「オピネルのオイル漬け」は、最悪のカスタム


オピネルのオイル漬けは、やってはダメ!

「オピネルを買ったので、亜麻仁油に漬けてみたよ!」
 …といった記事を、ネット上で数多く見かけますが、 安易に真似をするのはやめましょう

「オピネルを買ったら、すぐ行うべき儀式」とか、「オピネルの定番カスタム」など、あたかも重要かつ必須なメンテナンスのように書かれていますが、決してそんな事はありません

「そんなデタラメ書いたらダメでしょうに…」と思います

油漬けを紹介している方々は、オピネルの使い方だけでなく、木材加工に対する知識が不十分なため、「乾燥と切削を終え、寸法を微調整済みのハンドル材に、油をどっぷり浸透させる」という事が、何を意味するかを判っていないのです
(何も知らないというのは、本当に怖いです)
オピネルのオイル漬けは、逆にブレードが開かなくなる事があります

● 合わせて読みたい1:オピネルの刃が出ない時の対処法(サヴォワ打ち・コンコンとは?)

● 合わせて読みたい2:オピネルの扱い方と洗い方(刃の固着を防ぐ使い方)

● 合わせて読みたい3:オピネルの隙間を削るのは、最後の手段

● 人気のページ1:オピネル 鏡面仕上げ

● 人気のページ2:オピネルの分解

オピネルの「オイル漬け」(油漬け)とは?

「オイル漬け」は、「油漬け」や「オイル加工」とも呼ばれ、個人ブログなどで盛んに紹介されています

オピネルのハンドルが吸水(吸湿)すると、木製の柄が膨張し、刃が出なくなる(ブレードの開閉が固くなる)のですが、その対策として施工されているものです

もちろん、このようなカスタムは、あくまでも個人の方が実施しているものであり、オピネルが公式に推奨しているものではありません

ブレードの開閉抵抗は、いくらか改善されることが期待できますが、吸湿対策としては、たいした効果が無いばかりか、油が浸透するにつれて木材が膨張し、かえってブレードが出にくくなることもあります

わたしはオピネルを使い始めて30年近くになりますが、「このような安易なメンテナンスは、間違っており、やってはいけない」と考えます

乾性油に漬けても、たいした防水効果は期待できない

亜麻仁油に代表される乾性油は、塗膜を形成するタイプの塗材ではなく、木材表面に薄く染み込むことによって、穏やかな保護効果を得るものです

木の目地や導管を埋めるような効果はありませんので、木の質感が維持されやすく、木材本来が持っている調湿作用も、そのままの状態に保たれます

そのため、乾性油を塗ったとしても木材の吸湿を止めることはできません
防水や耐水、吸湿防止という意味では、大きな効果は期待できないのです

どうしても木材表面の防水力を高めたい場合は、蜜蝋ワックス等を塗り込む方が適しています
乾性油に漬けて防水効果を狙うというのは、油脂類の選択と、施工方法の両面において間違っています

ウレタン系塗料などを使用して、木材表面に堅牢な塗膜を作ることができれば、かなり高い防水効果が見込まれますが、これらは簡単な施工とは言えませんし、塗膜の厚みの分だけブレード取付部の隙間が狭くなるため、ブレードの動きが阻害されることになり、現実的ではありません

乾性油を選択しているのは、おそらく「油ならどれでも防水効果があるだろうし、乾性油ならベタつかない」という安易な発想によるものでしょうが、これでは大した効果が見込めないばかりか、漬けすぎによって木材が膨張したり、ブレードが固着する恐れもあり、リスクが高すぎます

木工用ワックスは半固形ですので、細部まで塗り込むためには オピネルを分解する必要があります
それが面倒なので、 亜麻仁油 などの乾性油にドブ漬けしているのでしょうが、「素人考えにも程がある」と言わざるを得ません

オピネルを分解せずとも、ハンドルの小口部分などに 木工用の蜜蝋ワックス を塗り込むだけで、充分な撥水効果が期待でき、安全に施工できます(奥まった部分は綿棒で、細かい隙間は歯ブラシの先に極少量付けて塗り込んでやると効果的です)

