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ヘンケルスの鋼材「X50CrMoV15」


ヘンケルス

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ヘンケルスの使用鋼材「X50CrMoV15」

ヘンケルスのブレード鋼材は、全モデル共通となっており、「X50CrMoV15」が使用されています
炭素含有量は、0.55%とされていますので、ハイカーボンスチール(高炭素鋼)と言うこともできますが、ミドルカーボン(中炭素鋼)と言えなくもありません
(これらの閾値は厳密には定義されていないようで、ハイカーボンの最低炭素量は、0.6%以上となっていたり、0.5%であったりとさまざまです(あえて言うなら0.6%以上とする方が主流です)

HRC硬度は56~54ですので、包丁の鋼材としては、比較的柔らかめの部類に入ります
実際にセーフグリップを研いでみると、まさに「HRC55付近の硬度」という感じで、キングデラックスのような普及タイプの砥石でも、短時間で簡単に刃を付けることが可能です(ロールシャープナーに相性の良い鋼材とも言えるでしょう)

決して硬度の高い鋼材ではありませんが、その分靭性が高いというメリットがあり、刃欠けしにくいのが特徴です 英語では「Corrosion Resistance」が高いと表現されます。「耐衝撃性に富む」と表現してもよいでしょう

決して長切れする方ではありませんので、大量の食材を処理する用途向きではありませんが、きちんと研げば良く切れます。そこそこしなってくれますので、扱いも難しくありません
また、含有炭素量が中程度なため耐食性もしっかりしており、錆を気にせずラフに扱えるのも良いところです
ちなみに、同じドイツの包丁メーカーであるヴォストフ(Wusthof)も、「X50CrMoV15鋼材」を使用しています

ステンレスは錆びないと思い込んで、無茶な扱いをする人も多いですが、それは誤った観念です
錆びにくいだけであって、錆びないわけではありません

包丁のブレードに使用されるマルテンサイト系のステンレス刃物鋼は、スプーン等に使われる18-8ステンレスと比較すると、耐食性に劣ります
高炭素のステンレス刃物鋼になると、その傾向が一層顕著になります。 簡単に言うと、高級なステンレス包丁はそれほど錆に強いわけではありません(三枚合わせの包丁を除きます)

「X50CrMoV15」の製造メーカーはどこか?

X50CrMoV15」は、特定鋼材メーカーの商品名(商標)ではありません
ドイツ工業規格(DIN)の規格名で、欧州規格(EN)では「1.4116」が相当します

「X50CrMoV15」を「ドイツ製の鋼材」としているサイトも多いですが、これは必ずしも正確な表現とは言えません
確かに、発祥元はドイツなのですが、あくまでも規格名ですので、その規格基準を満たしてしまえば、ドイツに所在のないメーカーでも製造は可能なのです

具体例を挙げると、中国の鋼材メーカーなども「X50CrMoV15鋼材」を製造しています
(推測ですが)中国製のヘンケルスは、中国で製鋼されたX50CrMoV15を使用している可能性が高いです

刃持ちが良くないのは、ダメな包丁 …ではない

X50CrMoV15」は、決して硬度の高い鋼材ではありませんが、だからといって「ダメ」というわけではありません
X50CrMoV15の切れ味は、こちらのページで実際に検証していますので、興味の有る方はご覧ください
ページ冒頭でビクトリノックスのX55CrMo14(1.4110)を、ページ中頃でヘンケルスのX50CrMoV15(1.4116)を使い、切れ味の検証を行っています

上のページにあるとおり、中庸な硬度の包丁でも必用にして充分な切れ味を出すことができます

刃付けの容易さと刃持ちの良さは、二律背反

長切れする高硬度の包丁は、「汚れは付きにくいが、手洗いが必用な衣類」のようなものです
それなりに手がかかります(しかも、価格も高額です)

一方で、ヘンケルスに代表される低価格帯の包丁は…
汚れは付きやすいものの、洗濯機で洗える洋服」 のような良さがあります
ここで言う「洗濯機」は、ロールシャープナーだと思って下さい。同様に「手洗い」とは砥石で包丁を研ぐことだと捉えて下さい。

