ち、登山の技量と語学力を高めるだけの価値があります

岩影に咲く高山植物

あなたに「山に行きたい」と思う気持ちがある限り
山はあなたを、待っています



以上で、ブライトホルン登山のページは終わりです

これらのページが、山を愛する方たちに寄与すると同時に、登山事故の防止につながれば幸いです
長文のご拝読ありがとうございました

スイスの美しい風景と山を、もっとご覧になりたい場合は、下記「ウォーカーズ・オートルート」のページをご覧ください
更新が遅々として進んでおりませんが、ぼちぼち書き続けたいと思っております

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