オイルに漬けすぎると、思わぬトラブルが…

オピネルを長時間オイル漬けにすると、ハンドル部分の木材が油を吸収して膨張し、ブレードを出しにくくなります
酷い場合は、ピボット部分が固着して、刃が出なくなります

オイルを浸透させる時間が短時間であれば、木材に影響も少なく、ブレード開閉に支障ないと思われますが、その場合は防水効果も大したものではなく、実際には気休め程度にしかならないでしょう

「ハンドルが水を吸って膨張すると、ブレードが出なくなるので、油で防水性を高めよう」 …という考えは、分からないでもありません
刃が出なくなるのは、誰もが一度は体験することです
ですが、塗布ならまだ良いとしても、「油にドブ漬け」というのは、おかしいとしか言いようがありません
逆に、オイルを吸って木材が膨張するということに、考えが至らないのでしょうか?

水分を吸ったのであれば、乾燥も難しくなく、日数の経過とともに確実に抜けてゆき、元の状態に戻ります

しかし油の場合は、深部に浸透するとなかなか乾燥せず、長期間膨張したままになることが考えられます(もちろん、元の状態に戻すこともできません)

また、ブレードのピボット部がオイルで固着する場合もあります。膨張と固着が重なると、もうどうしようもありません
こうなるともう、「オピネルのカスタムとしては最悪で、逆に壊している」といってよいでしょう

オピネルを油漬けして削るのは、最悪のカスタムです

乾性油が乾く仕組みを知っていれば、オイル漬けは選択しない

亜麻仁油やクルミ油などの乾性油は、「乾く油」として知られていますが、水が蒸発して乾くのとは、根本的に違う仕組みで乾燥します

乾性油が乾くのは、オイルが気化しているのではなく、酸化による重合反応によって分子結合が発生し、固化・乾燥するものです
つまり乾性油が乾くには、空気中の酸素に触れる必要があるのです

木材の深部まで乾性油を浸透させてしまうと、奥深くまで浸透したオイルは、直接大気と接触することができないため、酸化のスピードが非常に遅くなります

深部に滞留したオイルは、かなり長い時間をかけて乾燥していくものと思われますが、これは、別の見方をすれば、いつまで経っても内部の油が安定しないため、ハンドル材の寸法が長期間に渡って狂い続けることを意味します(乾燥に従って、少しずつ収縮していく)

当然ながら、膨張した状態で隙間を削って調整したハンドルは、乾燥が進むにつれ、年々徐々に収縮していていくことになります
いつまで経ってもハンドル材の寸法が安定しないため、その都度微調整を繰り返す必要があり、全くもって使用に耐えません

このように、酸化硬化型のオイルを木材内部に浸透させるのは、非常に愚かな行為です

「壊れてもいいから、それでもカスタムしたい!」というのであればよいかもしれませんが、間違ってもおすすめすることはできません

美しくカスタムされたオピネルのブレード。オピネルのカスタムは美しく仕上げましょう

なぜ「オイル漬け」なのか? 発想が短絡的すぎる

まず、油漬けが効果的だと考える人の、ありがちな思考パターンを分析してみましょう

 オピネルの正しい使い方を知らないため、ブレードの根本に水をかけて洗ってしまう
 さらに、公式推奨の刃を出す方法を知らない(サヴォワ打ちによる刃の出し方)
  ↓
 ハンドルの木材が吸湿して膨張し、刃が出なくなる
  ↓
 これじゃダメだ、何か対策しなきゃ
 そうだ!木に油を塗れば、防水になるはず!
  ↓
 でも、ロックリングやブレードが邪魔して、塗りたいところに油を塗れないなぁ~
 分解するのは難しそうだし、なんかいい方法はないかな~?
  ↓
 そうだ、油に漬ければ、分解せずに塗れる! 油がバッチリ染み込んでいいんじゃね?
 でも、下手に浸けたら、後々油でベトベトしそうでヤダな…
  ↓
 調べてみたら乾性油が使えそう! 乾くとベトベトしないのでいいかも!
 よし、オピネルを乾性油に漬け込んで、乾燥させればいいんだ。オレ、天才!