これらの特性は、二律背反のトレードオフであり、両方を満たすことはできません

砥石で研げる方は、どちらのタイプを選んでもかまわないですが、砥石を使うのは難しい(もしくは、そんなに手をかけられない)という方の場合は、ヘンケルスに代表される刃付けしやすい包丁の方がメリットを享受しやすいです

硬度低めの包丁を、一本は持っておいた方が良い理由

牛刀や三徳、ペティなど、「包丁のセット」は、すべて硬度が高めの高級包丁で揃えればよいというものではありません
低価格の包丁には「靭性が高く、刃こぼれしにくい」という、高級包丁では持ち得ないメリットがあるのです

プロの料理人の場合は、厚手の「洋出刃包丁」や、低温でも折れにくい「冷凍品専用包丁」など、刃が欠けそうな場合には専用の包丁を使い分けます
ですが、家庭でそのような専用包丁を一本一本用意するのは、お金と収納スペースの無駄というものです

家庭の場合は、(ヘンケルスに代表される)硬度は適度で、その分折れにくく、刃こぼれしにくい鋼材の包丁を使えば良いのです
万一、ヘンケルスで刃が欠けた場合でも、比較的容易に修正することができます。これも一つのメリットです
硬い鋼材は、刃こぼれを起こした場合の修整に、時間と手間がかかります(削るのに非常に時間がかかるためです)
値段の高い高級包丁を刃欠けさせることに比べたら、「安いヘンケルスで良かった!」と思えるはずです。

衣服に例えると、部屋着や作業着のような位置づけだと考えると良いでしょう
汚れてもシワになっても、気にせず雑に扱えるような服のようなものです

そういう包丁を一本持っておくだけで、高級な包丁をより大事に扱うことができますし、「良い方の包丁」を、日数を気にせずに研ぎに出すこともできるのです

【注意しましょう】
いくら折れにくいと言っても、こじるような使い方をすれば、刃は欠けるものです
比較的折れにくいと言っても、そこは刃物鋼です。絶対に「折れない・欠けない」ということはありません
あくまでも、「高級な包丁と比較した場合、相対的に刃欠けしにくい」 …というだけの話です

上記のような説明をすると、短絡的に「『ヘンケルスの鋼材は、高靱性で折れない・欠けない』って書いてたから大丈夫!」と受け取って、(限度というものを考えずに)ガンガン叩いたり、こじったりをする人が必ず出ますので、警鐘を鳴らす意味で補足しておきます

メーカー出荷時の刃付について

「レイザーエッジ」というのは、ヘンケルスの包丁に施された刃付の呼称ではありますが、これがどのような刃付で、どれくらい切れ味が良いのかについては、基本的に気にする必要はありません

なぜなら、きちんとした包丁メーカーの刃付は(たとえ低価格品であったとしても)実用に足るクオリティを持っているからです(箱出し時の切れ味が悪いと感じるのであれば、自分の好みの刃付けを、自分で行えば良いだけです)

また、メーカー出荷時の刃付というものは、言ってみれば、自動車納入時にディーラーが行う「洗車」のようなものです
納車時の車がいくらピカピカだったとしても、雨に降られたり、泥道を走れば「それで終わり」です
一度汚れてしまったら、洗車しなければ決してきれいにはなりません

汚れても、丁寧に洗車してワックスをかければ、元の状態と同程度にきれいになりますし、逆にボディの手入れを怠ると、見るも無残な状態になってしまいます

これと同じように、メーカー出荷時の刃付は、次に研ぐまでの短い命でしかありません
決して、包丁本来の性能を、長年に渡って左右するポイントではないのです
ですので、さほど重要視する必用はありません

よく「ハマグリ刃だから切れ味がスゴイ!」という宣伝文句で、素人さんをだまくらかそうとする販売業者が多いですが、そんなものは、数ヶ月使って一度研いでしまえば、「だからどうしたの?」「そんなものは、もう消えてなくなりましたよ」という感じなのです