こうやってまとめてみると分かりますが、「オピネルのオイル漬け」は…
 ● オピネルを分解する必要がない
 ● 乾性油を使うので、乾燥後はベトベトしない
 ● 特別な道具を必要とせず、誰でも簡単にできる
 …というのが、ポイントになっています

ただここで、いくつかの誤りも指摘できます
 ● そもそもオピネルの正しい使い方を理解していない
 ● 乾性油に高い防水効果があると誤解している
 …などです

やっているのは、アウトドア経験の浅いブロガーばかり

そもそも油漬けをやっているのは、ほとんどが「ナイフの初心者です」

作業対象として紹介されているオピネルも、買ったばかりのピカピカのものばかりで、わたしのように旧タイプのオピネルを使っているような、年季の入ったオピネルユーザーではありません

つまりオイル漬けを紹介している方々は、さまざまなナイフを使いこなしてきたアウトドア愛好家ではなく、生半可な知識で、アクセス目的の記事を書き散らかしているだけなのです
乾性油の自然発火防止措置についても、何ら言及のないページも多く、実にいい加減です

オピネルユーザーなら必ず習得すべき手法である、 「刃が出ない時の対処法」についても、全く記載がないサイトが多く、「そもそも正しい使用法を知らないので、安易な油漬けに走っている」としか思えません
さらにはどのサイトも、判で押したように、「オイル漬けと黒錆処理」ばかりで、「人がやっているのを真似してるだけ」でしかありません

ちなみに、"OPINEL OIL"で英語検索をかけてみるとわかりますが、「油漬け」のような、誤ったオピネルのメンテナンス方法が流布されているのは、日本国内のみです
「海外が正しい」とは申しませんが、これには大笑いです


当然ながら、オピネルの公式サイトや、アウトドア専門誌などで、このような「オイル漬け」が取り上げられることはありません。なぜなら、このような「処理」は、トラブルに繋がる可能性があり、推奨できないからです

わたしも実際にオピネルを2本所有していますが、オイル漬けをするつもりもありませんし、必要性も感じません(使い方次第です)
(ちなみに、カーボンスチールのものを90年代初頭から、ステンレスのフィレナイフは2008年頃から使用していますので、オピネル歴はそこそこ長い方だと思います)

ちなみに、わたしのアウトドア経験はたいしたものではありませんが、簡単に紹介しておきます
テントで寝た日数は、多すぎてカウントできませんが、総計で1年を超えています
期間長めの野宿テント旅としては、日本一周北米大陸横断(往復)スイスのオートルートなどがあります(リンク先が執筆途中の未完成ばかりでスイマセン)
人のあまり行かないところとしては、知床半島先端トレッキングや、西表島の南風見田~船浮ルートなどに行っています(一般的には「やや危険」とされているルートですので、安易に真似をしてはいけません)

電気、ガス、水道のない場所で数ヶ月間、テントに滞在して釣りと自然生活を楽しんだことも何度かやっています
山の技量は大したことないのですが、それでも好きです。標高高めの山としては、ブライトホルン(4000m峰)に登ったことがあります

木材表面加工として、オイル漬けは考えられない施工方法

木材の表面加工において、乾性油を主体としたワニスを用いてオイルフィニッシュするというのは、定番の仕上げ方法の一つです
ですがこれは、原則として、薄く塗った後に拭き取って乾燥させたり、オイルを含ませた布で刷り込んで仕上げるものです

一度に厚塗りするのはもっての外で、薄塗りと乾燥を繰り返して仕上げることが重要です
厚塗りしてしまうと、木材に浸透した深部の状態がなかなか安定せず、表面のみが乾燥して、ろくな仕上がりにならないのです

「オイル漬け」が、厚塗りよりもさらに悪い、最悪の施工であることは言うまでもないでしょう
なぜにこのような愚行を行うのか? そもそも一体、誰が初めたのか? …と、本当に思います

ナイフのハンドル制作工程から見ても、二重の意味でありえない

ナイフのハンドル材において、耐水性が高い素材としては、「マイカルタ」「G10」「スタビライズドウッド」等が挙げられます

いずれも、フェノール樹脂などを浸透させて硬化させた素材なのですが、「マイカルタ」は、キャンバス地やリネン布、紙などを基材とし、「G10」はグラスファイバーを基材としています(一種のFRPとも言えます)
スタビライズドウッドは、木材(角材)が基材なのですが、これは深部まで均一に浸透させるため、真空中の容器に入れて、樹脂浸透・硬化させています

1:浸透させる場合は、二液硬化型である必要がある

これらのハンドル材はいずれも、「基材」に対して「樹脂」を浸透させていますが、共通するのは、二液硬化型樹脂を使用しているところです
つまり、硬化の際に空気中の酸素に依存していないのです