ヘンケルスの場合は特に、中庸な硬度の鋼材を採用していますので、それほど刃持ちする方ではありません。ですので、「レイザーエッジ」がいかほどのものであろうとも、そんなに長く有効性のあるものではありません

このように、メーカー出荷時の刃付けについては、さほど気にする必用はないのです
少なくとも、必用にして充分な切れ味を持っています。「熟練職人による手研ぎ」や「水研ぎ」など、工程数が多く人件費のかかる刃付をすればするほど、逆に製品価格が上がるだけです

個人的には、刃付は甘い状態にして、その分製品価格を下げて欲しいくらいですが、メーカー出荷時の切れ味で良否を決めつけ、それを絶対評価としてレビュー投稿するユーザーが多いため、近年ではメーカー側も刃付けに高度な技術と手間暇をかけています(製品評価に直結するため)
この現状は、何とからならないものかと思うのですが、恐らくなんともなりません(この傾向は継続するものと思われます)

【閑話休題】
おすすめ包丁を選ぶ!」といったテスト企画などで、包丁を多数集めて一斉に切り比べをしていたりしますが、あれはあまり意味がありません(少なくとも、正しく評価できているとは思えません)

トヨタとホンダ、日産、マツダの新車を並べて、「どの車が、最もピカピカなのかコンテスト」をやっているようなものです

そういう場所に審査員として参加しているのは、名前を聞いたこともない料理研究家や、編集員であることがほとんどです
料理の専門家と刃物の専門家は、全く持って似て非なるものです

刃物に対する造詣が深くないため、エッジの鋭さ、刃のかかりの良さ、刃抜けの良さなどを、すべてごっちゃにして、単に「切れ味の良さ」としか捉えていないことがほとんどです

そういうレベルの方が、それぞれの包丁の特徴をしっかりと見極め、正しく判断できるとは到底思えません

包丁の本質や評価というものは、「切る、刃がなまる、研いで刃を付ける」を繰り返して、ようやく判ってくるものです

切れ味に関しては、最低でも砥石を何本か使い切った程度の「研ぎ」の経験がある方が、実際に研いで刃を付けてみて、どれだけの刃が付くのか、どの程度刃付けが容易か、そういった要素を踏まえて評価を行うべきです

刃(鋼材)の特徴は、砥石に当てたときに最もよく判ります
単にメーカー出荷時の刃を切り比べるのは、片手落ちでしかなく、たいした意味は持ちえません(何の参考にもなりません)

● 次のページ:樹脂ハンドルは、どれも同じではない(ヘンケルスの樹脂ハンドル一覧と素材解説)

おすすめの包丁(外観より切れ味重視でランキング)

家庭用のおすすめ包丁(安い価格で、最良の切れ味を)

ダマスカス包丁について(本当におすすめ?)

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ヘンケルス包丁の選び方(全モデル解説) 目次

  1. ヘンケルス包丁の選び方 - 鋼材で選ぶ必要はない
  2. ヘンケルスの鋼材 - 特殊ステンレス刃物鋼とは?
  3. 樹脂ハンドルは、どれも同じではない
  4. ケルン - (第6位)安っぽいPPハンドル
  5. HIスタイル エリート - (第5位)コスパ悪すぎ
  6. HIスタイル - (第4位)変なハンドル
  7. セーフグリップ - (第3位)滑りにくいムチムチ素材
  8. ベルリン - (第2位)ヘンケルスらしい
  9. ロストフライ - (第1位)定番ロングセラー
  10. 結論1(樹脂ハンドル) - ヘンケルスおすすめ包丁ランキング
  11. ケルンM(第4位) - すべてがパッとしない
  12. HIユニティ デイリー - (第3位)ツルピカ溝付で良いのか?
  13. ミラノα(第2位)弱点が少ない
  14. MODERNIST - (第1位)国内販売が望まれる
  15. 結論2(オールステンレス) - ヘンケルスおすすめ包丁ランキング