これは、深部まで均一に完全硬化させるためには、不可欠な要素です
アマニ油のような、酸化によって乾燥するタイプの液体を、厚みのある木材に長時間浸透させるというのは、ナイフ制作に携わる方からすると、ありえないことです

表面への塗布と乾燥を繰り返すのであれば、問題ない行為なのですが、長時間ドブ漬けにするのは、完全に間違っているとしか言いようがありません

2:浸透硬化後の形状加工がセオリー、形状加工後の深部浸透は、ありえない

また、これらの素材は、角材や板材の状態で浸透を行い、硬化して形状に狂いが生じなくなった後、ハンドル形状に切削加工されるのが普通です

ハンドル形状の整形後に液体を浸透させると、せっかく精度良く削り出した寸法が、大きく歪んでしまう可能性があります。そんなことをやるのは愚かしい行為です

このように、ナイフ制作の視点から、「オピネルのオイル漬け」を見た場合…
「乾燥に酸素が必要なオイルを浸透させている」(深部の乾燥が難しい)ということと
「形状加工後に浸透を行っている」(浸透によって寸法が狂う)という、二重の意味でありえない行為になります

油漬けの一体どこが「オピネルの儀式」で、「定番カスタム」なのでしょうか? 開いた口が塞がりません

今回はナイフハンドル材の例として、浸透硬化型の素材を挙げましたが、「ナチュラルウッド」も未だに使用されています
メーカー製品に採用されることは少なくなりましたが、個人制作のナイフにおいては、未だに「ナチュラルウッド」が使われることも多いものです

ナチュラルウッドのハンドル材の場合は、形状加工後にオイルフィニッシュするのが定番ですが、この場合は、油を薄く塗布して拭き取り、乾燥させることを繰り返して仕上げられます
直接オイルに漬け込んでしまうと、油が吸収されることによって板材が反ったり、膨張して寸法が合わなくなるばかりでなく、深部に浸透した油のおかげで長期に渡ってハンドル材が安定せず、さまざまな弊害を引き起こします

当然ながら、ナイフ制作に携わる方で、そのような誤った処理をする人はおりません

ピカピカにカスタムしたオピネル

「オピネルのオイル漬け(油漬け)」のまとめ

このように、「オピネルのオイル漬け」は、やってはいけないメンテナンスです

1:発想自体が安易であり、2:そもそも効果が期待できず、3:不具合の原因となりかねず、4:木材の表面仕上げとして間違っており、5:ナイフハンドル制作の観点からも、誤った施工です

オピネルは、良くも悪くも伝統刃物ですので、設計も昔のままになっており、決して耐水性が高いナイフではありません

ですが、 柄の部分に水分がかからないようにして使えば、快適に使用できますし、それでも吸湿してしまい、刃が出にくくなった場合は、 柄の先端を固いものにコンコンと打ち付けて刃先を出し、ブレードを指で摘んで開けば良いだけです

それで充分です。オピネルはそういうものなのです
そうやって100年以上、変わらずにやってきたのです

少なくとも80年代の頃は、オイル漬けなどしている人は皆無でしたし、それでも皆、問題なくオピネルを使っていました

「油漬け」というのは、おそらく近年流行りだしたのだろうとは思いますが、安易なカスタムは、オピネル本来の性能を損ないます
どうしても、何か対策をしたいのであれば、上記で説明したように、木工用の蜜蝋ワックスを薄く塗り込んでやればよいのです

オピネルは柄が木製ですので、他にはない風情があり、お洒落で個性的なナイフです
あまり加工しすぎると、木の質感が失われ、却ってチープな感じになってしまうこともあります。できれば、オピネル本来の良さを尊重して、大切に使いましょう

ナイフの選択についてですが、もしも水場で使うことが多いようであれば、最初からオピネルではなく、より耐水性が高く、使用後にザブザブ洗えるようなナイフを選択すべきです

実際わたしも、釣りで魚をさばく際や、キャンプの場合はガーバーのフィレナイフ(ゴム引き樹脂ハンドルのシースナイフ)を使っています
重量の軽さを優先したい場合は、登山用ナイフとしてカーショウ1710を使用しています(実測25gの軽量ナイフです)


 ●関連ページ:オピネル 鏡面仕上げ

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